抱擁
きよらかなままで、れいとうすいみん、している。夜になれば、むかえにくる、おおかみが、町で唯一、二十四時間営業をしているコンビニエンスストアを、一瞥して、すたすたと歩いてゆく。気高い、というのか、にんげんの、二十四時間、あかりがついていないと不安な、さびしいきもちを、すこしばかり馬鹿にしているのか、よくわからないのだが、ぼくはおおかみの、物言わぬ背中が好きである。
巣では、ただ、寄り添い眠るだけの、ぼくら。
ネオがあいしてやまないのが、ビスケットサンド。あいだに、バニラアイスクリームをはさんだやつ。
金糸雀がすきなのが、水ようかん。夏の、燕の家の冷蔵庫に、かならずはいっている。常備品。
こわいものは、たくさんあって、でも、おおかみのかたわらで、おおかみと眠ることで、おなじ夢をみれば、なにもこわくなかった。いずれは、れいとうすいみんの運命にある、ぼくら。星はときどき、こどもみたいに癇癪をおこして、泣くのだ。泣いて、あばれて、我を忘れた星は、いきているもののことなんて、かんがえていない。星にとって、じぶんのからだでいきているものは、きっと、すべて、細胞みたいな感覚なのだ。にんげん。どうぶつ。植物も。目には見えないもの。
ネオと、金糸雀のことを想いながらでは、おおかみのみている夢は、同期できない。エラーが発生する。コンピューターじみているのだ。こわいから、ぼくは、おおかみといるときは、ネオと、金糸雀のことを、あたまから追い出す。いま、ぼくのなかにいるのは、おおかみだけ、と念じて、おおかみだけ、おおかみだけ、と繰り返しているあいだに、わずかに、下腹部のあたりが熱を持って、おおかみの一部を、自らの肉でもって抱きしめたいと、ぼくは思う。
抱擁