七月の夜の精
かわいいひとびと。夜を、淡いグリーンのワンピースを着て、歩き舞う。おんなのこたちの、長い髪とともに揺れる、花。ときどき、花びらが落ちる。ひらり、と。
わたしと、ノア。呼吸の間隔がおなじで、身長は等しく、やさしさはそこそこに、いきているなかで堆積していったかなしみが、ふいに決壊しては、無垢なきもちで、だれかをきずつけることがある。きれいなものが、みんな、すべて、最初から最後まで、外側から内側まで、きれいなままでいられるわけがないと、ノアは云う。うまれてからしぬまでの、不変は、アンドロイドと無機物の特権なのだと。わたしは、そういうのはどうでもいいから、きれいなものになりたかったし、だれもきずつけないにんげんになりたかった。午后八時をまえに、シャットダウンするための準備をはじめる、街で、閉店を促す音楽を聴きながら、わたしと、ノアは、ファミレスの窓から、軽やかに跳ね、きまぐれに一回転し、踊るように歩く、おんなのこたちをみている。可憐、という言葉が、実にしっくりくる、彼女たちは、街の灯りに呼応して、ひとり、またひとりと消えてゆくのだ。食べかけのハンバーグは、すっかり冷たくなっていた。
七月の夜の精