三題噺「変態」「家畜」「神様」

「おい、変態」
 目つきの鋭い男が、獲物を襲う獣のように闘争心を剥き出しにして、隣の優男に話しかける。
「なんだい、金の亡者?」
 校内のほとんどの女子が振り返ると思われる顔を持つ美男子は、そんな闘争心のオーラをものともせず、平然と答えた。
「初めに言っとくが、俺はお前がどうなろうとしったこっちゃない」
 だがな、と野獣のような男は続けた。
「あの野郎だけは、俺のためにも生きてもらわなきゃ困るわけよ」
「へえ、それは奇遇だね。僕もその意見には同感だよ」
 校内一のイケメンは、わずかに笑う。
「彼は僕の人生に必要な人間なんだ。彼との触れ合いが僕の身体を熱くさせるんだ。そう! これが、愛!」
 そして、突然その変態性を目覚めさせた。
「……てめえがそこまでの変態だとは、さすがの俺でも読みきれなかったぜ」
 場にただよっていた闘争心のオーラが消える。
「その目! 良い! あふぅうう!!」
 全身を震わせている変態を尻目に、野獣――坂上金之助は目の前にそびえる廃校舎を見上げた。

「ここに、彼がいるわけだね」
 さっきまでの変態性を微塵も感じさせず、優男が言った。
「へ、同感だ。神様とやらにしてはとんだ悪趣味だな」
 坂上は鋭い目を少し細めると、喉を鳴らすように笑う。
「ところで、君はどうして彼を助けに来たんだい?」
「へ、そんなこと決まってるだろう」
 そう言うと、坂上は一人の兄として、何か恐ろしいことを思い出して身震いした。
「……あの野郎を助けないと、妹に俺が殺されるからだ」
 先ほどまでの闘争心など微塵も残さず、坂上はヘタレに変貌する。
「俺の野望のためにも、ここで死ぬわけにはいかねぇんだよ!! うわぁああ!!」
「……ふっ、金の亡者だと思っていたらなんだ、妹の家畜だったとはね」
 トラウマに震え上がっている家畜を置いて、イケメン――松風京四郎は目の前の廃校舎へと足を踏み出した。

「……はぁ」
「これで78回目よ。いい加減に諦めたら?」
 司の横で小柄な少女が呆れる。
「この縄は能力で出来ているんだから、あんたなんかに切れるわけがないでしょ」
「まあ、そうなんだけどさ」
 司は周りを見渡す。
「こんなに刃物があるなら、どれか一つぐらいって思うじゃないか」
 薄暗い教室の中心には直径1メートルの鉄球。そして、それを囲むような形でありとあらゆる刃物が刺さっている。まるで針のむしろに巻かれたような――そんな錯覚を起こさせるほどに、数え切れないほどの刃が不気味な存在感を持っていた。
 そんな中、司と少女と鉄球と、それらをつなぐ鎖だけがその世界から切り離されていた。
「これで、どうだぁあ!」
 鋭く短い金属音と、甲高く響く金属音がほぼ同時に響く。
「……駄目か」
 折れた刃物を手に、司がつぶやく。
「ね。無駄よ、無駄」
 そして、少女はふっと沈んだ表情を見せる。
「……お姉ちゃんには誰も叶わないのよ」
 それを見て、司は吐き捨てるように言った。
「……クソッ! あの異常者め」

「私は異常者ではないよ」

 条件反射的に顔を上げる。その横を何かが通り過ぎて、鉄球にぶつかる。驚いて振り向いた司は、それを見た。
 坂上金之助と松風京四郎が、ぼろきれのように転がった。
「君を苦しめるための、お土産だよ。」
 黒スーツに黒髪の女が、教室の入り口にいつの間にか立っていた。
「苦しんでいるかい、少年?」
 カタルシス中毒者にして司たちの校長――海堂入鹿が無邪気な笑みを浮かべた。

三題噺「変態」「家畜」「神様」

三題噺「変態」「家畜」「神様」

「おい、変態」 目つきの鋭い男が、獲物を襲う獣のように闘争心を剥き出しにして、隣の優男に話しかける。 「なんだい、金の亡者?」 校内のほとんどの女子が振り返ると思われる顔を持つ美男子は、そんな闘争心のオーラをものともせず、平然と答えた。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-04-14

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