夏の街
永久的に、夏、という季節に囚われた街で、氷の冷たさだけが唯一、生きていることを実感させてくれる。直截に、皮膚感覚を刺激して、ああ、まだ、ぼくらは、血の通ってない人形に成り果てたわけではないのだと、おしえてくれるのだ。だれにでもやさしいあのひとが、いつか、たったひとりだけのものになることを、おそれている。不確定な未来を想像して、ばかみたいにおちこんでいる。息をするみたいに、恋をするひとがいて、そのひとの、恋愛を司る神経というか、器官というか、そもそも、感情的なものは目に見えないものとして、肉体の、もしかしたら細胞ひとつひとつに宿っているかもしれない、なんか、小学生が抱くみたいな、人体のふしぎを想って、だれかを好きになるという行為(こうい?)をより複雑にしている、自覚はあった。
きみが微笑っている。
白い光は、まぎれもなく夏の陽射しだった。皮膚組織をつらぬき、血肉を焼くような、そして、骨をも焦がすような、熱の光線。ソフトクリームに対して、ときどき、異常なほどの執着をみせた、きみが、夏のなかにいる。アイスクリームじゃなくて、ソフトクリームが食べたいのだという訴えを、然してどちらにも興味のないひとは、一緒くたにして、その扱いに、きみはかなしんでいた。夏の太陽光は殺人的で、ぼくらがにんげんであることの意識(無意識)を、殲滅してゆくみたいに、容赦ない。神聖な場所で、やさしいあのひとが穢れた、あの七月の夜は、ぜんぶ悪い夢だったのだと、どうか神さま、言ってくれ。
夏の街