明け昏れ

藤月犀窩

へや中に蜘蛛の巣が張っていてうごけないけど、ぜんぶ聞こえている 蝶の夢がみたい。 死骸の澱で天井を見上げる。翅の千切れた天使など流されていくのが、日に照らされてまぶしいです 地獄の底に垂らされる糸ってこれのことなんだろうと、なんどもなんどもなんども彼女の手を、引っ張ったら、ばらばらになって落ちてきちゃって、それを抱きしめてまた眠るんです。六畳にはまばたきが散乱、きらきらと、昔の話を囁くから もううるさくないように毎日一個ずつそれを切り分けて刺して口に運ぶ しあわせな暮らし 眼薬をすこしのんで、寝息をたてて、しあわせに暮らす。 真っ白な冷蔵庫が怖い。閉じているとき真っくらやみなのが怖い、から開けておいてって言ったのに、 ひらいてるあいだはあかるいの、冷たくないので、あの暮らしを思い出さなくて済みます 白い食卓とかテレビの音とかなにもかも 煩い な 居なくなってくれ 。 目を瞑ってフォークで刺して口に運ぶ 土の味がする 何回かのお祈り。それから、心臓を仕舞い込んで、海のない街へ蜘蛛が出掛けていくのを、ぼくはずっとずっとずっと見送っている。ずっとうごけない、真っ白なひかりの前から。今日もあたらしい生活の音が近づいて遠ざかる、汽車が通るときの夏風、ぼくの前髪を撫でて呼んでく。

明け昏れ

明け昏れ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted