イケボカフェに夏が来たら、やっぱりややこしかった話 (2:1)

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『イケボカフェに夏が来たら、やっぱりややこしかった話』

オーナー

◆◆◆

オーナー:ああ、無理! もうやだー!

弟:よし! リーチ!

兄:ふーん?

弟:今回は勝たせてもらうぜ、兄貴!

兄:どうかな?

オーナー:なんでなんで、夏なんて来るのよー!

兄:それだ、ロン! 

弟:げ、役満(やくまん)! うっわ、なんで!

兄:捨て牌からだいたい見当はついてた。お前は筋が読みやすすぎる。

弟:兄貴が強すぎなんだって!

オーナー:って、麻雀やってんじゃないわよ! うるさいわねぇ!

兄:オーナーの方がうるさいです。

弟:ああ、すみません、オーナーもやりますか?

オーナー:やるかっ!

弟:初心者でも教えますよ?

オーナー:はー? 七対子(ちーといつ)の申し子と言われた私を舐めるんじゃないわよ! 
……って、そうじゃない! いつもながら会話が成立しないわね、君たち兄弟は! 誰よこんな奴ら採用したの。

兄:オーナーです。

弟:オーナーです。

オーナー:そうよ! 私よ! 今や2人ともこのイケボカフェの人気キャストよ! 私の見る目に間違いないわよ! ああ、私って仕事のできる女!

兄:じゃあいいじゃないですか。

オーナー:そうか、いいのか……

弟:兄貴、次、三麻(さんま)にする?

オーナー:じゃなくて! 私は悩んでるのよ?

兄:大変ですね、がんばってください。

弟:オーナー、ファイト!

オーナー:……何を悩んでいるのか、聞いてあげようとは思わないわけ?

兄:はい

弟:はい

オーナー:もういい、あなたたちを頼ろうとした私がバカだったわ。ああ、本当にどうしよう……

弟:カフェの夏のイベントの件でしょ?

オーナー:知ってるんじゃん……。
そうよ、夏限定メニューはねー、ハル君がシャーベットとか冷製パスタとか考えてくれていい感じなんだけど……
……しかし、ハル君優秀すぎる。調理師免許まで持ってたなんて……ああ、まじかっこいい。女じゃなかったら結婚したい。

兄:そういえば、今日はハルいないんですね。

オーナー:そう、大人の事情で今日はシフト入ってないのよ。

弟:何ですか大人の事情って。そういえば、ショータ君もいないですね。最近、夏休みだからってしょっちゅう遊びに来てたのに。

オーナー:あのガキ! 勝手にやってきて勝手に接客していくのよね! すっかりメニュー覚えて注文まで取り始めて……何考えてるのかしら!

兄:ショータ目当ての客も多いですね。

オーナー:そうなのよ、ショタボイスが聴けるって遠くからくる客まで……私には理解不能よ、あんなクソガキの何がいいんだか。

弟:ショータ君がいないのも大人の事情ですか?

オーナー:ええ、おばあちゃんの家に遊びに行ってもらったわ。……ってそんなことはどうでもよくて……何の話だっけ?

弟:夏のイベントでしょ。

オーナー:そうなのよ! イケボカフェの夏イベントって何すればいいの!? もうわかんない!

兄:やっぱり次は、四麻(よんま)にしないか?

オーナー:興味持って!? 売り上げはあななたちの時給にも影響するのよ!

弟:分かりました、ちょっとだけ興味を持ちます!

オーナー:うん、いっぱい持って? 多いに持って? というわけで、この台詞読んで?

兄:なんですかこれ?

弟:別に、いいですけど。

兄:じゃ行きますね。
「(煙草の煙を吐く)なるほどなー……
自分から誘ってくるだけあって、悪くはなかった。
その顔とその体で何人の男と女をたらしこんだ? ん?
だが残念だったな。俺にはその手管(てくだ)は通用しない。
俺にまた抱かれたければ、せいぜいいい子にしてるんだな。
薄汚い子猫め」

弟:
「ねえ、そんなこと言って、本当は俺にハマりそうで怖いんじゃない?
ほんと? じゃあサングラス外してよ。
こっちみてよ。ねえ。
(囁くように)本当はもう、また俺が欲しくなってるでしょ?
ああ、その顔好きだなぁ……いらだってる顔。興奮する。
ふふふ、大丈夫。きっとすぐに抱かせてくださいって、お願いにくるから。
いいよ、抱かせてあげる。
俺に溺れて、どこまでも深く落ちていく人を見るの、俺、だぁいすき」

オーナー:……はぁーーーー!!……

兄:あ、また始まった。

弟:いつものやつだねぇ。

オーナー:はぁ、いい……どうしてこの兄弟はこんなに声がいいの! 性格最悪なのに! 萌えてしまう自分が悲しい! 昨今のアウトローブームに便乗して書いた台詞がこんなにハマるなんて! あああ……!(ひとしきり悶える)
(冷静になって)……よし、イケボが補給できて、ちょっとだけやる気が出たわ。
そしてわかったの! 夏といえばBLだって!

弟:それ冬にも言ってませんでした?

兄:春にも言ってました。

オーナー:というわけで、夏ならではのBLをイベントの中心にするわ!
たとえば、そうね、……ちょっとこれ読んでみて。

兄:まだ勤務時間前です。

弟:俺たち、クーラー効いてて飲み物タダな環境でゲームしに来ただけなんですけど。

オーナー:こいつら……ぐぅ……時給出すわ。

兄:やります。

弟:やります。

オーナー:こいつらイケボじゃなかったら叩き出してやるのに……

兄:これですね……

オーナー:どーん! どーん!

弟:何してるんですか?

オーナー:いや、この場面花火が上がってるんだけど、花火のBGMないから。代わりに……

兄:やりづらいんでやめてもらっていいですか?

オーナー:え、そう? じゃあカウントだけするね、3、2、1、アクト!

(以下劇中劇)

兄:始まったな。

弟:うん

兄:見ないのか?

弟:あとで見る。

兄:あっそ。

弟:……一緒に見るはずだったのに。

兄:ああ。

弟:秋になったら紅葉(こうよう)、冬になったら雪を見に行こうって約束したのに。

兄:ああ。

弟:別れようとか急に言われたってさ。

兄:ああ。

弟:悪い。

兄:いや。

弟:……きれいだな。

兄:ああ。

弟:……なぁ。

兄:ん?

弟:そっちはどうなの?

兄:は?

弟:恋愛。

兄:ないよ。

弟:なんで?

兄:最初から叶わない想いだってある。

弟:(笑う)なんだよそれ。

兄:いいんだよ。

弟:一緒に花火見てくれてありがと。

兄:どういたしまして。

弟:一人で見るのはさすがにきつかった。

兄:そっか……。

(間)

兄:……好きだ。

弟:なんか言った?

兄:いや。

弟:花火の音で聞こえなかった。

兄:なんでもない。花火、見てろ。

(劇中劇終わり)

オーナー:くぅううう! ああ、いいわぁ……切ないわぁ……!

弟:いつも思うけど、この人自分で書いた台本を人にやらせといて、よくこんなに興奮できるよね。

兄:ほっておけ、そのうち収まる。

オーナー:いい、すごくいい、とてもいい! けど! やはりもうちょっと攻めたやつも欲しくない? うん、私はいいのよ! 全然いいんだけど! 私の書くBL台本、ライトすぎるって意見が多くて多くて……

兄:まあそれは確かに。「なんでそこで終わるんですかー!」ってお客さんがよく発狂してますね。

弟:さっきの台本に至ってはきっと「いつになったらBLが始まるんですか!?」とか言われそうですよね。

オーナー:というわけで、もうちょっと攻めてみようと思う。夏と言えば薄着よね! というわけで、はいこれ。

兄:まだやるんですか?

弟:ま、時給でるならいいですけど。じゃ行きますね。

(以下劇中劇)

弟:あっついなー今日。

兄:そうだな、急に暑くなったよな。

弟:ああもう! 服、脱いでいい?

兄:は? どうぞ?

弟:よし! こうやって……(兄の服を脱がせる)

兄:(脱がされる)わ、ちょっと、なんだよ! なんで俺の服を脱がすんだよ!

弟:あ、間違えた。

兄:どうやったら間違えるんだよ。自分の服を脱げよ、脱ぎたいなら。

弟:そうなんだけどさ、でも、お前二枚着てるからいいじゃん。俺一枚しか着てないから脱げないもん。

兄:どういう理屈だよ。まあいいけどさ。確かに暑いし。

弟:エアコンつけるか。(ピッ)あ

兄:あっつ! なんだこれ。

弟:おっと、間違って暖房入れちゃった。

兄:なんでだよ! 冷房入れろよ! あっつ!

弟:それは大変だ!(兄を脱がす)

兄:(脱がされる)ちょっと、だから! だからなんで俺を脱がすんだよ!

弟:いや、暑いって言うから。

兄:わざとだよな、絶対わざとだよな?

弟:そんなことないって、それにしても、うーん……(兄をじろじろ見る)

兄:何見てんだよ! 服返せ!

弟:いやーいつ見てもきれいな腹筋だなって。

兄:……もういい、リモコン貸せ。

弟:まってまってまって! もうちょっとだけ!

兄:なんでだよ、暑いだろ!

弟:涼しくしたらお前が服着ちゃうだろ!

兄:なんでだよ!

弟:……わかった、ごめん、俺も脱ぐから。(脱ぐ)

兄:……

弟:……これでよし。

兄:あのさ、そういうことしたいなら、素直に言えよ。

弟:俺、照れ屋だからさ。

兄:やり方がおかしいだろ。

弟:あれ、いつのまに筋トレしたの? 二の腕ちょっと太くなってる。俺、これくらいが好きだなー。

兄:とか、言いながらちゃっかり押し倒してくるなー! わかった、わかったから、せめて、暖房消せーー!

弟:消したらいいの?

兄:まあ……

弟:ふふ、やった。ああ、この胸筋もいいなー!

兄:暑いってば! ……まったく。

(劇中劇終わり)

オーナー:ちょっとまってぇ!

兄:なんですか?

弟:ちゃんとやりましたよ?

オーナー:ちゃんとやりすぎでしょう! なんで、実際に服を脱ぐ必要があるのよ。

兄:ついつい、熱が入りまして。

弟:実際暑かったですし、いいかなって。

オーナー:わ!た!し! いるの! 見えてる?

兄:下は脱いでませんよ?

弟:脱ぎますか?

オーナー:(間)……やめなさい?

兄:今一瞬、待ちましたよね?

オーナー:ま、待ってないしー! 意味わからないしー! お客さんの前でやるときは絶対ダメだからね! 早く服着てよ! なんでちょっと鍛えてるのよ2人とも!

弟:はいはい。それはそうと、そろそろ開店時間ですよ。

オーナー:やばい! 急いで準備しないと!

兄:ところで、オーナー。

オーナー:なに?

弟:今日、夜空いてる?

兄:今日、夜空いてますか?

オーナー:なんだろうこのデジャブ。ソシャゲのイベントなら行かないわよ。

弟:違いますよ。今日は近所の神社で夏祭りがあるんです。

オーナー:夏祭りか……

兄:俺と行こう?

弟:兄貴、俺が今誘おうとしてたんだけど?

兄:早い者勝ち。

弟:ずりー! ね、オーナー、俺と行きましょ?

兄:俺と一緒に行くよな?

弟:俺と行きたいですよね?

オーナー:……どうしよう、このやりとりに、ちょっと、ときめいてしまう自分が悲しい……

兄:俺だろ?

弟:俺でしょ? ね?

オーナー:ぐぬぬ……一体何が目当てなの?

兄:ガチャ回しすぎて今月のバイト代なくなったので、焼きそば奢ってもらおうと思って。

弟:俺はたこ焼きが食べたいです。

オーナー:そんなこったろうと思ったわよ! ああ、開店準備間に合わない!!

兄:(ため息)3人で、じゃなくて、わざわざ別々に誘っている意味、だよなぁ。

弟:……絶対、考えないよね、この人は。

オーナー:ちょっと、何してるの手伝ってよ。

兄:開店準備なら終わってますよ。

弟:兄貴とやっときました。

オーナー:え?

【完】

イケボカフェに夏が来たら、やっぱりややこしかった話 (2:1)

イケボカフェに夏が来たら、やっぱりややこしかった話 (2:1)

イケボカフェシリーズ 兄弟夏版 ※ちょいBLあり 上演時間 約15分 2024年6月9日 加筆修正 注意

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-09

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND