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川上七月

夫とうまくいってない訳ではない。でも関係が無くなってしまった。私たち夫婦に子はない。特に何がどうって事も無いのだけども無い。
夫と身体をあわせる事をしなくなったのは、彼が他の者とそうしたから。そのことを知った時は感情にまかせて夫を責め立てた。それも時間が経つとなんとなく流れていって心も穏やかになってしまった。だけどしなくなった。

彼女はわりと前から知っている人で、出逢った頃から気が合った。歳も同じなんだけどその他の事はたいがい正反対だった。わたしとは性格も趣味も何もかもが違っているのに、そんなことが心地よかった。

日曜日、夫は朝から出掛けて行ってしまった。会社の何とかさんという人の引っ越しを手伝うのだと言っていた。一人で朝ごはんを済ませたら、そこからは今日一日何も予定が無いことに気が付いた。
彼女のことを思い浮かべると逢いたくなってしまった。なにか逢いたくなる理由があるはずなのに、それはわからなくて、ただ逢いたいという気持ちだけが湧いてきた。メールをうってみる。
ーおはよう。今日は何か予定入ってる?ー
暫くすると返信が来た。
ー今日は何もないよ。逢える?ー
わたしは少しびっくりしながらも嬉しかった。
ー逢える逢える。どっかいく?ー
ーう~ん、うち来る?ー
ーいくいく、今から準備して出るねー
ー待ってるー
なんだか恋人とのやりとりに思えた。一応、夫の携帯へ電話をかけてみたけど繋がらなかった。なんだかどうでもいいなって思えた。
お気に入りのワンピースの上にライダースの革ジャンを羽織った。外は春うららでワクワクと気持ち良かった。駅の改札を抜け、手みやげを買おうとケーキ屋さんを覗いたけどまだ開店前だったから、花屋でカーネイションを買った。なぜか店先のカーネイションに心引かれた。
彼女のマンションに着いた。部屋の前に立ち、インターフォンを押すと何の反応も無いまま入口のドアが中から開けられた。驚いた顔でカーネイションを持っているわたしを見て彼女は笑顔を見せた。
「だと思ったもん。早かったわね」
淡い色のスゥエットの上下を着た彼女は自然だった。恰も彼女はそうであるはずだと思った。
「これ」
カーネイションを差し出す。
「ありがとう。綺麗ね、でもなんでカーネイションなの?」
彼女は柔らかな表情をカーネイションに向けてそう言った。
「あっ」
彼女が微かに声をあげた。
「わかったわ」
「わかったの?」
「うん。だって吸い込まれそう」
わたしはたまらなく嬉しくなって彼女に抱きついていた。
「そうなの」
彼女のほっぺたを感じながら返事をした。

それから…


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  • 小説
  • 掌編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-09

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