矛盾と無慈悲

あおい はる

 生きとし生けるものを愛しく思う夜の、おわりのないラジオ局のどこか茫洋とした感じの、選曲。だれかの言葉で、あっけなくこわれた、きみ。お花屋さんの配達のあと、どこかでなくしたピアスを探しに出かけて、そのままいなくなった、おにいちゃん。くるしいけれど、ニアがそこにいてくれるだけでよかった。七月の絶望に、ふかふかのフレンチトーストだけが正義みたいな、そんな世界だった。
 かなしみは、きれいに洗い流さなくていいよ。
 きみが、なにを想って描いたのか、うつくしいだけの国。ラジオは、どこまでも鮮明に、すこしだけなつかしいポップ・ミュージックを流している。氷の彫像になりたかった、暑さに弱いニアの、夏の過ごし方を、ぼくはちょっと、自暴自棄すぎると思いながら、白く冷えた指先に触れる。
 おにいちゃん曰く、おなじ型抜きで抜かれたひとたちの、結束的なものは、うまく型抜かれなかったものたちを、ときに嘲笑い、ころすことで、世の中を成り立たせているだとか。
 くそくらえだ、と吐き捨てた、ぼくに、やさしく微笑むだけの、ニアのからだは、月のように光っている。

矛盾と無慈悲

ありふれたセリフだけれど、ときどき、心から共感せずにはいられない。世界は、矛盾でできている。

矛盾と無慈悲

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-08

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