心の花
ちいさな町に、病弱な花売りがいました。彼女は寂れたアパートに、ひとりきりで住んでいました。部屋には彼女が大切に育てた色とりどりの花が、所狭しと飾られています。彼女はそのなかからその日の気分にあわせていくつかを選び、小ぶりのバスケットにいれ、毎日きまった時間に近くの噴水広場におもむき、そこでほんの二時間ばかり、ささやかな商いをします。ですが、彼女が心をこめて育てた花を買ってくれるひとは、いままでにほとんどいませんでした。それでも彼女はめげずに、あきらめずにつづけていました。ひとりぼっちの彼女にとって、花はなによりの友人で、冷えきった心を温める薬で、唯一のよりどころでした。ある日、いつものように広場で花を売っていると、突然立ちくらみがして、その場にくずれるように倒れてしまいました。月が町にやさしい影を落とす頃、彼女は見知らぬ病院の寝台のうえで目をさましました。すると、すぐそばの丸椅子でうたた寝しているだれかのすがたが目にとまりました。彼女はおどろきとともに困惑し、それからそのひとの横顔をじっと見つめ、一生懸命に記憶をたぐりよせ、そしてようやく思いだしました。そのひとは、はじめて彼女の花を買ってくれたひとなのでした。華奢な手足、ヘーゼルの瞳、ブロンドの長髪、あのときとなにも変わっていません。不意に目をさましたその子にびっくりしつつ、どうしてここにいるのかたずねようか迷っていると、その子が先に口をひらきました。「友達になろう?」ずっとあこがれていたことばをかけられた彼女は途端に涙が溢れ、ゆっくりうなずきました。屈託のない笑顔を交わしたふたりはかけがえのない、生涯の親友になったのでした。
心の花