翡翠の庭園
あなたの、その澄んだ瞳になりたい。つかまえた先から翡翠色に変えてしまう、そのつめたくてやさしい瞳になりたい。静物画を描くような悠然さで。ときには触れたものすべてを殺めてしまいそうな危うさで。行き過ぎた愛は悲劇を生むことも、永遠をあきらめているから儚さに耽溺できることも、目にしたくないものにこそ真実が宿っていることも、未来だけは取り繕えないことも、時間に奪われた輪郭は、時間をかけてなぞりつづけることでしか追いかけられないことも、あなたはきっと知っている。ねえ、どれほどの悲劇を、孤独を受け止めてきたの?どれほどの寂寥感に、罪悪感に喘いできたの?どれほどの憂いで、覚悟で、その瞳を濡らしてきたの?どんな真実に、どんな嘘に生かされてきたの?きっと、わたしには耐えきれないほどの現実に、嬲られ、嗤われ、誑かされ、打ちのめされてきたのだろう。自分で自分を抉り引き裂いて、傷つけてきたのだろう。ふとした瞬間に死の淵に、崖先に、何度も立たされてきたのだろう。あなたが辿り着いたやさしさに、あなたはきっと救われているのだろう。わたしにはまだ届かない世界が、あなたの瞳の中にはあるのだろう。わたしは、いつかそこにいきたい。いや、かならずいくんだ。空白すらも愛することができる、冬麗のように柔らかい、やさしい翡翠の庭園へ。
翡翠の庭園