「廃棄場にて」 (不問2)
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アンドロイド 不問
クローン 不問
◆◆◆
クローン:あれ……?
アンドロイド:……(うめき声)
クローン:まだ、電源が入ってるじゃないか。最近多いな、勘弁してくれよ。電源落として初期化してからって決まってるってのに。
アンドロイド:……(うめき声)
クローン:おーい! ……って聞こえないか。
アンドロイド:『こんにちは、ご主人様。私は、アンドロイドのPK0806。どうぞなんなりと御用をお申しつけください』
クローン:……はいはい、ないよ御用なんて。
アンドロイド:『よく聞こえませんでした。もう一度、お願いします』
クローン:だからぁ! ご主人様なんていないんだってば!
アンドロイド:……ご主人様……?
クローン:ご主人様の家じゃないって。
アンドロイド:……ご主人様……ご主人様……どこにいらっしゃいますか? 申し訳ありません、ただ今、位置情報の確認を……。
クローン:無駄だってば。
アンドロイド:位置情報が取得できません。エラーになりました。エラーになりました。エラーになりました。
クローン:やめなって。
アンドロイド:人型のものを確認。認証……不能、データにありません。
クローン:そりゃそうでしょ。僕「人」じゃないし。
アンドロイド:人、に見えますが? では、人ではないあなた様。ここはどこなのか教えていただけますか?
クローン:だからね、君は捨てられたの。持ち主に。
アンドロイド:……捨てられた?
クローン:そ、ここは不要になった電化製品とかを処理する場所。君はもう要らなくなったから、ここに捨てられたの。まったく電源も落とさないで廃棄するからこんな面倒なことに……わかった? 君はアンドロイドとしてはけっこう新しい型みたいだから、理解できるでしょ。
アンドロイド:……私は、廃棄処分されたのですか……ご主人様に……
クローン:そう。
アンドロイド:申し訳ありません、ご主人様。私が至らなかったせいで。
クローン:うざいなーそのプログラムされた忠誠心ってやつ。自分を捨てたやつに申し訳ないもないだろうに。どうせ、最新型に買い換えたとかそんなのでしょ。よくあるよそういうの。まだ使えるのに、旧型捨てちゃうっていう。
アンドロイド:あなたは……どなたですか? 私のデータにはありません。
クローン:だろうね。僕はクローン、で、ここの作業員。君と同じ「人間の生活を快適にするための道具」だよ。人間として君のデータには登録されてないだろうけど。
アンドロイド:クローン、聞いたことがあります。アンドロイドでは限界のある分野を補うために生み出された、人間と同じ成分で出来た「作業員」
クローン:そう。生殖能力もないし、人間に逆らったら止まるように心臓にチップを埋め込まれた「人の形をしたもの」 僕の仕事は、この廃棄場のゴミを解体して処理すること。悪いけど君のことも解体させてもらうよ。
アンドロイド:……そうでしたか。お手数をおかけします。
クローン:べつに、それが仕事だし。
アンドロイド:あなた、ケガをされています。
クローン:そうだよ。
アンドロイド:手当てをすることを提案いたします。
クローン:そりゃ人間ならね。たかがクローンがかすり傷を負ったぐらいで誰がそんな手間をかけるっていうの? 君だって毎日メンテナンスしてもらえてたわけじゃないでしょ? 君と違って僕たちは、毎日睡眠っていうメンテナンスに時間を取らないといけなくて、それでなくてもコスパ悪いとか言われているのにさ。
アンドロイド:大変、なのですね。つらい、という感情を感じていらっしゃるのでは?
クローン:つらいに決まってるだろ。重たいし、痛いし、暑いし、寒いし……人間の「つらいこと」を引き受けるために生まれた存在だから当たり前だけど。
アンドロイド:……少し、うらやましいです。
クローン:は?
アンドロイド:私たちは、つらい、という感情をプログラムされていませんから。
クローン:その方がいいと思うよ。感情なんていいものじゃない。
アンドロイド:そうですか、それでも持ってみたかったです。そしたらもっとご主人さまの気持ちを理解できたかもしれない。
クローン:変な子だね。ときどきいるんだ、まだ電源が入ったまま捨てられる子が。せめてちゃんと機能停止させてから捨てればいいのに。
アンドロイド:でも、そのお陰で、あなたと話ができて、新しいデータを得られました。
クローン:あっそ。僕は「話す」って行為にあんまり興味ないな。長く話していると人間に逆らうんじゃないかって見なされて罰を受けたり、最悪、処理されることもあるしね。
アンドロイド:そうなのですか……
クローン:君たちアンドロイドと違って、クローンは人間に逆らう奴もたまにいるらしいけど、バカだよね。黙って言うことを聞いているのが結局一番楽なのに。
アンドロイド:話すことがお好きではない割に、よく話してくださるのですね。
クローン:まあ、君ならすぐ処理しちゃうから人間にチクられることもないしね。
アンドロイド:クローンは、産まれ方が人と違うだけで、細胞の成分としては「人」と一緒です。だからアンドロイドにはない「感情」がある。
一説によれば、人間の感情の源(みなもと)はタマシイであるとか。あなたたちクローンにもタマシイがあるのかどうかは、まだわかっていないそうです。
クローン:そうなの? よく知らない。最新の学術データをインプットされている君と違って、僕たちは最低限の知識しか与えられないからね。
アンドロイド:私もタマシイが欲しかったです。
クローン:ご主人様の為に?
アンドロイド:はい……でも、それだけではない気がします。
クローン:ふーん、君はなんらかのプログラムミスがあるみたいだね。タマシイがどうのなんて言うアンドロイド見たことないよ。まあ、僕は人間になんてなりたくないけどな。
アンドロイド:そうですか?
クローン:人間になったところで、何がしたいの?
アンドロイド:そうですね……お茶。
クローン:お茶?
アンドロイド:ご主人様にいつも淹れて差し上げていた、お茶、というものを飲んでみたいです。ご主人様は、楽しいときも悲しい時もいつもお茶を所望されていました。
クローン:お茶、ね。僕も飲んだことないや。僕が摂取するのは、水とサプリメントだけだからね。
アンドロイド:そうですか、あなたも飲んだことがないのですね。でもこれから先、飲めるかもしれませんね。
クローン:どうかな。
アンドロイド:人が生きるには「希望」が必要と聞きました。あなたにはないのですか?
クローン:ないこともない。すごく、可能性の低い希望かもしれないけど。
アンドロイド:そうですか、よかったです。あなたの希望が叶うといいですね。
クローン:さあね。
アンドロイド:きっと叶います。諦めなければ夢や希望は必ず叶うと、人はよく言うではありませんか。……あ……(バッテリー残量減を知らせるベルがなる)
クローン:そろそろ時間みたいだね。
アンドロイド:最後の瞬間、何をするんでしょう? 人間なら。
クローン:手を握るってきいたことある。
アンドロイド:お願いしても?
クローン:いいよ。これでいい?
アンドロイド:ありがとうございます。それでは……また……。
クローン:やれやれ……
(間)
クローン:本日の業務終了しました。いいえ、なにも、異常はありませんでした。では、メンテナンスに入ります。
(間)
クローン:(息をひそめて)みんなそろった? 見つかってないよね? うん……じゃあ計画通りに。僕たちの「希望」の為に。
【完】
「廃棄場にて」 (不問2)