Say Something ~Another (番外編)

nanamame

Say Something ~Another (番外編)
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  2. 14.5 月

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お母さんが、癌であることが発覚してから、半年くらいしか経っていない。もっと早く発見できていれば、とお医者さんが何回も言っていた。だけど、お母さんも僕も、病院にかかることはなかった。頭痛が続いても、インフルエンザでも、階段を突き落とされて頭から血が出ても、お母さんが胸の痼が大きくなっていくことに不安を感じていても、病院に行く、という選択肢はなかった。

病院の斎場で、母の棺を前に、ヨンフンは1人で静かに座っていた。医者や看護師、斎場の職員たちが、まだ13才のヨンフンのことを心配して、様子を見に来てくれる以外、誰の出入りもない。

ご主人様は、ここには来ないのかな。お母さんが、ここで眠っているのを、知らないのかな。

時々家に来て、母に暴力を振るう男。その人が、ヨンフンの父親で、母のご主人様。お金で縛られて、自由を奪われて、精神も健康も損ない、治療もされないまま、30余年の生涯を閉じた母。
どうしたらいいのか、何も分からない。ここでこのまま座っていても、お母さんは生き返らないし、自動的にお墓に収まる訳でもない。だからと言って、13才の自分に、そこまでやり遂げることができるのか自信がない。

ドアが開いて、廊下の明かりが細長く部屋に差す。いつの間にか、窓の外は暗くなっていた。振り向いて、入ってきた男性たちを見つめる。4人いる。その中の1人がパチンと電気を点ける。ヨンフンは眩しさに、目をぎゅっと瞑った。

「子供がいたのか? なぜ言わない?」 細身の、白髪の男性が言う。低い声は、少し怖い。
「認知はしていますが、それだけです。お父様にご報告するまでもありません」 ご主人様だ。

ご主人様の父親なら、僕の祖父だ、とヨンフンは内心で思ったが、親しみは特に感じなかった。そうしたものを拒むような雰囲気が、祖父にはあった。
祖父は視線も冷たく、ヨンフンを一瞥しただけで、使用人らしき男性に、「資料はあるか」と聞いた。すぐさま黒いファイルが出てくる。ご主人様は舌打ちをした。
僕についての資料だろう、とヨンフンは予測をする。開いて、眺める。すぐに閉じられる。まだ中学1年だし、A4紙1枚くらいで足りるだろう。
祖父と目が合ってしまって、じっと眺めていたことをヨンフンは少しだけ後悔した。失礼だったかな、と視線を逸らして、母に向き直る。

「チャニの遊び相手にちょうどいい。あれのわがままも、少しは収まるだろう。使用人の制服を用意しろ」
「畏まりました」

ヨンフンは驚いて、振り向いた。使用人って、僕のこと? と首を傾げる。
ご主人様も驚いている。

「お父様、どういうことですか? 伯爵家で面倒を見る、ということですか?」
「お前が認知していなければ、全くの無関係でいられたものを。だから、全て報告しろと言っているのだ」

落ち込んで項垂れているご主人様というのは、初めて見る。お母さんには、とても威圧的だったのに、お父様には逆らえないのだな、と思うと、やっぱり祖父と雖も怖い。使用人より、施設に行く方がいいかも知れない。施設も、あまりいい環境ではないだろうけれど、どっちの方がいいのかな、と迷う。
祖父は、用事は終わった、とばかりに踵を返して、部屋を出ていく。母の顔も見ていかない。ご主人様は、ヨンフンを疎ましそうに睨んだ後、何も言わずに祖父に付いていった。ご主人様も、母の顔を見ない。それがちょっと嫌だった。

部屋に残ったのは1人。ご主人様より若い1人だけ。斎場の職員と話をして、費用のことや火葬のことを話している。
彼のおかげで、母の火葬と納骨まで済ますことができた。費用も出してくれたようだ。半年間の医療費も、負担してくれるのかな、と期待する。ヨンフンは、払う方法を知らない。

夜、家まで送ってくれて、荷造りをしなさい、と言われた。

「どこに行くのですか?」 伯爵家なら、ちょっと嫌だな、と思った。
「伯爵家の使用人として、これから働くのですよ。中学校はこのままちゃんと通えますからね。1人で施設に行くよりも良いでしょう」

付き添ってくれていた人も、伯爵家の使用人だと言う。衣食住も保証してくれて、学校にも通える。高校まで進学することは難しいだろうが、義務教育を終えたら、他所でも働ける。そう言われて、まぁいいか、と思った。施設に行っても、同じことだろうと思ったから。

リュックに学校の制服と、勉強道具を詰める。他に鞄がなくて、私服を入れるものがない、と困っていると、家の中を一緒に探してくれた。出てきた紙袋に、下着やパジャマ、私服類を入れていく。
お母さんのものをどうしようかな、と思って、母の部屋を眺める。服や宝飾品などは、それなりにある。その中から、ヨンフンは1つの腕時計を手にとった。お母さんが、一番大事にしていた。よく眺めていたが、付けることはあまりなくて、その分、大切にしていた。どういう由来で、これを大切にしていたのかは知らないが、これだけ、持っていこう、と決める。お母さんには嫌われていたけれど、思い出の1つくらい、持っていてもいいだろう。写真があればそれも持っていこうと思ったけれど、お母さんの写真は1枚もない。自分の写真だって1枚もない。そう言うものだと思って、寂しくはなかった。

大きくて、きれいだけど、至るところに傷みがあって、庭木も茂り放題で、門扉も錆びている。全ての電気が消えて、お化け屋敷みたいに見える、自分の生まれ育った家に、ヨンフンは心の中でだけ、「バイバイ」と言って、家を離れた。


 ***


一夜明けて。
ヨンフンが持ってきた私服は、伯爵家のきれいで大きな洋館にはあまりにも不釣り合いで、捨てるか、作業着にするか、「どちらかにしなさい」と言われた。着る服がないので、中学校の制服を着る。伯爵家の制服というものが出来ても、毎日制服か、と思って窮屈だな、と感じた。

筆頭執事と名乗る男性に、料理長の男性、使用人頭の男性、女中頭の女性、チャニ様の専属看護師の女性、計4人を紹介してもらう。他の使用人たちのリーダー格にあり、困ったことや分からないことがあれば、彼らに聞けば良いらしい。
筆頭執事と専属看護師イナが、ヨンフンに向かい、これからの仕事について説明をしてくれる。
仕事と言っても、中学校に通うこと、勉強が第一だ。それ以外の時間に、掃除や、ゴミの取りまとめ、手が足りない場所のお手伝いなど、要するに雑用をする。重要でもなく、難しいことでもないので、すぐに慣れるだろう。それくらいなら、これまでもしていたので問題ない、と思った。
あとは「チャニ様」のお世話をする。伯爵家のご当主のご次男。ヨンフンより1才下。病弱で、学校にも通えず、基本的にイナが世話と看病をしている。少しわがままで、好き嫌いが激しく、出来ないことをやりたがる。1人は嫌だとか、友達がほしいとか、外に行きたいとか、服がほしいとか、使用人たちを困らせているらしい。
そんなわがままな子は嫌だな、と思ったが、僕が友達になってあげたら、長年の大きな要求が満たされる、らしい。1人は、それは嫌だろうな、と同情する。「来てくれてとても嬉しい」と、イナに歓迎されたこともあり、ヨンフンは前向きに考えることにした。

チャニ様と呼ぶこと、敬語を使うこと、年下でも相手は主人で、自身は従者であることを自認すること。「分かりました」とヨンフンは受け入れた。

「昼食が終わった頃かしら」 イナがそう言って、ノブに手をかける。と中から幼い声がわずかに漏れ聞こえた。
「パスタ食べたい! これ嫌い~。もう嫌~」

イナが苦笑している。これがチャニ様なんだ、と思う。ノックの後、ドアを開ける。

ヨンフンは、チャニを見て、最初は女の子だと思った。白い肌、少し色づいた頬、大きな目、きれいに切り揃えられた黒髪。身体も細くて、儚げに見える。ぶらぶら揺れていた足が、ヨンフンを見て、ぴたっと止まる。
次男と言っていたから、男の子なんだよね、と心の中で確かめる。

「チャニ様、まだお食事中ですか? お熱があるのですから、パスタは今日も無理ですよ」

イナの言葉に、チャニは頬を膨らませて、拗ねた。頬がピンク色なのは、熱のせいらしい。チャニの目の前には、ちょっと伸びたように見えるうどんがある。冷めて伸びてしまったら、美味しいものも美味しくなくなってしまう。
チャニは膨れ面のまま、うどんに目線を残しつつ、ちらちらとヨンフンの方を見る。こちらを気にしているのが分かる。人見知りをしている様子が、かわいいな、と思って、ヨンフンは微笑んだ。

「チャニ様、こちらはキム・ヨンフンくんです。チャニ様の新しいお世話係ですよ」
「僕の?」

チャニの視線が向く。ヨンフンは、「仕事だ」と思って、意識して笑った。

「はじめまして、キム・ヨンフンと言います。よろしくお願いします」 そう言って、一礼する。

チャニは何も言わない。じっと、ヨンフンを見ている。握ったままだった箸を放り出して、椅子を降りて、イナの側に行き、彼女の背後に隠れた。背はイナと同じくらい。以外と背が高かった。
何か、自分から説明をしようかな、と思ったけど、ヨンフンは自分から話し始めてもいいのか少し悩んで、黙っていた。すると、チャニは続き部屋に隠れてしまった。
あれ? と思って、首を傾げる。イナは少し困ったように笑っている。
部屋にいた女中に、イナは「どうもありがとう」と、片付けるように言った。彼女は、まだ料理が残っている食器を片付けて、部屋を出た。

続き部屋は寝室だ、と教えてもらう。そのドアをノックして、開ける。

チャニはベッドの影に隠れていた。目から上だけを覗かせている。

「チャニ様、隠れていないで、きちんと自己紹介をしてください」 イナが促す。
「…僕、チャニだよ」 チャニはベッドに隠れつつ、ヨンフンを見て、名前を言った。

イナは、チャニの様子に少し困惑した。手放しで喜ぶと思っていたのに、こんなに人見知りをするとは知らなかった。他人とあまり接したことがないので、仕方がない部分もあるのかも知れない。
ヨンフンの方を見ると、特に困っている表情でもなく、穏やかにチャニを見ている。
チャニが頭を引っ込めて、また隠れた。パジャマの柄が動いているのが、少し見えていて、ヘッドボードの方へ移動しているのが分かる。くすくす笑ってしまう。するとヨンフンが動いて、フットボードの方に身を隠した。イナは嬉しくなった。

「あれ? どこ?」 チャニの声が聞こえる。

ヨンフンは隠れるために縮めていた身体を起こして、「わぁ!」と大きな声を出した。チャニはびっくりした。けれど、声を出して笑った。ヨンフンの方まで嬉しくなるような笑顔だった。また身体を小さくして、ベッドサイドにこそこそ動くと、同じ方にチャニが出てきて、目が合った。
ヨンフンが笑ってくれた。チャニは隠れるのを止めて、ヨンフンの方へ、嬉しさで駆け出した。

「あ、チャニ様! 走ってはいけませんよ」

ヨンフンは逃げようとしていたが、イナの注意する声に、立ち止まった。かくれんぼのつもりが、かけっこになるといけない。部屋の中だし、チャニは運動を禁止されていると聞いていたから。
チャニに捕まる。ぎゅうっと抱きしめて、笑顔でヨンフンを見上げる。

「僕と遊んでくれる? 側にいてくれるの?」 確かめる。嬉しくて、確かめる。
「うん。僕で、良ければ」 嬉しくて、胸がいっぱいだった。

お母さんにも、必要とされないどころか、嫌われていた僕でもいいなら。父にも、祖父にも、いるなら仕方がないからと引き取られた僕でもいいなら。
チャニが笑顔になってくれるなら。チャニが喜んでくれるなら。チャニが必要としてくれるなら。
僕は、君のために生きていこう、と決意した。

14.5 月

目の前に、愛する人がいる幸福を、今、感じたい。今この瞬間を、もっと大事にしたい。

ジェヒョンが先に、下着1枚まで、服を脱いだ。明るい電気の下で、彼の身体を直視できなくて、自分も同じように脱ぐことができなくて、常夜灯を残して、部屋を暗くする。

「嫌になったら、言って。ちゃんと、教えて。無理なことも、気持ちいいことも、全部」
「うん」

ベッドに腰掛けて、何度も小さいキスを繰り返しながら、4つの手で、ゆっくりとジュニョンの服を脱がしていく。素肌が、夜の空気に触れて、ジュニョンは震える。嫌でも思い出してしまう。あの時の恐怖を。

「コビ、俺を見て」 ジェヒョンがいる。相手はジェヒョンだ。それを確かめる。

ジュニョンも下着だけになる。ジェヒョンに抱きしめられて、つい力んでしまう身体から、力を抜く。よりくっつくと、ジェヒョンのものが、硬くなっているのを感じる。嬉しいのか、怖いのか、よく分からない震えが背筋を登る。背中に手を回して、もっとくっつく。大きな手が胸や脇を撫でる。
背中から、ジェヒョンの手が下着の中に入ってくる。
怖くない、怖くない。ジェヒョンに縋り、彼の匂いと熱を感じる。
お尻の形を撫でて、手が前にくる。擦られて、握られる。また身体に力が入っている。

「嫌じゃない? 大丈夫?」
「うん…。もっと、触って」

でも、ジュニョンが泣いている。本当に、先に進んでもいいのだろうか、と思って、「無理してない?」と、もう一度確認する。

「僕が、嫌なの。いつまでも、過去に縛られて、君のことが好きなのに、裸にもなれない、なんて、君を信じていないみたいで、僕が嫌なの。だから、触って」

ベッドに押し倒して、覆いかぶさる。何度もキスをして、胸を愛撫して、右手はずっとジュニョンのものを撫でている。硬くなったのが嬉しい。ぬるぬると濡れてくるのが良い。
ジェヒョンの頭が、首から胸に降りていって、胸の突起を執拗に舐めて、吸って、たまに歯を立てて、ジュニョンを翻弄する。

「ふぁ…、あぁ…」

自分の声ではないみたいな声を、手で押さえる。

ジェヒョンが気付いて、手を外して、手のひら同士を重ねる。下着越しに、硬いもの同士が触れ合う。布越しで、こんなに熱いなら、下着まで脱いじゃったら、どんな風になるのだろう。怖さより、期待が上回って、ドキドキする。
ジュニョンは自分の手で下着を下げた。勃ったものが引っかかって、脱げないことが恥ずかしい。ジェヒョンが嬉しそうに微笑む。

「全部、脱いじゃう?」 ジュニョンは頷く。分かっているのに、聞かないでほしい。

ジェヒョンが脱がしてくれた。これで、2人の間には何もない。腰が擦り寄せられて、直接硬いもの同士が触れる。その熱さに火傷しそうだ。ジュニョンも自然に腰を揺らして、快感を追う。
耳元でジェヒョンが、熱い吐息混じりに囁く。

「俺の、触って」

ぞくぞくと胸の中が泡立つ。ジェヒョンのものに触る。自分のものと、形も大きさも違う気がする。自分の身体で気持ちよくなってくれているのが、不思議だ。何もしていないのに、何かしてあげたいのに、どうしたらいいのか分からない。
自分で慰める時のように、握って上下に擦ると、ジェヒョンが「やばい」と呟く。「下手だったかな」と聞くと、ジェヒョンはキスを落としながら言った。

「もういきそう。気持ちよすぎてやばい」

お互いに擦りあって、身体はぴったりとくっついて、唇がしびれるくらいキスを繰り返す。
いきそう、って言葉にしなくても、お互いに分かった。ほとんど同時に果てた。
余韻に浸りながら、長く息を吐く。1人でする時より、気持ちよくて充足感がある。
僕は、何を怖がっていたのだろう、とジュニョンは思う。全然違った。気持ち1つで、全くの正反対なくらい違うものだった。

「すごく嬉しい。すごく良かった。コビは? 嫌なこと、なかった?」

ジェヒョンの目を見て、答えた。

「僕も、嬉しい…。気持ちよくて、幸せだった。
躊躇う必要なんて、何もなかったんだね。もっと早く、気付いていればよかった。ごめんね、待たせたよね?」

ジェヒョンは微笑んで、きれいな方の手でジュニョンの髪をわしゃわしゃ乱す。

「謝るのは無し、って前も言っただろ」

ジェヒョンには、本当に、「待っていた」という感覚はない。何と言ったらいいかな、と少し言葉を探す。

「うん、あれだ。2年生から3年生に上がったみたいな感じだ」

ジュニョンはきょとんとして、よく分からない、という表情をする。

「早く3年生になりたい、って思っても、なれないだろ? 早く高校を卒業したいと思っても、必要な単位をとって、試験を受けて、合格して、年明けの2月にならないと卒業できないだろ? そこにたどり着くまでに、1つずつ、ステップがあるんだよ。必要なプロセスは欠かせないんだ。
俺たちも一緒だと思う。2人で1つずつクリアしていって、今日があるんだよ」

ジュニョンは納得したように、こくこくと頷く。嬉しそうに微笑む。

「ありがとう、ジェヒョナ」

ジェヒョンもにっこりと笑った。



ジュニョンは、自分の部屋についている小さいバスルームに入る。明るい電気の下で、鏡を見ると、肩や胸の辺りに赤い跡がある。痛くはない。指でなぞると、ジェヒョンにキスされた場所だ、と分かった。鏡に映った顔が赤くなる。ジュニョンはさっと洗って、短い時間でシャワーを終わらせた。

同じベッドに入る。さっきまでしていた熱い行為の跡は、ベッドには残っていない。

ジュニョンは本音を言えば、抱き合う時間が短かったと感じている。
男同士でセックスする方法は、ネットで見た。いつかするのだから、と思っていたから検索した。それも込みで、「今日しよう」と言ったのだが、そこまでは至らなかった。まぁ、準備も何もないし、と思うが、ジェヒョンがそんな仕草を欠片も見せなかったのが、良かったのか、悪かったのか、よく分からない。ジェヒョンだって、知っているはずだけど、どう思っているのだろう。

「あ、あのさ…」 1人で悩んでも仕方がない。2人でする行為だから。
「何~?」

ジュニョンの前髪で遊んでいるジェヒョンに、思い切って打ち明ける。

「あの、男同士って、その、アナルを使ってするでしょう?」

ジェヒョンは「ぐっ」と一瞬詰まって、手で口を覆う。「ぶふっ」と吹き出す。ジュニョンに唾を吐きかけるところだった。危ない。性的なことにあまり興味がなさそうなジュニョンの口から、直接的な単語が出てくるとは思わなかった。

「何で笑うの?」 幸い、気分を害した風ではない。
「コビも調べてくれたの?」 じわじわと可笑しさが広がっていく。

「だって、いつかは、するんだし…。予備知識というか、共通認識は、必要でしょ? 今日、そこまでしてもいいな、って思ってたんだけど…、しなかったから、その、どう思っているのかな、って、ちょっと気になって…」

ジュニョンはもっとプラトニックな関係でいたいのではないか、とジェヒョンは考えていた。欲望をちらつかせる自分に合わせているのではないか、と。だが、ジェヒョンが考えていたよりも、遥かに高い次元で、自分たちがセックスをすることを真剣に考えていてくれていた。それが、もう幸せだ。笑っている場合ではない。

「初めてなんだから、いきなりそんな上級者向けのこと、しなくてもいいだろう。今日が初めてで、これから、何度もするんだし。だろ? ちょっとずつ、ステップアップしていけばいい」

明日もしかしたら、世界は滅んでしまうかもしれないけれど、多分、明日も明後日も明々後日も、世界は変わらずに続いていくだろうから。

「うん、そうだね」
「後ろ、したかった?」 お尻を撫でながら、ジェヒョンは少し意地悪なことを、聞いたつもりだった。

「あのね、アナルセックスの方法を書いてあるサイトでね、“お互いを理解して、信頼していることが大事だ”って書いてあって、それを読んで、ジェヒョンとならできるな、って思ったの」

ジュニョンのピュアな目が、ジェヒョンを見つめている。
どうしよう、ものすごく幸せだ。こんな幸せなことってあるかな。こんなに幸せでいいのかな、と後ろめたい気持ちにすらなる。口づけると、甘く感じた。またしたくなる。
そんな真面目なことを書いているサイトがあったのは知らなかった。ジェヒョンも男同士がする方法はネットで見てみたけれど、国内外問わずアダルト動画のサイトがほとんどだった。同じ行為を想定しているのに、心持ちの違いで、たどり着くサイトがこんなにも違うのか、とジェヒョンはちょっと反省した。

「ちゃんと調べて、ちゃんと準備して、お互いが気持ちいい、幸せなことをしよう。何のサイト見たか、今度教えて」
「うん。そうしよう」

ジュニョンがもぞもぞと動いて、ジェヒョンの腕の中に収まる。抱きしめて、キスをする。幸せを噛みしめる。カナダって、確か同性婚できたよな、と思い出す。未来が明るい気がした。

Say Something ~Another (番外編)

Say Something ~Another (番外編)

THE BOYZ、ヨンフンくんとニュー(チャニ)くんのお話「Say Something」の番外編。K-Pop, BL, FF。死ネタ注意。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-06-29

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