ボクは。僕は。ぼくは――。

糸遊 文

白は蒼を求めて

 真っ白な壁、天井。ポツンと真っ白なベッドとテーブルが置かれている。目が眩む様な真っ白な壁紙に囲まれた殺風景な部屋で、ドアらしきものが一切ない不思議な空間だった。唯一の色は開け放たれた大きな窓から見える、ペンキで塗り潰した様な無限に広がる蒼だけだった。
 僕は独り、真っ白なベッドに寝そべって蒼に染められた空を眺めていた。時折、脇に押しやられた白のレースカーテンが隠す様にゆらりと揺れる。窓の向こうにあるのだから空なのだろう、だから風が吹き込んでいるのだろうと。そんな莫迦げた事をぼんやりと考えていた。
ふわり――。
 緩やかな風が吹き、カーテンが一際大きく揺れる。風で捲れ上がるカーテンの隙間から、陶磁器のように白い脚が見えた。一陣の強い風が吹き、其れが完全に僕の視界に入る。真っ白なワンピースを着た少女が、窓の縁の上に立っていた。髪も肌も透き通るような白で、今にも消えてしまいそうだ。
 少女はずっと窓の向こうを見ていた。風は相変わらず緩やかに流れていて、白いワンピースの裾が緩々と翻る。少女は此方へと振り返り、微笑んだ……様な気がした。そして――。
 ふわりと窓枠を越え蒼色の世界へと、少女は飛んだ。まるで、風に誘われる様に。僕はバッと飛び起き、少女に向けて必死に何事かを叫びながら窓の方へと駆け寄る。蒼ばかりの世界へと呑み込まれてゆく少女を引き留めたくて必死に手を伸ばした。けれどその手は―――。


どんっ


 急に背中に殴られたような鈍痛が走った。はっと、醒める。視界に入ったのは、見慣れてしまった白い天井。きょろきょろと辺りを見回すと、どうやらベッドから落ちた様だった。呼吸が乱れ、酸欠の所為か目の前がぐらぐらと揺れる。天井へと伸ばしていた手を額に押し付け、
「また、この夢……」
 ぼそっと掠れ声が零れ落ちる。この真白な部屋で過ごすようになって、繰り返しみる夢。あの少女は誰だ。どうして僕は引き留めたいと、泣き叫んだのだろうか。寝起きの曖昧な頭で考えてみるが、一向に見当が付かない。僕は考える事を放棄して、この部屋で過ごさなければならない事に思いを馳せる。

ボクは。僕は。ぼくは――。

ボクは。僕は。ぼくは――。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-06-27

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