夜に落ちる

 みつめていたのに、暗転し、夜を転がっていくみたいに、灯りを見失った。繁華街のネオンも、だれかの家の窓からこぼれる室内灯も、コンビニの白々しい光も。なにもない。なにもないことがかなしいので、かなしみを癒すように、ホットケーキを焼く。きみが、どうでもよさそうに観ているテレビの、全体的にうそくさい感じを、ばかにするでも、同情するでもなく、ただ、そこにあるものとして、とらえている。最大限の幸福とは、きみと、わたしが、ふたりで生きること。これに尽きると、みとめてくれる神さまはいなくて、退屈しのぎに、星を揺らしたりしている。振られて、わたしたちは少しだけ、地面から浮く。パッケージの写真みたいな、うつくしいホットケーキを焼くことで、かなしみは、するすると消えるものだ。あっけなく。あつあつの表面で、角ばっていたバターが、あっというまに丸く、ちいさくなってゆくのに、等しく。

夜に落ちる

夜に落ちる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-24

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