短々落語「木綿の」
400文字以内のショートショート落語臭
「木綿の」
ご隠居ちょっと聞いておくんなせぇ。
なんだい、八つぁん。
遠距離恋愛の話さ。故郷を離れ都会で働き始めた若い男が、残された恋人に手紙を送ることにしたんだ。君への贈りもの、探す探すつもりだ、とね。彼女は欲しい物はない、ただ都会の絵の具に染まらないで帰って、と返す。半年が過ぎ、男は、逢えないが泣かないでくれ、と流行の指輪を送る。女は、あなたのキスほど優るものはないと拒む。すると男は、見間違うようなスーツ着た僕の写真、写真を見てくれ、と手紙を送る。やがて男は、君を忘れて変わってく僕を許して、僕は僕は帰れない、と手紙を出す、それで女はこう返信する、最後のわがまま、贈りものをねだるわ、木綿の…、と書いてあって肝心の木綿の後が涙の跡で滲んで読み取れない。で、男は考えたね、彼女は何が欲しいのかと。
で、どうしたんだい、その男は?
うん、それで、木綿の豆腐、送っちまった。
八つぁんよ、なんとも切ない話だね。
短々落語「木綿の」