ワンルーム
はやく、どうか、夜もふかいうちに、ぼくのことをわすれてください。展示ケースは、夏でもつめたく、腐らないようにとの配慮に、染み入るわけもなく、もう、いっそのこと、みぎあしから、えし、してゆけばいいのに。な。きみが、ね、ティラミスを食べているあいだに、ぼくが、キッチンの、換気扇のしたでたばこを吸う、という構図が、あの、ちいさなアパート(つまり、キッチンと呼べるほど、立派なものでもないのだけれど)にて、展開されていたという事実だけが、ぼくをまだ、生かしているのだろうか。どきどきしたんだ。テレビで、この町に、サーカスがやってきたときよりも、きみは、おおきな、にんげんなどぺろりと丸呑みであろう、おおきなワニがきたことを、ひそかによろこんでいた。愛を、吐き捨てるみたいに暮らしている、バケモノたちが、まるで、沈黙という球体のなかで眠っているみたいに、静かである。春を惨殺した、夏が、我が物顔で闊歩し始めた。
ワンルーム