優しさ

渡逢 遥

優しさは人を殺す凶器だけれど、それでもきみは優しくなりたいの?誰かの記憶に残ることが、自分を残すことがエゴの気休めだと気付いた時、私は何も残さずに、誰の記憶にも残らずに消えてしまいたいと思った。傷ついた原因に執着するより、傷ついたこと自体を忘れてしまった方がずっと楽だった。誰のせいにもしたくなかった。誰にも不快な思いをさせたくなかった。誰にも心配をかけたくなかった。でも、もう遅かった。私は中途半端に優しくなってしまった。中途半端な優しさでしか、自分を支えられなくなってしまった。蜃気楼のように、帰り花のように、砂上の楼閣のように生きて、静かに死んでいくことが理想だった。誰にも私を救えないという事実、私にはそれが何より嬉しかった。嬉しかったし、虚しかった。私は気休めの救いしか知らなかった。救いと呼ばれるものはすべて気休めだなんて自分に言い聞かせることで、自分の脆さ醜さに蓋をすることほど、惨めなことはなかった。蓋を開ければ、腐敗した正義が充満していた。自分の首を絞めていたのは、自分を光から遠ざけていたのは、光から目を逸らしていたのは、他でもない私自身だった。私は、救われることが怖かった。救われるに値しない人間だと思っていた。償いに生きるしか道はないと思っていた。でももう、何を償っているのか私にはわからなかった。何を恐れているのかわからなくなってしまった。恐らく、何もかもを恐れているのかもしれない。ありもしない傷すら抱えている。私という存在はもはやどこにもない。いや、最初からなかったのかもしれない、本当の、理想の、純粋な自分なんて。人生なんて。優しさという凶器。もう随分前から、私は私ではない。

優しさ

優しさ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-15

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