愛なき世界

 にじむ。眼球をまもる、皮膚の椀、ふちからこぼれる、なみだ、というなまえの水滴が、いつか、海をつくる。きみが好きで、けれど、恋と呼ぶには淡く、つまり、愛には程遠く、心臓をさしだすまでには、いたっていない感じは、なんだか、すべてが、ちゃちなおままごとのように思える。生きていることすらも。おとうさん、という存在は、ぼくにとっては、絶対的でした。幼い頃は神さまで、十七才くらいになってからは、独裁者、という言葉がしっくりくることに気づいた。おかあさん、なんてやわらかいひとは、まぼろしだと、いまでも思っている。おかあさんがいて、おとうさんがいて、おまえがいるのだと、きみは云うけれど。(にくかいはなくても、たいえきがあれば、ぼくらはうまれるのではないでしょうか)
 冒涜。
 きみは、ぼくのことを、かわいそうだと同情して、でも、それだけだ。

愛なき世界

愛なき世界

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-13

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