異風の儚3️⃣
異風の儚 著者不詳
≪禁忌に抗い挑戦する季刊誌『地下文学』より転載(不定期)≫
4️⃣ 犬の肉
微塵の未練も残さずに故郷を出奔して、次の年の風彦の夏だった。
女達からせびり取った金などはとうに使い果たして、さらに貧しい北の国を、無頼に放浪し続けていたのである。
空腹の身には、残酷な程に猛々しい盛夏の昼下がりに、とある辺鄙な村外れの、大川のほとりの農家に忍び込んだ。
湿気が充満した屋内に、人の気配はまるでない。
土間の台所で、釜の残り飯を貪り食った。
鍋に、ぶつ切りの肉の煮物の残りを見つけて、かぶりつくと、男も幾度か食した犬の肉だ。
たちまちの内に、獣の貪欲な血が蘇って駆け巡る。
その時、叫声が聞こえた気がした。
獣の態で全身を耳にすると、再び、紛れもなく女の嬌声だ。
原初の欲望に引き寄せられた様に、男の足が囲炉裏を忍んで、突き当たった奥の板戸を引いて、呼吸を整えながら、淫らな声の巣窟に隙間を作った。
その暗闇があえぎ声の震源だった。
目がなれると、裸の女が仰向けになって両の膝を立て、大きく両足を開いているのであった。
下には裸の男がいるのだが、股間と足しか見えない。
仰向けの男に、仰向けの豊満な女が乗っているのだ。
黒々と茂る森に、下から隆起が差し込まれているのだ。
女の手が、その勃起を妖しく撫でている。
女の淫奔に震える、汗にまみれた両の乳房を、男の手が鷲掴みにしていた。
おびただしい嬌声と戯れ言は、半島の女に違いないと、風彦に確信させた。
臍まで延びた濃い陰毛の中に、大きな黒子がある。男根で下から激しく突き上げられるたびに、女の腹の脂肪が揺れた。
すると、挿入したままの女が、朦朧と身体を起こした。
そして、板戸の隙間に気付いて、風彦の気配を察したのか、身動ぎもしない。
髪を乱した大きな鼻と、厚く赤い唇の、三〇がらみの大振りな表情だ。
その時に、その湿った瞳と、風彦の視線が衝突した。
乳房が淫らに揺れた。
何も知らない黒い男根が、慣れ親しんだ風情で女の白い尻を突き上げている。
唇を噛んでも漏れる嬌声を圧し殺しながら、女は風彦に向けた瞳を膨張させて、奇妙な意思を示し始めた。
女の指が自らの腹をくねりながら伝って、ゆっくりと股間に延びてきて、陰毛を撫で始めた。
もう一方の掌では、自らの乳房を蹂躙しながら、女の聞こえない言葉が宙を泳ぐ。
しかし、風彦には女のその意図が、未だ、理解できない。
沈黙が続く。
さらに、女の指が盛り上がった肉を撫で回しながら、陰核にまとわりついた。
太股を痙攣させながら突起を摘まんだ。
すると、風彦には女の声が聞こえた気がした。
狂った女と邂逅してしまったのか、或いは己が狂ってしまったのか。
風彦は驚愕した。確かに女の身振りは、交合の最中の下の男を殺してくれと、訴えているのだった。
身振りで確認すると、女が深く頷いた。
女は尻の下に敷いている布を男の顔にかけろと、仕草をするのである。
風彦が頷くと、女は下の男に射精を強いて、尻を激しく揺りながら、膣で男根をしごく。
たちまち射精が始まった瞬間に、女がその布を風彦に投げてよこした。
その刹那に、駆け寄った風彦が男に股がり、両足で男の両腕を封じて、女の小水で濡れた布を男の顔に被せて、押さえ込んだ。
股がって挿入して射精を飲み込んだままの女が、男の両足を固めていた。
暫くして、呆気なく男の動きは止まった。背の低い痩せた、初老の男だった。
(続く)
異風の儚3️⃣