独走

進むためには捨てなければならない。縋ってきたものを、凭れようという発想を、無駄に背負ってきたものを、抱えてきたものを、引き摺ってきたものを。身軽になるために、もっと身軽になるために。限りなく真空に近付くために。一時の快楽や安寧のために、毒水を口に含むのはもうやめよう。目が合わないもののために、身を削るのはもうやめよう。この泥濘から抜け出せるなら、この呪縛から解放されるなら、私はどんな手段も厭わない。自分自身に厳格でいたい、そうでないと、私は真の意味で自分を愛することができないから。自分を受け入れることができないから。いつ崩れるとも知れない椅子に座り続けているより、振り返らずに走り続けていたい。思考の贅を極限まで削ぎ落として、少しでも速く走りたい。ここでは深呼吸できないから。ここに居続けたら、きっと窒息してしまうから。私は自分の鼓動に、霆のような一瞬の閃きに従って直進していたい。とにかく走っていたい。私が前だと思っている方向が、あなたには後ろに見えたとしても。どれだけ速く走っていようと、目に映ったものすべてを見逃さずにいたい、不在と架空は同じではないから。人間なんて全員エゴイストだ。でも、エゴによってしか救うことはできない、それは自分でさえも。私は誰にも善意も悪意も振り翳したくはない、ただ自分に対しての敵意だけを肥大させる。それは私にとって生き甲斐になると同時に、死に甲斐にもなるだろう。私は走る。捨てながら走る。方向を考えずに突っ走る。私は定義が大嫌いだ。私はたった一つの自分という存在を研ぎ澄ますために、ただそれだけのために生きていく。

独走

独走

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-12

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