寝台特急コキュートス号

堀川士朗

今回はほのぼのやわらか旅小説をお届け致します。読むと脳ミソが平和になります。

二泊三日のちょっと不思議な列車旅行。


「寝台特急コキュートス号」

        堀川士朗


私は腕時計をへーカップの時刻に合わせた。


へーカップ王国、王都ハムコップンの中央駅から乗車した。
目的地、終点ネルネ共和国温泉郷タマノイまで寝台車で二泊三日かかる。

列車は発車した。

八両編成の寝台特急コキュートス号。
個室タイプの部屋を取った。二畳ほどの広さ。
小柄な女の子の私にはちょうど良い小さな木製のベッドとテーブルランプの乗った、樫の木で出来た机が置いてある。もうそれで部屋はいっぱい。
トイレはない。
二号車と五号車にトイレと簡易シャワーがあって、空いていれば誰でも使用出来る。
床は全て板張りなのでギシギシ言う。味。
運転音はカタンカタンカタンカタンと高い走行音がする。


お腹がすいて食堂車に行った。
ドングリのジュースを飲んで、マッシュルームのたっぷり入ったビーフシチューとクリームオムレツを食べた。
とても美味しかった。
2ペセタ10ギミック。
へーカップ王国の通貨ペセタは1ペセタが約1000円。100ギミックが1ペセタに当たる。


部屋に戻り、何気なく窓の外を眺めている。
のどかな景色が流れていて、もう家々も少ない。
ノックがしたのでドアの鍵を外すと、車掌さんが入り口に立っていた。

「切符を拝見」
「あ、はい」
「だいぶお若いですねレィディ。一人旅ですか?お名前と失礼ですがお年は?」
「古永小春(ふるながこはる)。17歳です」
「透き通るような肌をしていますね」
「ああそれは多分病気のせいです」
「それは失敬。次は~マンダ・カラマンダ駅に停車致します。車窓から五重の虹が見えますよ。素敵なレィディ。良い旅を」

私は窓の外を眺める。
景色が近くに感じられる。
牧草地が広がっている。
黄緑色の牛もいる。
私は、私の頭の中にだけいる元気いっぱいの女の子忍者、コハルちゃんをその牧草地に想像で走らせる脳内の遊びをした。
タッタッタッタッタッタッタッタッ。
五重の虹が映える中で、コハルちゃんは私の想像を遥か超えて、力いっぱい大地を走った。


夜中。腕時計を見たらヤトゥパの刻(午前1時)だった。
せきが何度も何度も出て眠れなかった。
不眠は大敵だ。不規則な事を規則的にやっていたらカラダを壊す。
フラフラして血が足りない感じがする。ここでフラフラしていては旅が楽しめないなーと思い、24時間営業の売店でホットレモンティーとミルクチョコレートを買って部屋で頂く。70ギミック。
美味しい。
(*´∀`*)ノ
コトコトトントンと、血糖値の上がる音がする。ぽい音がする。
上がれ血糖値。


☞☞☞☞☞☞☞☞☞


二日目の朝を迎えた。
背中が少し痛い。
車中がざわついている。
コキュートス号は停車している。
窓を開けると50メートルほど離れた所に山のようにものすごくデカい猫がいて、顔を撫でている。
ゴロゴロと喉を鳴らしている。
私は車掌さんに聞いてみた。

「車掌さん。あのデカい猫は何ですか?」
「ああ、小春さん。あれはとってもありがたい創造神オニャンコポン様です。ああ。ありがたいですなぁぁ。ああ。ありがたいですなぁぁ」

創造神オニャンコポン。
猫の、猫の神様だ。

乗客はみんなありがたそうに拝んでいる。

「エサを与えてみませんか?」

と車掌さんが言うので、私は列車から降りてオニャンコポンにエサを与える事にした。
バター。
銀紙でコーティングされたひとくちサイズのバターだ。

「こんなに小さいバターでいいんですか?あんなに大きな猫なのに」
「まぁ見てて下さいよ~」

と車掌さん。

「オニャンコポ~ン!と呼んで下さいね。せ~の。オニャンコポ~ン!」

私は一抹の幼児番組収録みたいな恥ずかしさを伴いつつオニャンコポンを呼んだ。

「オニャンコポ~ン!」

するとオニャンコポンはみるみる内に小さくなり子猫のサイズになって私に近寄ってきた。
え!びっくり!
かわいらしい。
(*´∀`*)ノ
でも顔はたれ目でエキゾチックショートヘアに似ている。
かわいらしい。
(*´∀`*)ノ
銀紙をむいてあげると、オニャンコポンは私が差し出したバターをペロペロと美味しそうに舐めた。
それから私の肩に乗り喉を鳴らした。
スリンスリンしてこしょばゆい。

「ミャミャ」

どうやらなつかれてしまったみたいだ。
部屋についてきた。
しばらくこの子猫と遊んだ。
かわいらしい。
(*´∀`*)ノ


「次は~シトラスフォードオンアボーン駅に到着致します」

車掌さんが各部屋を回っている。
私は簡易シャワーを利用してみる事にした。
シャワー室入り口ドアにある料金箱に20ギミック硬貨を入れると解錠され、ドアを開けて鍵を閉める。
脱衣所にタオルなどのリネン類は置いてある。
シャワー室はクリーム色のタイルが貼られている。簡易と言うだけあってなかなかの狭さだ。
でも湯治目的じゃないし、それこそお湯はタマノイに行ってつかればいいもんね。
備え付けのボディソープで体を洗い、シャンプーで頭ゴシゴシ。
慣れてないシャンプーで髪が抜けるのやだな。
ドライヤーはついてないのでタオルで水気を取って自然乾燥。
自分の部屋に戻ろうとしたら何だか車中が慌ただしい。
なんだろ。

数台の車輌がコキュートス号を追跡しているのが窓から見えた。
砂煙を上げて走る車には、世紀末覇王伝的ヒャッハーなモヒカンの男たちが乗っていた。
列車は懸命にスピードを上げるが、もう追いつかれてしまいそうだ。

「列車強盗だ!」

乗客の一人が叫ぶと辺りはパニック状態になった。
転倒する人もいる。
列車強盗が乗り込んでくる。

「オラオラオラオラ金目のモノをよこしなっ!」

リーダー格のヒャッハーモヒカンが部下に命じて乗客から財布や貴金属や腕時計を奪っていく。
車掌さんはオロオロしている。当たり前か。
私は、命さえ奪われなければ財布とか腕時計とか、別にどうでもいいやと思っていた。
あげちゃおう。
命が、一番大事だ。
モヒカンたちは私の部屋にもやって来た。
心臓がすごくドキドキした。
モヒカンが言った。

「おやお嬢ちゃん、一人かい?黙って金目のモノをよこせばケガはしなくて済むぜ」

オニャンコポンを強く抱きしめた。
するとオニャンコポンが私の細い腕から離れピョンっと高くジャンプした。
目からレーザーを発射した!
気絶する列車強盗たち!
モヒカンズがオノを振り上げ攻撃するけど、オニャンコポンには当たらない。
次々と倒されていく!
オニャンコポンの目からレーザーは、ポコポコポコポコとなんかアニメで次々と卵が産まれる時のようなかわいい音で発射された。
バタバタバタバタ。
気絶する列車強盗たち。
いけいけ~!オニャンコポ~ン!
(´θ`llll)


退治された列車強盗たちは駅で待ち構えていたへーカップ王国のシェリフに捕らえられ、車掌さんは私にお礼がしたいと言って、なんか変な柄のエコバッグをくれた。
……コキュートス号を救ったわりにちゃさい。
( 。゚Д゚。)

オニャンコポンがスリンスリンしてきた。この子を強く抱きしめた。
私は、怖かったのだろう。
猫の、猫の神様なのに普通の猫のあったかさなのが私をすごく安心させてくれた。
抱かれて彼は、少しうれしそうに

「ミャミャ」

と言った。


☞☞☞☞☞☞☞☞☞


昨夜はグッスリ眠れた。
厚手の毛布を追加して借りて暖かくして寝たからだ。背中も痛くない。


国境を越えた。
エルトポ森林地帯。
タリホー連邦の森林首都エルトポをぐるりと取り囲むように生え育つ巨大な森。

「止まない雨はない」

と言うが、ここはもう千年以上も昔から、一日も休まず雨が降り続いている。
止まない雨はあるのだ。
その雨が、列車の屋根に降り注ぐ。


クヌメオンの刻(午前8時)。
タリホー連邦森林首都エルトポ。
大森林に囲まれた巨大な都だ。
コキュートス号はここで二時間の停車。
私は傘を差して下車した。

雑貨屋で、タリホー連邦で一番人気のある男性ムード歌謡アイドルグループ「断裂」のTシャツを買う事にした。
断裂は新加入したメンバーの伽蔑祭芳男(キャベツマツリ・ヨシオ)を含めて八人いるけど、私は推しメンのリーダー、山北度度板(ヤマキタ・ドドイタ)のシャツを買った。1ペセタ80ギミック。
あと学校の友達と両親と弟にお土産を買った。
タリホーでもペセタは使える。


様々な、鮮やかな色のテントの出店が立ち並ぶバザールは壮観だ。
イノシシ肉のゴロッとしたお肉が中に入っているパイを食べた。
イノシシだから味が濃い。
パイ生地は厚めでしっかりした噛み心地。シナモンのスパイスが効いてる。お値段40ギミック。
美味しい!
(*´∀`*)ノ

街なかでは兵隊さんたちがいっぱい歩いていた。
桃色の軍服を着て、後ろにロボット兵を従えて、みんな笑顔で半生クレープを食べて談笑しているけど、ゴツい自動小銃を肩からぶら下げていて物々しい。
いっぱいいる。
とても大きな軍用機(ジャンボジェット機よりもはるかに大きい)もたくさん空を飛んでいる。
タリホー連邦は世界有数の軍事国家だからなんだろうな。
二年前にへーカップ王国と戦争をしたばかりだ。
もちろんタリホーが勝った。
だからペセタが使える。


お昼。食堂車に行く。
タンタカタン・タンタカタンメンを注文する。シャキシャキのお野菜たっぷりですごく美味しい。キクラゲが入っている。ワカメが練り込んである中太縮れ麺。ピンク塩のスープに良く絡む。75ギミック。

食べてばかりいる。
大事だ。
食事は、命燃やす行動。

コックさんに頼んでオニャンコポン用のバターをひとかけらもらってきた。与えたら美味しそうにペロペロなめた。
ゴロゴロと喉を鳴らして私のそばを離れないでいる。
よく鳴く。

「ミャミャ」

かわいらしい。
(*´∀`*)ノ


ヴィマの刻(午後2時)。
終点。
国境を越え、ネルネ共和国の温泉郷タマノイ駅に到着した。
二泊三日の寝台車の旅はとても楽しかった。
改札口でオニャンコポンは私の肩から降りた。

「ミャミャ。小春ちゃんごめんね。ぼく帰らなきゃいけないんだ」
「!しゃべれるの!?」
「神様だからね」
「そっか」
「バターをありがとう。美味しかったよ」
「こちらこそ。列車強盗から助けてくれてありがとう」
「うん。あの目からレーザーはぼくの必殺技なんだ。ミャミャ。小春ちゃんさよなら」
「さよなら」
「ミャミャ。ああそれから。タマノイの温泉は万病に効くからね。小春ちゃんの白血病もきっと治ると思うよ」
「え。病気の事、話してなかったのに」
「神様だからね。ミャミャ」
「そっか。うん。ありがとう。さよならオニャンコポン」


私はオニャンコポンと別れ、タマノイで一番古い温泉宿「アガリの湯」に泊まった。
大露天風呂のお湯は、弱酸性で乳白色でツルツルしていて気持ち良かった。
何回でも入りたい。
お湯を洗い場の鏡にパシャッとやったら、少し血色の良くなったような私の顔が映った。


また来年も行きたい。
生きたい。
来年も。


               おしまい

寝台特急コキュートス号

ご覧頂きありがとうございました。次回はサスペンスな戯曲をお送り致します。お楽しみに!

寝台特急コキュートス号

びっくり箱を開けたような、ちょっと不思議な列車旅行!

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-06-12

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted