異風の儚2️⃣

異風の儚 著者不詳  
 
≪禁忌に抗い挑戦する季刊誌『地下文学』より転載(不定期)≫
 
2️⃣ 鯉神様
 
 「あいつが出征したのは?」
「一月前よ。酷い雷で。神社の大木に落ちた、あの日だもの」
「そうだった。あの夜に嵌めたんだろ?」
 女の紅い唇も、山鳥の熱い脂で光っている。
「朝までやってたのか?」「もう、止してくださいな」
「いいや。お前程の淫乱はあるまい。あいつの姿が見えなくなった途端に、俺にむしゃぶりついてきたんだからな」
   
 「火海子は俺の種なのか?」
「知らないわ」
「自分の子が、誰の種かも知らないのか?」
「みんな、あなたのせいでしょ?」
「お前だって相当なもんだ」
「一五の私を手込めにしたのは、誰なんだか?」
「随分な言いようだな?」「一九で、無理強いで、あんな男と結婚させておいて?」
「盆踊りで乳繰り合ったのを、くっつけただけだ」「一夜の悪戯をこれ幸いに、こじつけたんでしょ?」
「身から出た、なんとやらじゃないか?」
「あんな人だから。都合が良かったんでしょ?」
「亭主は亭主。よがりは俺か?」
「この悪党!」
「お前の身体が堪らないんだ」
 
「火見子はどうしてる?」「使いに出てるわ」
「見てみろ」
 黒褐色の逸物がそそりたっている。
「ここに来い」
 女が腰巻きをまくりあげ、放埒な尻を露にして股がった。
 
 「大鯉を見た?」
「今日もいなかった」
「あれから姿を現さないのね?」
「未だ、腹がくちいんだろ」
「お母さん。成仏したかしら?」
「大滝の鯉神様に捧げたんだ。あんな強欲でも、とうに成仏したわさ」
「そうだといいんだけど」
 
 
3️⃣ 不義
 
 一月前の、異様に蒸す昼下がりであった。
 夫が出征してすぐの鯉子を、風彦が抱き寄せた。
 だが、激しい情交の現場を、思いがけずに戻ってきた鯉子の母で、風彦の妻の初音が盗み見てしまったのである。
 二人の禁忌の、すなわち義理の父と、実の娘の情交を目撃したのだ。
 怒り狂ってわめき叫ぶ女を風彦が払いのけると、昏倒して座卓に頭を打って、初音はいとも呆気なく死んでしまった。
 鯉子が、「それをどうするの?」と、事も無げに呟くと、「大鯉様に供養してもらうしかあるまい」と、風彦が応えた。

 「あなたと初めてしたのも、ここだったわ」
「お前は早熟で。もう立派な女だったな」
「一六の夏よ。あなたは幾つだったの?」
「三五だ」
「盆休みで、紡績から帰った、奇妙に蒸し暑い日だったわ」
 風彦に股がった鯉子が、「あなたは、どこからやって来たの?」と、質した。

 出征から一年後に、大陸の戦闘で負傷して戻ってきた鯉子の夫は、半月後には、この二人に殺されてしまったのである。
 
(続く)
 

異風の儚2️⃣

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更新日
登録日
2021-06-11

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