女の姿態1️⃣

女の姿態 1️⃣
　
1️⃣ 性愛

　これは寓話である。私小説でもある。いったい、錯綜した幻覚の趣もある。留まるべきではない醜悪な記憶かも知れない。または、眠りの深淵の主人公達の夢なのか。あるいは作為に満ちた戯れ言の可能性もある。欺瞞を拡散した錯誤とも言える。
　性愛などは、所詮そうしたものなのである。

　ある国で、幻想そのものの金銭の欲望が極限にまで膨張して、泡沫が瞬時に消失した。
　だが、かっての七〇年に渡る半島や大陸侵略、超大国との無謀な戦争と同じく、その国の大概は、さしたる検証や総括もなしに、その後の停滞する状況を、「失われた一〇年」と、言って恥じない。
　その国特有の、主語をもたない混沌とした修辞だが、その国はそれを意識的に行うところが、狡猾を極めている。

その時期に、この短編の主人公、即ち、当時はあの国の反逆者だった男と、今でも、その国の国民だろう女は、偶然の契機で邂逅した。
そして、二人はまさしく、妖しく際どい関係を創造しようと試みて、寓話の獣の如くに彷徨し、やがて、漂泊の果てに、自らその関係を崩壊させた。
　
　それは、あの国の今に至る低迷と重なる、沈降する性愛の季節だった。
　二人はその時分に、生涯分以上ほどに身体を重ねた。陰茎の機能や膣の構造が変化するほどにだ。　
　しかし、その性行為そのものは殆ど記憶にすらない。朧な残像は一%にも満たない。
　だから、この逸聞は、未だに男の脳裡に沈澱する、刺激的な映像の特徴的なものだ。

男は性愛に何を求めたのか。女はどうか。そもそも性愛とは何か。
　何れの心象を情愛と区別して、性愛と名付けるのか。
　エロスとアガペーは渾然と息づくものではないのか。
何れにしても、性愛に留まるばかりの性愛などは、無意味で無価値に違いないと、砂漠の放浪者に似た風貌で、男は、今では国境の彼方のあの国の、風の渡る茫茫たる貧相に向けて、微かに預言するのである。

（続く）