戒厳令下の儚1️⃣
戒厳令の儚 1️⃣
戒厳令下のダンス教場
1️⃣ アイマスク
盛夏のある深夜。
欅の巨木と、橙の光を放つ巨大なガス灯を挟んで、怪しげな理髪店の隣の二階は、それ以上に不気味なダンス教場なのである。
一階は、何故か、全面が壁で覆われているから入り口がない。
黒ずんだ緑の葉ばかりの蔦が隙間なく張り詰めていた。
打って変わって二階は、隣の理髪店と同様に、やはり透徹な、しかも、実に分厚い総ガラス張りだ。
その奥で、一組の、いずれも裸の男女が踊っているのである。
言わずもがな、全ての些細が、階下の路上の男には丸見えなのであった。
すると、また、たった今、四〇がらみの放漫な女体と、頑健な青年が丁重に一礼して、おもむろに指を取り合った。
だが、見た限りは、取り立てて睦まじい関係とも思えない。或いは、初対面なのではないのか。
二人ともアイマスクをして、豊満な桃色の裸体の女は紫である。
その他には、驚くほど大粒の真珠のイヤリングと、ネックレスだけしかつけていない。
青のアイマスクの男も、長身痩躯の裸体に黒の蝶ネクタイと、銀の腕時計だけだ。
その上、二人とも素足に黒靴という、極めて異様で、珍妙な出で立ちなのである。
すると、女が、おずおずと男の腰に手を回した。
音は、一切、漏れてこない。いくらか明るめのブルースなのか、若しくは、スローなジャズの曲調なのだろうか。
遠慮がちに、互いに距離を測りながら、二人はゆったりと身体をゆすっている。
すると、男の陰茎と陰嚢、女の豊かな乳房と三段腹が、ぶらぶらと揺れているのである。
全く、実に珍妙な景色なのだ。そして、二人の距離はだんだんと縮まる気配なのであった。
さて、暫くすると、陰茎が隆起し始めて、先端が女の三段に別れた脂肪の腹に届いた。
女が陰嚢をまるまる掴む。そして、仕舞いには、しっかりと抱き合ってしまった。
(続く)
戒厳令下の儚1️⃣