色人(いろびと)

上司 幾太

色人(いろびと)

色のある人

 「色のある人が好きです」とある合コンの場で彼女はそう答えた。
いつもよりも仕事が早く終わり、私は帰りの身支度をしていた。「もう、仕事は終わりか?」と同僚の佐藤が私に声を掛けてきた。「ああ、今から帰るところだよ」と手提げカバンを持ちながら答えた。
 「田中、今から合コンがあるんだけど、人数が一人足らなくてさ、予定が空いてれば参加してくれないか?」と両手を合わせながら、佐藤が私に頼んできた。「いや~、俺はそういうの苦手だから」と右手を挙げながら、私が断ろうとすると。「頼む!、田中、彼女居ないだろ、今日だけ俺を助けると思ってさ!」と必死に頼んで来るので、根負けした私は渋々、誘われた合コンに参加することにした。
 まだ、夏の残暑が残る中、夜の眩しいネオンに照らされ、繁華街は私たちと同じようなサラリーマンやOLで賑わっていた。
「まさか、田中さんが来てくれるとは思いませんでした!」と同僚の山口が歩きながら嬉しそうに言う。「田中はなかなかこういう場に来てくれないからなぁ~」と佐藤も嬉しそうに私に肩を組みながら言った。「俺はどうにも女性が苦手だから、あんまりこういう場所には来たくないんだよ」と苦笑いしながら私は答えた。
 くだらない会話をしながら、10分ほど歩くと「お~、ここだ!ここだ!」と佐藤は指さしをしながら、ある居酒屋さんを指した。「ここなのか?」と私が尋ねると「そうそう!」と嬉しそうに佐藤が私の手を引っ張りながら店の中にへと入っていった。
 「6名で予約しています。佐藤です」とさっきのテンションとは違い、丁寧な言葉で店員さんに佐藤は話しかけた。「6名様の佐藤様ですね!残りの3名様は・・・」と後ろを見ながら店員さんが尋ねると「あ~、後30分ほどで来るみたいです。すみません」と佐藤が会釈をしながら答えた。「そうなんですね!では、お先にお席にご案内させて頂きます!」と可愛い笑顔で女性の店員さんが席に案内してくれた。
 それから、30分ほど待つと「お待たせしました~」と3人の女性が入ってきた。「あ~、待ってたよ!、無事にこれてよかった!」と佐藤は嬉しそうに言った。「ごめんなさい、お待たせしてしまって」と綺麗な長い黒髪でモデルのような女性が両手を合わせながら言った。「私は鈴木と言います。よろしくお願いします!」と素敵な笑顔でみんなに挨拶をした。「私は渡辺って言います!」と茶髪ショートで丸顔で可愛らしい目をした女性が続けて自己紹介をした。「ほら、山田さんも自己紹介しよっ!」と渡辺さんの後からひょっこりと顔を出して、黒髪セミロングの黒縁眼鏡をかけた女性が小さな声で「山田と言いますよろしくお願いします」とみんなに挨拶をした。
 全員集合し、ドリンクも来たところで、「では皆様、本日はお集り頂いて、ありがとうございます。今日、会ったのも何かの縁だと思いますので、短い間ですがお楽しみください!乾杯!」と手慣れた様子で佐藤が乾杯の音頭を取った。
 お勤め先、趣味、職場環境、色々な話題が飛び交う中、話題はお決まりの好きな男性のタイプはという質問になった。
鈴木さんは「優しくて、価値観が合う人が良い」と渡辺さんは「一緒に居て楽しい人が良い」とよく聞くお決まり文句を言いながら男性陣の面倒くさい質問を手慣れた様子で上手にかわしていった。ただ、次の山田さんの言葉に私はすごく興味を持ってしまった。「山田さんは?」と山口が気を遣って、山田さんに尋ねると「私は、色のある人が好きです」と俯き加減で恥ずかしそうに答えた。その返答に驚いた私は思わず「色のある人?」と山田さんに聞き返してしまった。「上手く言えないんですけど、直感で一緒に居て色を感じる人が好きってことです」と山田さんは答えてくれた。
 合コンもいい感じになり、「それでは、名残り惜しいですが、ここらでお開きにしましょう」と佐藤が言い。「今日は男性陣で支払うので女性陣はお気になさらずに」と手慣れた様子で場を閉めた。
 別れ際に私はどうしても山田さんとまた会いたくて「あの、もし、よろしければ連絡先を教えて頂けないでしょうか?」と自分でも驚くくらい自然に言葉が出てきて彼女に尋ねていた。「あ、はい、いいですよ」と山田さんも恥ずかしそうに連絡先を教えてくれた。
 その後、山田さんと連絡を取り、小さな喫茶店で待ち合わせをした。私はどうしても山田さんの言った。「色のある人」について詳しく聞きたかったのだ。そのことについて尋ねると表現が難しそうにぽつぽつと丁寧な言葉で説明してくれた。
山田さんには世の中の人の殆どが無色の人に見えるらしい、それは個性とはまた違うそうなのだ。右と言われれば右を向く、社会の常識に合わせ生きていかなければ行けない社会人、そういう風に生きていくと子供の時はあんなに色んな色に見えていた人達がたちまち無色の色に変わっていったように見えたのだそうだ。ただ、ごく稀に色が有る人を見かけるので、好きな男性のタイプを聞かれたときに「色のある人が好きです」と答えたらしい。
 私は笑った。馬鹿にしているとかではなく、面白くて笑った。「田中さんは素敵な緑の色に見えます」と山田さんは嬉しそうに笑顔で私に言った。素敵な女性に会えて私は心の底から合コンに誘ってくれた佐藤に感謝した。「山田さんは素敵な藍色に見えます」と私は笑いながら答えた。

色人(いろびと)

色人(いろびと)

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-06-07

Public Domain
自由に複製、改変・翻案、配布することが出来ます。

Public Domain