いのり

2020/8/1

恋を透明な感情でずっと希釈して行けば、あなたの形になる 万引きしたまま新品で剥がすフィルム 小気味の良い音とあなたの泣き声
まるで水槽の中で最後の息を手放す悪魔、その手をにぎるよ 何も怖いものなどない 悲しくないよ さみしくないよ、ただあなたの吐く息を、あなたにめぐる血液や瞳にうつる現実も幻想も鳴動する細胞や見るはずだった夢のすべてを、少しでよかったから わたしのものにしたかった きみが極悪の殺人犯でも、どうでもいいの
あなたの守っていた秘密は、わたしの秘密を使えば暴くことができた いまはそうじゃないね 晒された胸のなか、覗かれた日記、全部、私の秘密のために使われるはずだった あなたの体をすべてばらして灰にしても、どうせ見つからないものを、わたしだけが手に取ることができた

「被害妄想なんか意味無い」
「楽園の話をして」
「ずっと先、みんな死んでも残るものだけ愛して」
「夏休みにだけあらわれるかみさま」

夏休みにだけあらわれるかみさまに、手の甲をささげて 流れ落ちて行くひかりの中で呟く弔辞 わたしだけ、わたしだけ、差別して 守って 洗って
いつかすべてが分かったときに、それでも目の前に居てくれるのかな 嘘でも、信じさせてくれるのかな

いのり

いのり

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-06

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