ロマンチシズム

苦悩の物語

第一章


 血の目覚めを感じた。
 どこかで誰かが、「今こそ念願の時である」と叫んでいるような気がした。
 そして、なぜだかその声の主の言っていることが、自らの身体の最奥部に刻まれているかのように感じられ、今、己が何をすべきであるのかを瞬時に理解した。
 それは、今の自分を完全に破壊し尽くすことを意味するものだった。
 だが、それに対する抵抗は全くといっていいほどなかった。
 なぜなら俺は、今の自分にも、この世界にも、未練など欠片もありはしないからだ。



 いつだって、絶望しかなかった。
 大人たちは子供たちにいつの時代でも言う。
「希望を抱け」
「大志を抱け」
「夢を抱け」と。
 それがどれほど困難であるかは、彼らこそが最もよく知っているにも関わらず――否、知っているからこそ次の世代では実現させて欲しいと願い、祈り、何食わぬ顔で無理難題を押し付ける。その、押し付けられたものの重さを子供たちが理解するには何年もの長い時が必要となる。
 だが、俺には必要なかった。
 最初から知っていたのだ。希望など、抱くだけ時間の無駄であるということに。だから、いつも身の丈にあったことしかしない。挑戦なんてしない。だって、それは無駄だから。
 そうやって堅実に生きてきた。でも、その生き方はもう終えねばならない。やることができたのだから、そのままではいけない。
 その結果どうなるのか。大体は見当がつく。ついてしまう。でも、それには目を瞑る。
 俺は今、生まれて初めて希望という実に胡乱なものを本気で抱いていた。
 そして、そんな己を嘲笑う己もすぐ近くにいた。でも、それにも目を瞑った。



 やるべきことははっきりとしている。だが、俺の心はどうしようもなく弱い。だからもう後戻りができなくなるような『枷』を己にはめねばならない。さもないと俺は、きっと途中で逃げ出してしまう。そういう生き方をしていたのだから、それは当然だ。
 普段ならそれでも良かった。だがしかし、今回ばかりはそうはいかない。
 先程、「この世には未練がない」と言った。でも、それは厳密には誤りだ。
 俺は、女の味が知りたかった。チェリーのまま死ぬのは嫌だった。
 だから、その未練をなくし、完全な状態となるために強姦をすると決めた。

 正直、強姦の対象となる女は誰だって良かった。が、極端に醜い容姿の者は流石に避けたい。しかし、そんな心配は全くの無用だった。
 夜も既に更け、もう少しで丑三つ時にさしかかろうかというそんな時間、俺は何をするでもなく滅多に人が通らないような細い裏道で座していた。
するとそこに、極上の女が通りかかった。
一瞬、何も考えることができなくなった。やがて思考能力が回復し、真っ先に脳裏に浮かんだのは、「本当に俺ごときがこの女を犯しても良いのか?」という実に情けない弱音だった。でも、いつまでもそうやって悩んでいたって仕方がない。だから、『犯しても良いのか』という倫理観ではなく、『犯したい』という欲望に忠実になることにした。
(これは儀式なんだ。確実に、務めを果たすための!!)倫理観にはそうやって言い訳することで打ち克とうとして。
背後から忍び寄り、女を思い切り抱きしめた。
「きゃっ!」女が悲鳴を上げる。それによって誰かが通報するかもしれない、という危機感は生じなかった。
 夢中だった。
 この感触に。
 この香りに。
 この暖かさに。
 その素晴らしさに驚き、そして、そのようなものを知らなかった今までの人生は何だったのかと嘆いた。いつまでもいつまでもこの温もりに触れていたい。だが、それは不可能だ。たとえば、この女を自分のものにするなどといったありえないことをしない限り――
「そうだ、それだ・・・」
 不可能を可能にする。それは今までずっと嘲笑い続けていたもの。でも、俺はそんな荒唐無稽なものを信じるって決めてしまっている。その信じる対象は、断じて女を手に入れるなんてものではなかったけれど、一つくらい追加したって別にいいじゃないか。
 だから俺はこの女を口説く。たぶんこれは、俺の初恋――
 初恋は実らないという。だが、そんな事は知ったことか。一世一代の大勝負だ。絶対に負けられない。でもこれは初恋だ。だから当然今まで女を口説いた経験なんてない。自らのデータベースを一生懸命検索する。だが、そんな情報はそもそも蓄積されてすらいないのだからもちろん無意味に終わる。だから、もうアドリブで進めてみようかと思った。
「俺と、結婚して下さい!!」
 ああ、やってしまった。最悪だ。レイプ魔に突然そんなことを言われて、「はい、わかりました。一生愛してくださいね」なんて返答をする女がいったいどこの世界にいるというのだ・・・・・。
「え・・・?いったい何を言って・・・」
 だから当然彼女は困惑するに決まっていて、そして俺は深い絶望――失恋――を味わうことになる。
 初恋はやっぱり実らなかった。でも既に俺は自棄になっていて、だからとんでもない考えに至る。
 せめて、この女の純潔を奪ってやりたい・・・。
 俺は女の股に手をやって、スカートを捲り、ショーツをずり下げた。
 女が悲鳴を上げる。それによって感情を揺さぶられそうになった。だから、聴覚をシャットアウトする。俺は昔から意識的にそんなことができた。もちろん、本当に聴覚を遮断しているわけではない。『聴覚情報をシャットアウトした』と『思い込んでいる』に過ぎない。たったそれだけと口では言っても、実際に行動に移すのは簡単ではない。だが、俺には実に容易かった。
 女の秘部を眼前にした俺の欲望は既に収まることを知らず、いつの間にか下半身は激しく反り立っていた。ここまで隆起した自らのペニスを目にするのはひょっとしたら初めてなのかもしれない。俺はそれを手に取り、秘部に挿入した。
だが、予想していた狭さを感じることはなかった。そこはすでに濡れていた。
「え・・?」驚きから声が漏れる。いったい、なぜ・・・?
 さらに、もう一つの事実が俺を襲った。
 女は、処女ではなかった。
 その二つの事実は、つまりこの女はとんでもない淫乱であることを意味していて―――
 俺のペニスはいつの間にか萎れていて、もう二度とあのような猛りを見せることはないのではないかと思わせた。
 もう、性交などどうでも良かった。だから、女の身体を放し、逃げ出した。あれほど手放したくなかったものは、もう手の中にはない。きっと、もう得ることはないだろう。
 女が通報する確率は決して低くない。ただ挿れただけでチェリーを卒業できたのかどうかは分からないけれど、もうそんなことはどうでもいい。
 早く使命を全うしよう。
 俺は、それ以外のことを考えるのをやめた。
 だから、女のことを抱きしめた時に、何かデジャブーのようなものを感じてはいたが、それについても忘れることにした。



 星が見たくて、空を見上げた。
 空は、濃い灰色をしていた。
 月は見えないことはないけれど、かなりぼやけていて判然としない。
 でも星は、ただひとつたりとも見えはしなかった。
 この空は、まるで己の未来を暗示しているかのようで、気分は重くなっていくばかりだった。
 だから、もうそんな空は見たくなくて、視覚情報をシャットアウトした。



 俺の家はずっと昔、地主だったそうだ。
 でも、日本が戦争で敗北し、アメリカ人が日本に大量にやってきて、その土地を奪っていったそうだ。
 まだ幼かった頃、会うたびに祖父が、そんなことをとても熱く語っていたのをふと思い出した。
 すっかり忘れていたのに、いったいなぜ今になってそんなことを思い出したのだろう。
 ああそういえば、つい最近にも同じようなことをあの時の祖父と同じくらい、いやきっとそれすらも上回るほど熱く語られたような――――――――――――
 あれ?
 あの人は、いったい、だ・・・・・れ・・・・?



 ひどい頭痛がする。使命のことを思い出すと、その度に激しい頭痛に見舞われる。でも、なぜだか使命を忘れようという気にはならない。

 俺は今、山を登っていた。
 血の目覚めを感じたあの時、やるべきことを瞬時に理解したあの時、とある土地のイメージが脳内に流れ込んできた。無性にその土地に出向いてみたくなったのだ。
 そこへの道のりは半端無く険しいものだった。でも昔、誰だったかは忘れたけど、誰かから身体を鍛えておくようにと口うるさく言われていて、だからこの程度の険しさはどうということもない。険しいといってもそれはあくまで一般的な人にとってのことなのであり、俺にとってはそう大したことではない。日頃の努力に少しばかりの感謝をした。ビバ普段の俺。

 どれほど歩いただろうか。そろそろ空腹感を覚え始めたあたりで、ようやく目的地を見渡せる場所に出た。はず、なのだが・・・・
「なんなんだ・・・この荒地は!!」
あの時流れこんできたイメージでは、この場所は実に見事な庭園だった。それをひと目見ることさえ出来れば、どんな荒んだ心であろうとたちまちに回復の兆しを見せると信じて疑わないような、そんな素晴らしい庭園だった。
 でもそれは、すでに過去のこと。楽園とも思えた場所は、今ではただの荒地でしかない。
 その惨状は確かに許しがたいものであろう。でも、それはこの場所に馴染み深い人ならばの話だ。俺は、記憶が確かならば、この場へ来るのは初めてだ。だから当然、その素晴らしかった頃の庭園の実物は見たことがない。なのに、なぜ、こうも苛立つのだろうか。

 そんなことを考えていたら、ある外人(おそらくはアメリカ人だと思われる)の姿が脳裏に浮かんだ。彼は決して若くはなく、おそらく還暦を迎えているのではないかと思われる風貌だった。
「がっ・・・!」その直後、脳内に膨大な情報が送信(・・)されて(・・・)きた(・・)。
氏名性別生年月日血液型住所配偶者息子娘交友関係職場母校・・・・・
「うわあああああああああ・・!」そのあまりに膨大な情報量に、頭痛がより一層ひどくなる。いったい、これはなんなのだ・・・。なぜ俺は突然こんなことを知ったんだ。誰かが送ってきたのか?脳内に直接?いったいどんなオカルトだ。猫型ロボットが机の引き出しから現れるような世界ならともかく、この世界でそんなことがあるものか。
そんなこんなで、かなりの混乱状態だった。でも、口が勝手に動いて、
「殺してやる・・・・」と、そうつぶやいていた。

 身体が勝手に動く。目的へ向けた最も効率的な行動をする。まるで、自らの身体ではないのではないかといった錯覚に陥るほどに機械じみていた。でも、俺はそれがおかしな事だとは微塵も思わない。むしろ、感謝している。たとえ自らに『枷』をはめているからといって、それだけでは俺の弱い心を完全に律するにはあまりにも不十分だ。だから、たとえば誰かに操られているのだとしても構わない。それだけ、俺は怒りに満ちていた。

 効率的とは、すなわち最善というわけではない。
 俺の目的はあの米人を殺すこと。その最も効率的で、手っ取り早い方法は、背後から忍び寄り頸動脈を切断することである。だが、そのような殺し方をすればまず間違いなく俺は捕まるだろう。この国のポリスは有能だ。その程度は造作も無いことだろう。
 でも俺は、それでも良かった。すでにこの世に、未練はない。だから、たとえ捕まったとしても構わない。むしろ、ブタ箱の中に居れば少なくとも餓死することはないのだから、願ってもないことだ。

 早速ナイフを調達し、米人の家に向かった。
 米人の家は住宅街から大きく離れ、とてもひっそりとした場所にある、というのが先に得た情報だった。
 だが、何もなかった。
 その場所には、何もなかった。
 そこは空き地だった。
 だから、当然家なんてない。
 目眩がする・・・・・。
 何かがプツンと途切れた気がした。
 そして、意識は途絶え、俺の物語は終わった―――――

第二章

 私は、ある男に犯された。いや、正確には犯されかけた、というべきだろうか。まぁ、細かいことはどうだっていい。だってあの出来事は私にとって、そこまで大事件というわけではなかったのだから。
 でも、とても気になることがあった。なぜ、あの人は突然『あんなコト』をしてきたのだろうか。そしてあのとき、あの人の様子は日を見るよりも明らかに、異常だった。普段からそうだったといってしまえばそこまでの話ではあるけれど、でも私はそうではないと思うし、そうではないと信じたい。だから、彼の跡をつけることにした。
 なぜそんなふうに思うかって?そんなの決まってるじゃない。
 彼のことが好きだからよ――――


 でも、ちょっとだけ後悔・・・まさか山に登るとは思わなかった。いったい彼はなぜ登山なんてしてるのだろう。健康のためとかいうありきたりな理由という可能性もないわけではないのだけれど、それは違うなってなんの確証もなくそう思った。
 まぁ、なぜ登るかなんて跡をつけてるんだからそのうち分かるかな。
 その時、奇妙な男の姿を目にした。その男は、どこかで見たことがあるような気もしないではなかったけれど、世界にそっくりさんは三人はいるというし、それに気のせいってこともある。だから、特に気にしないことにした。

 とまぁ、ここからも流れに沿っていちいち説明していこうかと思ったけれど、正直な話、めんどうなので、ざっくりと言っちゃうことにする。

 彼は、荒地を眺めて酷くショックを受け、突然叫びだし、(もしかしたら気のせいなのかもしれないけれど)その後何か物騒なことをいっていた。
 そして自宅へ戻り、何かを取ってきたみたい。
 それからまた出かけた。なんとその目的地は空き地だったのだからビックリ。それからいきなり倒れちゃったんだからさらにビックリ。
 なんというか・・・ぶっちゃけ意味分かんない。でも、好きな人の行動だから目を瞑る。あら、私ってなんて健気な女なんだろう。

 当然この続きもあるんだろうけれど、私にはそれは分からない。だって、私も気絶しちゃったから。たぶん、後ろから誰かに襲われたんだと思う。けど、それが誰なのかは残念だけど分かんない。
 だから、私のお話はここで一旦おしまい。ずいぶんと短かったような気もするけれど、最後にひとつ。
 彼が向かった空き地。そこは、私の今は亡きおじいちゃんが住んでいたところだった。おじいちゃんはアメリカ人だった。つまり私にはステイツの血が四分の一含まれてるってこと。とはいっても、見た目からはそんなことはたぶん分かんないと思う。ああ、そういえばちょうど戦後あたりのときのご先祖様もアメリカ人だったとか。で、その人もおじいちゃんと同じ所に住んでいたとか。まぁ、それはどうでもいいことかな。
 ちなみに、私の苦手科目は英語。

第三章


「ハロー世界!アイアム世界!ディスイズ世界!ではではワットアーユー!?」
「…………」
「…………」
 これが、僕と彼女のファーストコンタクト。実に当たり前な話だけど、僕は彼女に変な人を見るかのような視線を送られた。でもそれは、僕にとっては喜ばしいことでもあったんだ。
 僕は彼女に惚れていた。だから、たとえどんな反応だろうと、(さすがに嫌われたらショックだけど)彼女に僕ってそんざいを意識――いや、この場合はまだ認識かな。まぁ、どっちでもいいけど、とにかくそういったことをしてもらえるのは嬉しいんだ。
 ああ、ちなみにこれはテンパってたわけじゃなく、いつもこんな風なんだ。とはいっても、もちろん障害者ってわけでもなくて、ひょうきん者ってイメージさ。
 これが僕の処世術。
 ほとんどのひょうきん者と同じく、僕のこのキャラはもちろん演技。素の僕は、まぁ・・・ニヒリストだとか,ペシミストだとか・・・そんな感じ。でも、そんな姿は他人には絶対に見せない。そんな自分をカッコいいだなんて思っちゃうのは中二で卒業したよ。僕の場合はそうなるより前からひょうきん者っていうキャラで通ってたから、みんなジョークだと勘違いしてくれた。当時は忸怩たる思いというか、まぁとにかくそんなふうに思ってたけど、今思うとすごく恵まれてたね。アイワズラッキーボーイ!!
まぁ要するに、最初がこの反応だったってことは、つまりは僕の独壇場だってこと。
 常にこうやって人間関係を計算し続けるのは、正直虚しいけど、でも僕にはこれ以外の方法がないのだから仕方がない。
 それにさ、全く計算せずに良好な人間関係を築ける人なんてほとんどいないでしょ。
 そう。『ほとんど』
 ということはもちろん例外があるわけで。だからこそ僕は彼女に惚れたんだろうね。彼女にはそういった計算高さは感じられなかった。僕は同属を見ぬくのが殺人的に得意なんだ。なのに彼女からは同属の気配というか臭いというか、そういうものを感じられなかった。彼女の周囲には大勢の人が集まるにもかかわらず、だ。ということはつまりはそういうこと。

 これは、僕と彼女の物語―――――


 ファーストコンタクト以来、僕は彼女に毎日アタックした。
 彼女は相変わらずの視線を送ってきてはいたけど、それも少しずつではあるけど難化していっているように思えた。つまりは計算通り。
 でもある日、彼女はぼくにこう言った。
「ねぇ、どうして自分を偽っているの?」
「っ!?」それは決定的だった。致命傷だった。まさか、バレているとは思わなかった。彼女にバレていたということはもしかしたら他の人にも気づかれている可能性が―――
「ああ、安心して。たぶん他の人は気づいてないと思うわ」
「そ、そう・・?じゃなくてっ!い、いったい何いってんだユー!?」
「それをやめてって、そう言ってるのがわからなかった?」
「…………」
「…………」
「はぁ…降参だよ。で、いつから?」
「初めて会った時から。偽りのあなた風に言うならファーストコンタクトの際からよ」もしかして、馬鹿にされているのだろうか……
「どうしてそんな指摘を今更?」
「あら、意外と驚かないのね」
「僕の演技は途中で見抜かれるようなボロは出ない。つまりバレるなら最初からに決まってるさ」
「……ずいぶんといい性格してるわね。でもそういうのも嫌いじゃないわよ。答えがわかっているのに質問するだなんて、何の意味もないどころか相手を馬鹿にしているだけとしか感じられない。でも、それをした。しかもそれだけじゃなくて、自分の演技力の自慢までしていくなんて、なんて最高なんだろう」
「言ってくれるね……。もしかして僕のことが嫌いなのかい?」
「まさか、そんなことはないわ。大好きよ。ええ、大好きよ」かのじょはとくに恥じらうわけでもなくそう言ってのけた。普段だったら舞い踊るくらい嬉しかったんだろうけど、こんな状況で言われてもまったくそんなことはなく、ただただ困惑するばかりだ。そんな僕の様子を見てクスクスと笑っているのだから、彼女は僕なんかよりもよっぽどいい性格をしていると思う。もちろんそんなことは言わないけど。
 でも、それでも彼女はみんなに好かれているっていうんだから、かなわない。僕のような道化師とはそもそも格が違うのだろう。いや、核からして段違いなのだろう。
「で、僕の正体をものの見事に暴いてくれちゃったわけだけど、そんな君の目的は?まさかただ僕が慌てるのも見たかったってわけじゃないんだろう?」

「私と付き合って」

 世界が止まったような気がした。そんなことはあるわけがないと分かってはいても、そう思ってしまうほど、彼女のその言葉は強大なインパクトも孕んでいて、だからやっぱり困惑するしかない。
 でも――――
「いいよ」と、そう答えた。それも即座に。
 いろいろと言われたけど、やっぱり僕は彼女のことが好きだったんだ。少々想像していたのとは違ったけど、それでもやっぱり僕は彼女が好きだったんだ。
 要するに、僕は彼女にぞっこんだった。

 そして、僕らは付き合い始めた。
 大事件なんてものもなく、そう、まさに順風満帆のラヴライフだった。
 実は彼女のあの口調は作り物で、本当はもっとずっと親しみやすかったってのはかなり驚いたけど、それでもやっぱり好きだった。
 つまりはすごく幸せだったってこと。
 うん。
 すごく、幸せ、だった―――

第四章

 いつだって、絶望しかなかった。
 大人たちは子供たちにいつの時代でも言う。
「希望を抱け」
「大志を抱け」
「夢を抱け」と。
 それがどれほど困難であるかは、彼らこそが最もよく知っているにも関わらず――否、知っているからこそ次の世代では実現させて欲しいと願い、祈り、何食わぬ顔で無理難題を押し付ける。その、押し付けられたものの重さを子供たちが理解するには何年もの長い時が必要となる。
 だが、俺には必要なかった。
 最初から知っていたのだ。希望など、抱くだけ時間の無駄であるということに。だから、いつも身の丈にあったことしかしない。挑戦なんてしない。だって、それは無駄だから。

 しかし、そんな俺を宗旨変えさせる決定的なことが起きた。
 息子が家に女を連れてきた。その女と付き合っているそうだ。
 それだけなら良かった。
 俺は父とは違って家の悲願などには全く興味がなかった。だが、己のうちで今まで欠片ほどもなかった炎が燃え上がってきた。
 俺は咄嗟に二人の前から離れた。そうしなければ、きっと息子の連れてきた女を殺してしてしまっていただろう。なぜなら、その女こそが我が一族の敵の末裔なのだから―――

 その日から、俺は狂った。
 何が何でも悲願を果たす。俺にはそれ以外のことが考えられなかった。でも、俺は弱い。自分で罪を犯すのはたまらなく嫌だった。だから、息子にやってもらおうと決めた。
 とはいっても、今の息子にそんなことを言ったとこで「はい、わかりました」などと答えるはずがない。第一、息子には家の悲願について教えていない。教えていたらあの女を連れてくることもなかっただろう。
 しかし、何も問題はない。ただ俺の人格をトレースすればよいだけだ。
 IT関連の技術は日進月歩の勢いで怒涛のように進歩している。ゆえに、その程度のことは、既に数年前から可能だった。
 もちろん、それは犯罪である。だが、殺人よりはポリスに発覚する可能性は低い。それにこれは実証するのも難しい。つまり、一応罪ではあるが、実際のとこは形だけのどうとでもなるような、その程度の罪でしかないのだ。

 人格のトレースといったが、厳密にはそれは誤りである。記憶のトレースといったほうが正確だ。だが、人格などといったものは、結局は記憶に左右されるものでしかないので、結果的には同じなのだからどちらでもいいものなのかもしれない。なので、俺は人格トレースと呼ぶことにした。
まず、俺の記憶をデータ化する。そしてそれを息子というデバイスにコピーアンドペーストする。ただそれだけど、人格トレースは完了する。
 それによって脳が耐え切れずに廃人化するケースもあるそうだが、既に狂ってしまっている俺にはそこまで考えが至らなかった。幸い、今回はそうはならなかったようだが。
 人格トレースが完了し、それから再び動き出すにはそれなりの時間を要する。その間に息子――いや、もう一人の『俺』を運ぶ。こんなところで目を覚まされては困る。とりあえず、公園のベンチにでも寝かせておくことにした。あとは、観察していれば良い。

 『俺』が動き出した。俺と『俺』は無線で接続している。
「今こそ念願の時である」
 だから、こうやって音声を飛ばすことだって可能だ。もちろん親はこちらなので、『俺』のほうから俺にはアクセスできないように設定している。
 「あ………」
 俺は肝心なことを失念していた。あの女は確かに敵の末裔だ。だから、当然あの女は敵だ。それはいい。だが、その親達のことを忘れていた。『俺』の様子はどこからでもモニタリングできる。なので一旦家に戻り、父の資料をあさって調べることにした。

 半日ほど経過しただろうか。ようやく発見した情報を『俺』に送信した。そして、その膨大な情報量に『俺』が苦しむ。自分の息子のそんな姿を見ても何も感じない自分に気づき、そんな自分に対してシニカルに笑った。

 それからまたしばらくして、『俺』が家にナイフを取りに来た。それから出かけていった『俺』に俺は付いて行くことにした。
 歩きながら、いろいろなことについて考えていた。たとえば、資料をあさっている間、結局モニタリングしていなかったけど、もうあの女は殺したのか、とか。これでようやく悲願を果たせるのか、とか。
 その前者についてはすぐに知ることになった。
 あの女も俺と同じく『俺』を追跡していた。なんということだ。今日一日『俺』はいったい何をしていたというのだ……。

 住宅街へ入り、しばらくして『俺』が立ち止まった。
 そこは、空き地だった。驚愕に声が漏れそうになる。そんな馬鹿な、ここはあの米人の家があるはずだ。なら、あの女はどこに住んでいるのだ。待て、そういえばあの資料はいったいいつの時代のものだった? もしかして、あの米人はもう生きていないのか……?
 集中力が極端に乱れ、無意識のうちにアクセスを遮断していた。そして、それとは一切関係ないはずだが、全く同時に『俺』が倒れた。
 何も考えられないが、それでも身体は勝手に動き、スタンガンを押し当て女を気絶させた。
 
『俺』が突然倒れたのは、おそらく短時間のうちに次々と情報を送りすぎたツケが返ってきたせいだろう。つまり、もうこいつは使えない。だから、本当は嫌だったけど、俺が、この女を殺す。倒れた女の首に手をかけ、そして力を―――
「やめてくれないかな」それは、まさに突然だった。
「そいつは僕の大切な大切な娘なんだ。そして、そこで倒れてる君の息子の彼女でもあるはずだ。君ら一族のことは父から訊いて知ってるよ。なんでも、僕らのご先祖様が君等の鳥を奪ったんだとかなんとか。ほんと、それいつの時代の話だよ。そんな大昔のことをいくらなんでも引きずり過ぎだよ。それに、あの土地は父が君らに返還したはずだよ。なのに、まだこんなことを続けるのかい?」
 突然現れた男は俺が何かを言う間もなく一気に捲し上げた。
 いや、そんなことはどうでもいい。肝心なのはその内容だ。
 既に土地は返還されている?
 この男が倒れている女の父ならば、更にその父ということは時代的にそのとき返還されたのは俺の父のはずだ。なぜ父は俺にそのことを伝えなかった?
 いや、それとも伝えていたのか?
 ただ俺が覚えていなかっただけで?
 ならばいったい、今までのことは何だったんだ?
 俺は何をやった?
 『俺』は――いや、息子は、俺のせいでどうなった?
「あ、あ、あ、うわああああああああああああ!!」
 その瞬間、今度こそ俺は壊れたのではないかと思った。
 修復は絶対不可能なくらい、完璧に。

第五章

 目覚めは最悪だった。
 たぶん、倒れた時に打ったのだろうけれど、頭が痛い。それに、ところどころに擦り傷もある。つまりは私はボロボロだってこと。
 それと・・・あれ?なんか、ここ、見たことがあるような・・・。
 「ようやく目が覚めたか、マイドーター」
「え?あ、お父さん?久しぶり~」
「なーにが『久しぶり~』だ。山であったのに声掛けてくれない僕はショックだったよ」
 あー、あれお父さんだったんだ・・・。正直誰だか分かんなかった・・・。まあ、しばらく会ってなかったんだから仕方ない・・・よね?
「そういえば私の身体、なんか擦り傷だらけなんだけど、どういうこと?ただ倒れただけじゃこうはならないと思うんだけど・・・」
「あー、君も知っての通り僕は非力だからね。車まで持ち上げることができなかったんだよ」
「え、ってことは・・・」
「うん。車に入れるために引き摺っちゃった☆」
「いやいやいや!!確かにお父さんに気づかなかったのはちょっとアレかもしれないけど、さすがにそれはないでしょっ!?」
「あれ無視したんじゃなくて、僕だって気付いてすらいなかったの!?」
「あっ、しまった!彼のところに行かないと!もうそんなのどうでもいいから案内して」
「どうでもよくないよ!超重要だよ!」
「お父さん・・・・」
「・・・・彼は大丈夫だよ。今はまだ隣の部屋で寝てると思う。もっとも、完膚なきまでに完全無欠に大丈夫ってわけではないけどね」
「それって、どういうこと?」
「彼というデバイスに父親の記憶がコピーされている。それが上書きコピーだったら、彼がその父親とまったく同じ人物になるってだけだから、まあ、良くはないけど最悪ではなかったんだけどね。つまり、彼の脳内ハードには、彼とその父親、計二人分の記憶(データ)が書き込まれている。当然、脳がそんな膨大な情報量を処理できるはずがなく、その両方の記憶(データ)を削っていく事で安定させているようだ。その処理も相当な負荷を脳に与えていただろうね。だから、彼は倒れたんだ」
「両方の記憶(データ)が削られたって・・・。じゃあ、今の彼は?」
「彼自身と父親の融合体みたいなものさ。いや、父親の方が記憶(データ)量は大きいに決まっ散るから、たぶんだけど彼と父親は一対二くらいの比率なんじゃないかな・・・」
「そ、そんな・・・」視界が暗くなる。何も考えられなくなる。
 いや、一つだけ考えられた。それは、彼を楽にしてあげて、それから自分も――
「でも、もとに戻す方法がないわけではないよ」
「え・・・?」
「ないわけでは、ない。けど、それは――」
「教えて!!」
「・・・記憶のコピーは、違法化はされたけど、結局のところ実証が難しいからあまり意味のある法律ではない。それは、政府も分かってる。だから彼らはもうひとつの法律(ルール)をつくった。コピーを可能とするマシンには、必ずコピーする前の状態をパックアップしておく機能をつけて、その機能は絶対にオフにできないようにしろ、というね。そうすれば、もとに戻す可能性は生まれる。けれど、それはあくまで可能性だ。当然、リスクはある。今回の場合、まず彼というデバイスをリセットして、それから元のデータを書き込む以外に方法はない。そんなことをすれば、彼がいったいどうなるのか。僕には想像できないし、極力したくもないね」
「それじゃあ・・・」
「ああ、諦めな。いくらなんでも危険すぎる」
 お父さんの言葉を聞き、私はすでに諦めかけてしまっていた。でも――
「いえ、やってください」彼は、違った。
「君は・・・。まだ寝ていると思ったんだけど、もう起きてたのか」
 そこにいたのは、見間違えるはずもない。もちろん、彼だった。私の愛しい彼だった。
 「俺・・・いや、僕は、このままでは駄目なんです。このままでは、彼女を――あなたの娘さんを、幸せにすることなんてできない。それに、どうなるかも分からないって言ってましたけど、どうなるも何も、今の状態だって僕にとっても、彼女にとっても最悪なんですよ。だから元に戻れる可能性があるならば、それに縋りたい。たとえそれが、確率と呼ぶことすら憚れる、ほんの僅かな可能性だとしても、僕はそれに縋りたい。奇跡を、信じたい。だから、どうか、お願いします・・・!!」
 今の彼は、たぶん私以外の人から見たら、今までの、普段の彼と何ら変わりないのだろう。ただ、普段とは違って真面目なだけで、それ以外の違いは感じられないのだろう。
 でも、私には、彼が無理をしているのがわかってしまう。無理をして、必死に普段の自分を演じているのが、わかってしまう。
 彼は本当に辛いのだろう。今の、曖昧な、この状態が。
 だから、私はそんな彼を救ってあげたい。
「お父さん。私からも、お願いします!!」
「・・・」
 私達二人の必死の説得で、納得はしてくれなかったけれど、どうにか了承はしてくれた。私は、これでやっと幸せな日々に戻れるんだと、信じて疑わなかった。
 でも―――

終章


 『国内を揺るがす、大量無差別殺人事件が発生した。
 にわかには信じがたい話ではあるが、その犯人は女性だった。
 彼女は狂気にとらわれ、道行く人々を手当たり次第、目当たり次第、殺していった。
 即座に通報され、警官が現場に到着したが、その時点で既に被害者数は三桁にも及んでいた。到着した警官すら女によって殺され、最終的には機動隊すらも動員することによって、ようやく女を捕縛することに成功した。
 女は大量のドラッグを摂取しており、それによってあの驚異的なまでの身体能力を発揮していたようだ。そして、その副作用により、彼女の肉体と精神は破壊された。
 だが、一部の者の間では、彼女の精神はドラッグ使用以前から破壊されていたのでは、という声が上がっている。
 事件が発生する数週間ほど前、彼女の父親が、彼女の恋人の脳に不正な処理をはたらき、その結果、青年は脳に深刻なダメージを負い、植物人間になっていた。
 それが原因で、彼女は壊れ、そして今回の大惨事を引き起こすきっかけとなったのではなかろうか。
 今後、この事件を機に、法改正を余儀なくされていくのは疑うまでもない。これからの政府の働きに期待したい。』

 そう打ち終えて、男は立ち上がった。
 彼の仕事はフリーライターだ。多種多様、様々な雑誌に載せる記事を書き、生計を立てている。彼は今、最近起きた事件の記事を担当している。
 彼がこの事件を担当することになったのは、彼がこの事件のきっかけとなった青年の父親だったからだ。だからこそ、出版社は彼に依頼した。
 つまり、彼のしでかしたことは世間には発覚していないということである。
 青年の意志を尊重し、救ってやろうとした男は、罪に問われた。
 そして、
 自らの息子を、己のエゴによって苦しめた男は、仕事を得た。
 世界はこのように、とてつもなく理不尽にできている。
 だから、夢も希望も抱くことができなかったとしても、それは仕方のない事だ。
 人々は、そんな者を抱く者を、愚かだ、馬鹿だ、阿呆だ、と揶揄する。
 しかし人々は思うのだ。
 もし、自分が愚かだったら。
 もし、自分が馬鹿だったら。
 もし、自分が阿呆だったら。
 でも、所詮それはあくまで『たられば』の話。結局は、誰もがリアリストで在り続けるしかない。ゆえに、苦しむのだろう。
 これは、愚かなる者たちの物語。
 この物語の登場人物は、どいつもこいつも、皆が皆、理想を追い求めるロマンチストだった。だからこそ、破滅した。
 つまりそれは、生きていく上ではロマンチストであるよりも、リアリストである方が賢い選択だということ。
 にも関わらず、人々はロマンチストでありたいと願い、祈るのだ。
 それはなぜか。
 それを語ることは簡単だ。だけど、あえてそれをしない。
 理屈ではないのだ。
 フィーリングが全てなのだ。
 そんなものを言葉で表すことほど滑稽なことなど、そうそうない―――

余章


 物語は既に完結している。
 ゆえに、此処から先は蛇足でしかない。


 これは、たとえばの話。
 もしかしたらありえたかもしれないけれど、そうはならなかった、そんな話。
 だから、絶対的に絶望的に、そして致命的なまでに無意味だ。
 これは、彼と彼女の幻想の話――否、妄想の話だ。
 彼と彼女は、たとえばこんな未来を望み、奇跡に縋り、そして幸せな未来をつかもうとした。
 でも、結果は実に無惨なもので、
 誰も救われず、
 誰も助からず、
 誰も幸せにはならず、
 そして誰もが不幸になった。
 こうなることは誰にでも想像できた。
 でも、誰も想像しなかった。
 お伽噺のようなご都合主義的な展開になってくれるだろうと、楽観的になり、無茶をし、そして全てが失われた。
 こんなことをしなければ、きっと少なくとも今よりは幸せになれたのだろう。
 だけど、彼と彼女にはそれだけでは足りなかった。満足できなかった。
 中途半端な幸せではなく、完全無欠の幸せを願い、求め、そして破滅した。
 しかし、いったい誰が彼らを責められようか。
 彼らは、人として実に当たり前の欲に従ったに過ぎない。
 ただ、それが運任せの、人の身には過ぎた欲だっただけだ。

 さて、前置きはここまでとしようか。
 では、あまりにも無意味な話をしよう―――

 処理は無事に完了し、僕は元の僕に戻ることができた。
 そして、今までのことを思い返していた。
 彼女との馴れ初め、
 そしてそれからの幸せな日々、
 それから、何もかもが壊れてしまっていた日々。
 辛くて、苦しくて、もうなにもかもが終わってしまうかと思ったけど、僕は元に戻れた。
 だから、父さんのことも許すことにした。
 最終的に元に戻ることができたのだから、それでもいいと思った。
 倒産はあの事件をきっかけとして、感情をなくしてしまった。仕事には支障はないみたいだけど、それでも僕は心配だ。
 そんなことを彼女に言ったら、
「あなた、良い人過ぎ・・・」なんてことを言われた。実際、彼女の言うとおりなのかもしれない。
 まあ、それはどうでもいいことだ。
 そうそう、僕は彼女にプロポーズした。結果は、言うまでもないだろうけど、もちろんオーケーだった。まったく、嬉しい限りだ。
 式まではまだもう少しあるけど、僕らはきっと生涯共にいられると思う。
 それと、彼女にどうして告白してきたのかを尋ねてみた。
「一目惚れよ・・・」だそうだ。まさか、二人揃ってそんな理由だとは思わなかった。
 付き合い始めたのはそんな理由でしかなかったかもしれないけど、今はもうぜんぜん違うのは明らかだ。
 僕らは絶対に幸せになれる。そうならないはずがない。
 だって、僕らはもう一生分の不幸を経験してる。これ以上不幸になるだなんて、いくらなんでも理不尽すぎるじゃないか。

 さて、そろそろ彼女との約束の時間だ。
 最後に一つ。

 僕らは、絶対に幸せになれる―――

ロマンチシズム

誰もが幸せになれる道なんてのは、あるのでしょうか?

ロマンチシズム

何も判然としない……。青年は、自分が誰で、どういった人間で、そして今いるのがどこなのか、その全てが分からない。けれど彼にも一つだけはっきりとしていることがあった。それは、何としてでも果たさねばならぬ使命だった――

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • サスペンス
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-30

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  1. 第一章
  2. 第二章
  3. 第三章
  4. 第四章
  5. 第五章
  6. 終章
  7. 余章