取り扱い注意

nanamame

取り扱い注意
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音楽番組の事前収録のために来たテレビ局。今回は100%事前収録の放送なので、自分たちの番が終われば、退勤できる。The Boyzの番は、ついさっき終わった。
チャニとチャンミンは、トイレから楽屋までの、物や人で溢れた廊下をお喋りしながら歩いていた。
チャニは廊下の隅の方で、不審な動きをするスタッフらしい男を見つけた。チャンミンと2人で静かに様子を見守る。男は、ジュースのペットボトルを何本か前に置いて、そこにカプセルのようなものを入れた。
ヤバイやつだ、と2人は怖くなったが、怪しい薬の入った飲み物を誰かが飲むことになる、と考えると、そちらの方が恐ろしい。マネージャーでも、スタイリストなどのフタッフも、アイドルは信用しきっている。疑うことがない。
正義感、という程でもないのだが、2人はその男に声をかけた。

「何をしているんですか?」

男は飛び上がる程驚いて、ペットボトルも薬も置いて、一目散に逃げていった。

「何なの? もう~」 チャンミンは怒りで頬をふくらませる。

チャニは、男が置いていったものを見る。ペットボトル3本、小さいチャック付き袋に入ったカプセルが3錠。色のついたジュースを外から眺めても、カプセルが入れられたものがどれか分からない。どれも怪しくて飲めないな、とチャニは思って、ジュースを捨てるために持った。チャンミンが袋を持つ。

「何の薬だろう? 栄養剤、ってことはないよね…」

怪しいものでないのなら、コソコソする必要はない。ジュースはちょっともったいないけれど、3本まとめてガコンとゴミ箱に捨てた。

「チャンミンも、そんなの捨てて」

だが、チャンミンは薬を眺めたまま、何やら考えている。チャニが首を傾げると、チャンミンが声をひそめて言った。

「これさ、アレじゃない? 例の媚薬」
「…はあ?」 呆れて、ちょっと大きい声が出る。チャンミンがチャニの口を塞いだ。

“媚薬”と呼ばれている薬が、若者の間で広まっている。性的な気分が盛り上がるだけで、トリップしたり、中毒になったり、危険性があるようなものではない、と言われている。密やかに、だが急速に広まっていて、ネットで簡単に買えるが、値段はピンきりだ。安いものは偽物で、高すぎるものは逆に危険だ。
チャンミンはちょっと興味があって、調べたことがある。買う一歩手前まで行って、やっぱり駄目だ、と思って引き返した。その時見たものと、今手の中にあるカプセルは、同じものだった。何故これがほしかったか、と言うと、チャニと使いたかったからだ。

「ねぇ、飲んでみようよ」 チャニと腕を組んで、チャンミンは訴える。
「えぇ~? 嫌だよ、…怖いじゃん」 チャニは拒否して、組んだ腕を外す。

チャンミンはちょっと不満そうだが、その時はそれで収まった。楽屋に戻ると、遅いぞ、と言われた。みんな揃って、次の仕事に向かう。1日中ぴっちりと詰まったスケジュールをこなして、宿舎に戻った頃には、チャニは拾った薬のことをすっかり忘れていた。


 ***


明日は休みだ。新曲活動も一段落した。開放的な気分で、チャニはベッドの上で「う~ん」と身体を伸ばした。チャンミンに名前を呼ばれて、彼のベッドに移り、隣に座る。「ほら、これ」と、携帯の画面を見せられる。カプセルの画像だ。目を凝らすと、小さな英数字もついている。

「これが何なの?」

聞くと、チャンミンが小さなチャック付き袋を、目の前に突き出す。

「同じもの!」 なぜか嬉しそうだ。
「まだ持ってたの?」

チャニはほとんど忘れていた。袋を手に持ち、中のカプセルをよく見ると、確かに英数字も同じだ。チャンミンが言った通り、媚薬であるらしい。嫌な予感がする。というか、自分たちで使う気満々という感じだ。

「僕は、嫌だ」 袋を突き返す。
「ええ~、せっかくあるのに。使ってみようよ」 チャンミンはちょっとしつこい。

関係を持って久しいが、特に変わったもの(例えば大人のおもちゃとか)を使ってしたことはない。いい香りがするジェルを数種類持っているとか、いいスキンを探すため、いろんな種類を買うとか、そんな程度で、(他所のカップルのことは知らないが)至って普通だと思っている。欲求が溜まってきたら、それだけで性的な気分になれるし、媚薬なんてなくても、充分気持ちよくなれる。

「こんなの無くっても、チャニの身体に触るだけで興奮するけどさ、あるとまた違うかも知れないじゃん」

チャニが思っただけで言わなかったことを、チャンミンは普通に口にする。手で口元を隠して、チャニは明後日の方向を見た。
抱きつかれて、ベッドに押し倒される。期待に満ちた、キラキラした目で見つめられる。チャニは、この目に弱い。

「良いでしょ? 一緒に飲むから。使った人も、みんな危ないものじゃないって、レビューしているし。お願い。ね?」
「…うーん。…仕方ないなぁ」

結局チャニが折れた。1人1錠ずつ、水で飲む。すぐに効果があるとも思っていないが、あまりに変化がないので、本物かな? と疑わしい。
深いキスをして、お互いの身体を触り合う。胸元までたくし上げられた服が邪魔で、チャニは自分で全部脱いだ。チャンミンも服を脱ぐ。
抱き合うのは、久しぶりだ。活動中は、忙しすぎて、セックスをする体力も仕事に吸い取られる。
熱い素肌を感じる。きめ細やかな肌、ダンスで培われた筋肉、すでに勃っている男の中心。自分のものではない熱と感触、全部、興奮する。お互いに相手のものを握り、擦り合わせる。

「あっ、あぁ、ん…」 ああ、もういきそう。
「1回、出しとく?」 チャンミンに抱きついて、チャニは何度も頷いた。

いく瞬間の高揚した声は、キスで覆われた。こんな早いのは嫌なのに、今日は何だか、いつもと違う。「媚薬の効果かな?」と、チャンミンはとても嬉しそうだ。チャニは、単に久しぶりだから、と思いたい。
チャンミンのものを、2人の手を重ねてしごく。彼もすぐにいってしまう。
ジェルと精液がたっぷりついた指で、後ろが広げられていく。いつもチャニが入れられる方だ。交代しよう、と何度か言ったことがあるが、実現はしていない。女役、という言葉には抵抗があるのだが、挿入されて中で感じる快感は、嫌いじゃない。3本の指が、中をかき乱す。

「あぁ、もう、いいよ…。入れて…」

自分が口走った言葉に、チャニは恥ずかしくなった。こんなこと、いつもは言わない。顔を覆った手をはがされて、激しい口づけが降ってくる。指が抜けた感触のすぐ後、硬いものが奥まで一気に入ってくる。チャンミンは、いつもより性急に腰を振り、快感を追い求める。

「ああっ、や、待って」
「…っ、無理。いい、チャニの中、いいよ、気持ちい…」

久しぶりなのに、激しく揺さぶられて、チャニはついていけない。腰と足を捕まれて、逃げられない。服があれば、ぎゅっと掴めるのに、チャンミンの背中には羽もない。背中に爪を立てても、汗で滑りそう。力が入っている腕の筋肉に縋り付く。あえがされながら、頭の片隅で、声を抑えなきゃ、と妙に冷静に考えている。関係を知られているのと、それを隠さないのは別の話だ。

キスで声を塞いで、2人は同時に果てた。余韻に浸りながら、ただ抱き合って、上がった息が収まるのを待つ。チャニは、いい汗かいた、と額についた前髪をかきあげる。もう、抜いてくれてもいいんじゃないかな、と思ったが、言わなかった。だが、言わないでいる内に、挿入されたままのそれが、再び硬くなっていくのを感じる。

「え?」 驚いて、チャンミンの目を軽く睨む。
「えへへっ。もう1回」 無邪気な笑顔で、頼んでくる。

いや、だから久しぶりなんだって、と終わりにしたいのだが、中心を握られ、軽くこすられるだけで、チャニのも硬くなってきた。
うつ伏せにされて、抜き差しが繰り返される。中で当たる角度が変わって、また違う快感が背筋を伝って、脳まで届く。結局もう1回やってしまった。


 ***


休みの日の朝なのに、設定したままのアラームが鳴って、目が覚める。チャニは携帯がある辺りに手を伸ばすが、全然届かない。おかしいな、と思いながら、起きる。携帯はいつもと同じ、充電器のところにある。そこに手を伸ばすが、自分の手が何か小さい。短い。着ているTシャツが、何か大きい気がする。ベッドの上に座ると、シャツがずれて、左肩が朝の空気に晒される。ぺたぺたと自分の顔や身体を触り、周りを見回す。チャンミンはいつも通りの体勢で寝ている。見慣れた普通の大きさだ。足元に、パジャマのズボンが落ちている。昨夜、シャワーを浴びた後、着たものだ。自分の足を見ると、やはり小さいし短い。

「あれ?」

もしかして、僕、縮んでない?

鳴りっぱなしの携帯を、チャンミンが手に取る。アラームを切った。うーん、と伸びをして、目をこする。

「まだ8時じゃん。もうちょっと寝たいなぁ。ねぇ、チャニ?」

チャニを見たチャンミンが固まる。首を傾げて、頭を振る。見えているものが信じられずに、目を何度もこする。何度まばたきをしても、無意味に周囲を見回しても、頬を叩いても、目の前にいるチャニは4、5才くらいの小さい子供に見える。

「チャニ、なの?」

チャニは頷く。チャニはチャニだ。自分でもそう思う。だけど、身体が、何か違う。少し怖いけど、鏡を見てみようと思った。固まっているチャンミンを乗り越えて、ベッドの縁に腰掛けて、足を降ろす。いつも通り立ち上がろうとしたら、足が空を切り、落ちてしまった。
びたん! と倒れて、鼻を床にぶつけてしまう。

「いったぁ~い」

しゃがみ込んで、鼻を擦る。気を取り直して、立ち上がろうとすると、Tシャツの裾を踏んでしまい、また転ける。

「わぁ~! 大丈夫?!」 チャンミンが慌てる。

床に伸びて、チャニは泣きそうだ。何なんだ、一体。脇の下をチャンミンの両手が支えて、立たせてくれる。いとも簡単に、チャニの身体は、持ち上げられる。目を見合わせて、お互いに黙ってしまう。だが、確認しなければ。

「か、鏡…」 声も少し高い。いや、幼い。
「わ、分かった」 チャンミンの声は固い。

クローゼットの扉についている鏡の前に立つ。鏡に映った自分の姿に、チャニは目眩がした。幼い。幼すぎる。Tシャツはワンピースになっていて、隣に立つ、チャンミンの腰くらいの身長しか無い。

「嘘だ…、まさか…」 鏡に手をついて、チャニは絶望する。
「チャニ、なんだよね? 昨日、一緒に寝た、チャニだよね?」

チャンミンが何度も確認したい気持ちはよく分かる。チャニだって、鏡の中の自分に問いかけたい。お前は本当に、The Boyzのチェ・チェニで合っているのか。

「嘘だー!!」

チャニに幼い叫び声は、朝の宿舎に虚しく響いた。

2

チャンミンは、取り敢えず、1つの宿舎にメンバー全員を集めた。寝ていた人はいるが、まだ出かけた人はいなかった。ソファにちょこんと座るチャニを見て、揃って固まる。
寝ていて準備が遅れたサンヨンが、ジェイコブと一緒に最後に来た。チャニを見て、目を大きく見開いて、声も出ないくらい驚いている。

「チャニ、なのか? この子が?」

それは誰だって、俄には信じ難い。チャニ自身も、未だに信じられないのだから無理もない。と思っていたら。

「名探偵コ○ンだ!」

突っ込む気も起きないくらい、チャニは引いた。やっぱりこの人、天然かもしれない。「違うでしょ」と、ジェイコブがサンヨンの頭を遠慮なく叩いた。



チャンミンとチャニは、観念して、一連の流れを説明した。2人が付き合っていることは、メンバーは全員知っているので、媚薬を使ってみたかった、という考え自体は、理解してくれた。だが、拾った薬を使うような不用心なところや、軽い気持ちで実際に使用したことは思いっきり怒られた。

「僕は、“嫌だ”って言ったんだけど…」 自分は使うつもりはなかった、とチャニは言う。
「チャニだって、納得して飲んだんじゃないか!」

チャンミンは自分1人のせいにされては堪らない、と反論した。一緒に同じ薬を飲んだのに、チャニは自分だけ縮んでしまったことが納得できなかった。2人とも同じ現象になってしまったら、それこそ大変なのだが、言い出しっぺのチャンミンが小さくなるべきではないか、と変な思考に入ってしまう。すぐに口喧嘩が始まる。見た目が幼児のチャニが、いつものチャニの口調なのが、とてもシュールだ。

「媚薬のことは知ってるけど、それでこんなことになんの? こんな変なことが起きるなら、広まってても良くない?」

ジェヒョンの疑問に、それもそうだな、と思った。ヨンフンがググってみる。何度か、ワードを変えて探してみると、あった。いわゆるゴシップ系のサイトに、いくつか記事があった。あとは、UFOなどの超常現象を扱うサイトにもある。要するに、媚薬を使用した数人が、身体が縮む、という事象に見舞われていたことは知られていたのだが、怪奇現象すぎて、誰も信じずに、真剣に扱われていなかった、ということだろう。媚薬を使用する、という背徳的な行為の末に起きる、という点も、広まらない要因だろう。

「元の年齢から、20年から30年くらい退行して、見た目が3才くらいから7才程度になることが多い。1週間で戻った人もいるし、1ヶ月かかった人もいるって。もう1回、同じ薬を飲んでも、元に戻るという効果は証明されていない。早く元に戻る方法も、明らかになっていない。だそうです」

ヨンフンが記事を読み上げる。1ヶ月はもちろん、1週間だって待っていられない。休みは今日1日だけだ。
ほんの軽い気持ちだった。チャンミンが使ってみたい、と言うから、仕方ないな、というくらいで、チャニだって、多少の好奇心があった。ただそれだけだったのに。この身体では、仕事ができない。歌も歌えない。こんなのあんまりだ、と思って、チャニは涙が浮かぶ。
ぐすぐすと泣き始めたチャニを見て、チャンミンだけでなく、全員が慌てる。みんな思っていたことだが、5才くらいに見えるチャニは、めちゃくちゃかわいい。かわいい子供が泣いているのだ。平静ではいられない。下の兄弟や、甥姪がいるメンバーたちは、本当の子供をあやすように行動する。
サンヨンに抱っこされて、赤ちゃん言葉であやされても、チャニは泣き止むどころか、もっと泣きたくなった。ジェヒョンとヨンフンが、ぬいぐるみを持ってきて、目の前で振る。ムカついて、チャニはぷいっと違う方向を見た。ソヌとチャンミンは、どうしたらいいのか分からずに、目が泳いでいる。ジュヨンの大きな手が頭をぐりぐり撫でる。笑顔の裏に、「かわいい」以外の他意はないだろう。

「チャニ、Tシャツ1枚で寒くない?」 秋も深まってきているので、ジェイコブが心配する。
「やっぱり先ずは、朝ごはん食べない? チャニヒョンも、食べてないでしょ?」

ハンニョンは、自分が朝ごはんを食べていなくて、お腹が空いていたので、言ってみた。サンヨンの膝の上に座ったまま、チャニは自分のお腹に手をあてる。確かにお腹が空いた。Tシャツの裾を持って、ヨンジェがめくろうとする。その手をケビンがぱしっと叩く。

「覗くんじゃありません」

全くだ。チャニは泣き止むことはできたが、何度も溜め息をついた。



買い置きのパンやシリアル、冷凍食品などで、簡単に朝ごはんを用意して、みんなで食べる。
食器が大きい。机が高い。毎日何気なくしていたことが、こんなに難しいなんて、悔しい。スプーンが大きすぎて、食べ辛い様子を見て、ジュヨンが小さいスプーンをくれた。ソファの前のローテーブルより低くて小さい、折りたたみ式の足付きお盆を、ジェイコブが持ってきてくれる。小さいスプーンで、シリアルをせっせと食べる。

食べながら、今後の対策を立てる。1週間で戻ると仮定しても、明日からの仕事は休まなければならない。それで、第一にするべきことは、社長に報告する、ということで一致した。

普通なら、シリアルだけでは足りないのに、小さい身体では、すぐにお腹いっぱいになった。サンヨンが、マネージャーに電話している。電話口で「チャニが縮んだ」と言っても、信じてもらえるはずもなく、マネージャーと社長に宿舎に来てもらった。

マネージャーは口をあんぐりと開けて、絶句している。社長は頭を抱えた。頭痛が酷い。そしてまず、怒られた。

「無理やり、別れさせられたいの?」

目が座っている。チャニもチャンミンも青くなって、床に額をつける勢いで謝った。

予想もつかないことが起こってしまった。こんなことは、当の2人にも予測できないことだった、と何とか怒りを抑える。当面の仕事のスケジュール調整に忙殺されるマネージャーは、さっさと会社に戻った。
社長は優しい時も多いけど、失敗には厳しい。特に自己管理にはシビアだ。社長が険しい顔をしているのを見上げて、チャニは不安になった。せっかく今まで、歌手として、アイドルとして育ててもらったのに、このまま元に戻らなかったらどうしよう。

「ごめんなさい、社長…」 チャニはまた謝った。

社長が、徐にチャニを抱き上げる。完全に子供を抱っこするお母さんだ。チャニは首を傾げる。

「君の小さい頃は、写真で見たことあるけど、実物の方がかわいいわね。連れて帰りたいわ」

ぎゅうっと抱きしめられて、チャニは複雑な気持ちになった。嬉しいけれど、素直に喜んでいいものか。

「幼稚園生や、小学生低学年にもスカウトの目を広げるべきかしら?」

子役が必要でもないのに、さすがに早すぎるのでは、と全員が思ったが、誰も突っ込めなかった。
社長も了解して、チャニは1週間休むことが決まった。後にずらせるものはずらして、別撮りできるものはそうして、何とか調整してもらう。元に戻ったら、チャニ1人忙しくなるかもしれないが、それくらいは喜んで受け入れる。早く元に戻りたい。



その日の昼過ぎ、マネージャーが段ボール箱を抱えて宿舎に来た。中身は、社長のお子さんのお下がりだった。赤ちゃん服から小学生が着られる大きさまであるので、合うものはどれかあるだろうが、問題は、全て女の子服ということだ。社長には娘しかいないのだから、仕方がない。メンバーの家族には、余計な心配をかけるだけなので、子供服を持ってきて、とはとても言えない。

箱の中から、いろいろな服を出して、チャニの身体に当てていく。1人で着られる、と言っても、10対1で、勝ち目があるはずがない。着せかえ人形のようにいくつも服を着て、その度に写真を撮ろうとする。いたたまれない。「やめて!」と言っても無駄だった。短時間で、ぐったりと疲れてしまった。子供の身体って、こんなに体力なかったっけ、と思う。

折角の休日なのに、メンバーたちはどこにも出かけずに、パソコンや携帯とにらめっこして、元に戻る方法や法則を探してくれた。チャニも携帯で検索する。チャンミンが一番熱心だ。責任を感じているらしい。社長の言葉も効いている。付き合うことを目こぼしして貰っていることが、どれだけありがたいことか、深く身に沁みた。交際に反対する理由など、山程ある。理詰めで来られたら、逆らえない。リスクもある。それでも、無理やり別れさせることもなく、認めることはなくても、禁止することもない。その信用信頼には、応えないといけないな、と強く感じた。

夕飯を食べながら、各々が調べてみた結果を報告し合う。

「ただ“待つ”のが、一番無難で確実じゃないかな」 ジェイコブとケビンは、それが一番良い方法だと思った。
「もう1回、同じ薬を飲むのは、むしろ逆効果だと思う」 ジュヨンとエリックが記事を精査した所感を言う。
「やっぱり、あれでしょ。強い酒を飲むっていう」 ソヌが自信満々で言う。反応したのはサンヨンだけだ。
「あ、コナ○の! 何だっけ、あの中国のお酒…」 サンヨンがうんうん悩む。

パイタンだっけ、何だっけ、とチャニも悩んでいると、ソヌが「パイカル」と言った。得意げなその自信がどこから来るのか理解できない。

「そんなレアなお酒、酒屋でもあるのかな?」 ヒョンジェの疑問も最もだが。
「ウォッカとかジンは? キャラクタにいるじゃん」 ヨンフンが言う。キャラクタ名は関係ないと思う。
「子供の身体にお酒を飲ますのは、ちょっと…」 ハンニョンがまともな意見を出す。

いい加減、コ○ンから離れてほしい。はぁ、とチャニは今日何度目か分からない深い溜め息をつく。チャンミンが、チャニの身体を膝の上に乗せて、ぎゅっと抱きしめる。悲しそうな顔だ。そこまで強く、責任を感じる必要はない。結局、飲むと決めたのは自分自身だ。

「チャンミナ、大丈夫だよ…。その内、戻るよ…」

チャニは自分の不安を隠して、チャンミンに言った。後悔は先に立たない。あの時、捨てていればよかった、と思うのは結果論に過ぎない。

意見を出し尽くして、今日、これ以上出来ることがない、と確認した。別宿舎から来たメンバーは戻っていって、同じ宿舎にいるメンバーも各々の時間を持つために自室に戻る。

チャンミンとチャニは、同じ部屋に戻る。ずっとチャンミンに抱かれたままだ。チャニも安心してくっついている。昨日が、どれだけ幸せな時間だったか。そんな貴重な時間だなんて、思ってもいなかった。こんな職業でなければ、もっと一緒にいられるのではないか、と思ったこともあるが、アイドルでいる幸せを知っていて、今更捨てられる訳がない。
今ある幸せ。それを、捨てたくない。

チャニは小さい手を精一杯伸ばして、チャンミンの頭を撫でた。泣きそうな目のまま、チャンミンはチャニを抱きしめる。
一緒にお風呂に入る。小さい身体を丁寧に洗いながら、自分が知っている場所と同じところに黒子があるのを見つけて、チャンミンは微笑む。小さくても、チャニはチャニだ。分かっているつもりが、分かっていなかったのかな。バブルバスに埋もれて、泡でパシャパシャ遊ぶチャニは、本当にかわいい。つられて笑顔になる。こんなにかわいいなら、もうしばらくこのままでもいいのかもしれないけれど、それじゃ、困る。

「ごめんね、チャニ。僕、もう二度と、変なもの、拾ったり使ったりしないから」

もう、嫌という程に分かった。特別な魔法なんて使わなくても、君、という存在がいるだけで充分だ。チャニはチャニに違いないけれど、5才児の身体を相手に、欲情も出来ない。

「結局、そこか」 チャニがむくれる。
「違うよ~。全部、大事ってこと」

チャンミンの言葉に、チャニは「まぁ、良いか」と思うことにする。チャニだって、こんな子供のままでいたくない。同じ立場でいたい。

早く戻れるといいな、と同じことを思って、同じベッドで眠った。

3

チャニは、やむを得ず発生した連休を謳歌するつもりでいた。半日や1日だけの休日が多かったので、連休は久しぶりだ。だが、2日目でもう、暇を持て余している。

(暇だなぁ、何しようかな…)

メンバーたちと一緒にいる時は、1人になりたい、と思うことも多いのに、いざ1人でいると、静かすぎてつまらない。
本を読んだり、携帯を見たり、録りためた動画を見たり、すぐに飽きてしまった。ビーズアクセサリーを作るのは、手が小さくて逆に難しくて、料理をしようにも背が届かない。30センチ程度の低い踏み台を出してもらったが、プラス30センチで解決できたことは少ない。
昨日の内に、嫌と言うほど実感した。子供の身長で、大人しか住んでいない家で過ごすことの不便さ。子供の頃、これほど不便だと感じなかったのは、両親の配慮のおかげなのだろう。
もそもそパンを食べながら思う。パンもシリアルも飽きた。料理したい。休日に作ろうと思って、買ってあった食材がある。食べないと傷んでしまう。早く帰ってきて、と思いながら、チャニはソファで昼寝をした。



すぴすぴ気持ちよく寝ていたら、カシャッとシャッター音がした。目を開けると、ヨンフンが満面の笑みで、携帯を構えていた。

「あ、起きた」 そして、またシャッターを押す。
「もー! 駄目ー!」 間違って流出したら、どうするつもりだ。

逃げるヨンフンに追いついて、長い足に抱きつく。足を持ち上げて、倒そうとするのに、逆に抱き上げられて、頬にキスされた。

「あ! ちょっと、ヨンフニヒョン、何してんの?!」 チャンミンが怒る。
「だって、かわいいんだもん」 悪びれる様子もない。

チャンミンが、ヨンフンからチャニを取り返そうと近寄るより先に、ジェヒョンがやってきて、頬にキスをしようと迫ってくる。身体が縮んだだけで、中身は以前と変わらないチャニにとったら、ものすごく鬱陶しい。

「ジェヒョニヒョンも! 駄目だってば!」 チャンミンが、チャニを取り返す。

チャンミンの腕の中で、チャニも2人のヒョンを睨む。そんな表情も「かわいい」と言って、手を取り合いとても楽しそうだ。誰か、このヒョンたちをどうにかしてほしい。

「チャニ~、服、買ってきたぞ。これでいいか?」

社長が貸してくれた服は、少し小さいものが多かったので、ゆったり着られるものをサンヨンに頼んでいた。買ってくれた服を見て、チャニは怒った。

「明らかに女の子のワンピースじゃん!」
「似合うかなって思って」 このヒョンもどうにかしてほしい。

ジェイコブとケビンが、シンプルなTシャツをくれた。ストライプのものと、キャラクタが描かれているもの。あと、デニム地のズボン。そうそう、こういうの。カナダ組の2人は、テンションが高い時はちょっとおかしいが、普段は頼れる常識人だ。「ありがと」と言ってありがたく受け取る。

「チャンミナ、キッチンに行こ」 手を引いて、チャニが先行する。

冷蔵庫を開けてもらい、チャニが買っておいた食材を取り出してもらう。ナス、ズッキーニ、パプリカ、キャベツ等、早く調理して食べてあげなくちゃいけない。

「え? 僕が料理するの?」 チャンミンが戸惑う。自慢じゃないが、料理は下手だ。
「ジュヨン~、ケビン~」 比較的、料理が上手なメンバーを呼ぶ。
「何? 何か、料理するの?」

ケビンとジュヨンの同じ質問に、チャニは答える。

「僕はラタトゥイユを作るつもりで、野菜を買ったけど、別に他のものでもいいよ」
「レシピは?」
「ググって!」 何なら、当てずっぽうでも、思いつきでもいい。

ジュヨンがメインシェフになって、ケビンが助手になる。チャンミンは、必要な調味料や、お皿の準備などをしている。3人の周囲を、ちょろちょろ動いて、背伸びして、料理の様子を見ているチャニを、ジェイコブが抱き上げる。見やすいように、動いてくれる。

「ありがとう、コビヒョン」
「小さいと、やっぱり不便だよね。1人でお留守番させて、ごめんね」

仕事があるのだから、仕方がない。不便さより、何より、みんなと一緒にいられないことが、寂しい。ジェイコブに抱きついて、寂しさを紛らわす。他のメンバーが、頬を突いたり、頭や背中を撫でたり、足の裏をくすぐったり、遊んでいるのか慰めているのか分からない。

「チャニ、味見して」 ジュヨンが一口食べさせてくれる。
「うん、美味しい美味しい」

チャンミンの膝の上に座って、食べさせてもらう。子供扱いされるのに、少し慣れてきた。というか、チャニの方が諦めた。大人の感覚は抜けないが、柔軟に適応できている自分が、少し不思議だ。元に戻れない怖さもあるが、適応しすぎて、戻っても子供感覚が抜けなかったらどうしよう、という怖さもある。
まだ2日目。早く元に戻りたいが、あと5日もある。こんなに仕事が恋しいなんて思ってもいなかった。1日がこんなに長いとも思っていなかった。

チャンミンが、チャニの口の端についたトマトソースを、ティッシュで拭う。

「お腹いっぱい?」 チャニは頷いた。

味を見ていない料理もあるが、もうお腹いっぱいだった。そして、すぐに眠くなる。チャンミンに抱きついて、目を閉じる。元に戻るのに時間がかかってしまったら、大人の感覚も抜けていって、本当の子供になってしまうのだろうか。そんな怖さもある。でも今は、眠気の方が勝った。


 ***


代わり映えのしない、つまらない日が過ぎていく。5才児になって5日経った。
チャニは昼寝をしていた。暇を持て余して、結局、寝る以外、特に有意義な過ごし方を見つけられなかった。

ビクッと身体が跳ねて、目が覚めた。もう一度寝ようと思ったが、身体に違和感がある。グググッと伸びて行く感覚、筋肉や筋が無理やり伸ばされていく感覚、抵抗できない、気絶してしまいそうな痛みに襲われる。

「あ、ああっ…!」

痛い、痛い。成長中というものがあると言われていて、それを経験したことはないけれど、それよりも酷い痛みだと思った。着ていた子供服が破けそうになって、無理やり脱ぐ。ベッドの上で、全裸で、ただ痛みに耐える。
涙が浮かんで、チャンミンの名前を心の中で何度も叫ぶ。
縮む時は寝ている間で、何も感じなかったのに、戻る時にこんなに痛いなんて。最初から最後まで、理不尽すぎる。
自分がどんな状態かも全然分からないまま、続く痛みに耐えて、それがようやく収まった時、安堵してチャニの意識はなくなった。



「…ニ! チャニ!」

何度も名前を呼ばれて、チャニはようやく意識を取り戻した。目を開けると、チャンミンが泣きそうな顔で、自分を見ている。泣かなくてもいいよ、と安心させるように、少し無理して微笑んだ。

「うわぁん! チャニ、よかったぁ~!」

きつく抱きしめられて、チャニにも現実感が戻ってきた。すごく痛くて、何も分からなくなっていたけれど、チャンミンの身体に触ると、とても懐かしい感触がした。周りにいるメンバーも「よかった」と口々に言って、喜んでいる。

「あっ!」

自分の手を見ると、見慣れた手だった。足を上げると、懐かしいくらいの重みがある。戻ってる? 戻ってる?! と何度も確かめて、何度も自分の手足を見つめる。

ジェイコブがベッドの足元に丸まっていたブランケットを身体にかけてくれる。その時になって、チャニは、自分が何も身につけていないことに気付いた。いくらメンバーの前と言っても恥ずかしい。チャンミンもそれに気付いて、ブランケットをぐるぐる身体に巻きつけてくれる。それじゃ、逆に動き辛いよ、と苦笑する。

ブランケットに包まって、鏡の前に立つ。僕だ。僕の見慣れた姿だ。自分の顔が、こんなに懐かしいなんて、思ってもいなかった。本当に嬉しい。

「戻った…。戻ってる! うわぁ~チャンミン! 戻ったよ~!」

抱き合って喜び合う。これで仕事が出来る。これで歌が歌える。これでファンに会える。これで、チャンミンとまた抱き合える。いろんな喜びが湧き上がり、チャニも泣けてきた。

「早めに戻ってよかったけど…ねぇ?」 ヨンフンが少し残念そうだ。
「5才のチャニ、すごくかわいかったのに…」 ジェヒョンが同意する。チャニは全く同意できない。

チャンミン以外のメンバーに部屋を出てもらって、チャニは自分の普段着に着替える。しっくりくる。子供姿が、どれだけストレスだったのか、戻ってようやく自覚した。鏡を見つめて、自分の顔や身体にぺたぺた触りまくる。全部、知っている感触、大きさ、形だ。僕はこうでなくちゃ。自己愛が強い方だとは思っていなかったが、今回の出来事でかなり強くなってしまった気がする。でもそれで良い。僕は、このありのままの僕が良い。

「わぁ~ん! ごめんね、チャニ! 小さいチャニもかわいかったけど、僕はやっぱり、今のチャニの方が好きだよ~!」

チャンミンが抱きついて、泣いている。

「僕も。今の僕の方がいい」

見つめ合って、キスをする。この感触、熱さ、懐かしい。とても愛おしい。見つめ合って、笑い合う。今すぐしたい。お互い思っていることが同じだと分かって、嬉しい。こんな関係も込みで、僕たちは愛し合っているんだと実感した。

「やっぱり、“媚薬”なんて、僕たちには必要ないね」 チャンミンがしみじみ言う。
「僕はしばらく、普通の栄養剤も飲みたくないよ」 カプセルは見たくもない、とチャニは思った。



リビングに行くと、メンバー全員が「よかった!」「おめでとう!」と言ってくれる。

「おめでとう、は何か違うくない?」 チャニの言葉に、ケビンが答える。
「元に戻って、おめでたいんだから、おめでとう、で合ってるよ」

それもそうか、と納得する。冷蔵庫にも、キッチンにも、物入れの上の方も、手が届く。たったそれだけで、とても気分がいい。とてもめでたい。

「もう怪しいものには、手を出すなよ」
「いやらしいものも、止めといた方がいいと思うよ」
「反省のために、回数減らしなよ」
「仲がいいのは良いけど、ちょっとは俺たちに遠慮もしてくれよ」
「そうそう、見せつけられている俺たちの身にもなれ」

せっかくいい気分だったのに、グチグチ言われて、チャニはちょっと不機嫌になった。チャンミンは、今更ながらに責められて、オロオロしている。隠していないだけで、見せつけているつもりもないし、“媚薬”のような怪しいものはともかく、それ以外は余計なお世話だ。だいたい、チャニとチャンミンだけが、恋人同士で楽しんでいる、と言うことが間違っている。

「ふん! みんなも同じようなことしてるの、知ってるんだからね!」

チャニの言葉に、サンヨンだけが「えええ?!」と驚いている。他のメンバーは目を泳がせた。

「ちょっ…、今のどういう意味だ?! え? チャンミンとチャニ以外にも、付き合っている奴いるのか?」

サンヨンの疑問に答えるメンバーも、目を合わせるメンバーも、誰もいなかった。

「出前、頼まなくちゃ」
「そうそう、夕食何がいいかな~」
「ちょっと忘れ物…」
「部屋、戻ろ」
「先にお風呂入ろうかな」

バラけていくメンバーたちに、サンヨンが叫んだ。

「お前ら、目を逸らすなー!」

チャニは、もとに戻ったことを社長とマネージャーに知らせるために、チャンミンと2人で会社に行くことにした。

4

ジェヒョンが寝ているベッドに、ヨンフンは静かに潜り込んだ。気付いたジェヒョンは、にやにや笑って、快く迎え入れてくれる。ヨンフンは、下心が見え透いているジェヒョンのにやにやが、嫌いではない。

「どうしたの? したくなった?」 頭まで蒲団を被って、姿を隠す。
「ん? まぁ、そうじゃなくて、あの残った1錠あるだろ? サンヨニヒョンが没収したけど、あれ、捨てるのもったいなくない? 安い薬じゃないよ」

チャニが小さくなってから、ずっと気になっていたことを言う。無事にチャニも元に戻った。小さい時も、戻ってからも、体調は普通に良いらしい。大人に戻る時は、痛みがあると言っていたけど、それを入れても、“媚薬”は、思っていたよりも、危ないものではないと思った。

「使いたいの?」 ジェヒョンの含み笑いが、蒲団の中に響く。
「…ちょっと、興味ある」 ヨンフンは素直に言った。

チュッと音を立ててキスをする。意外と、予想外に、ヨンフンはあからさまなことが好きだ。最初の頃は、ジェヒョンの方が恥ずかしくて、なかなか慣れなかった。
ジェヒョンも当然というか、好奇心から、興味がある。チャンミンが言っていたが、性的な気分を盛り上げる効果、というのは充分にあるらしい。飲んだカプセルを、“媚薬”と思い込んでいるから、に過ぎないとしても、そのように謳った薬が他にないから、それを飲んでみたいと思う。

「でも、もし万が一、小さくなっちゃったら、言い訳できないからさ…。普通のやつ、使おう」
「普通のやつ?」

ジェヒョンはベッドの下に手を伸ばして、ごそごそと何かを探っている。手のひら大くらいの小さな箱を取り出す。ローターと書いてある。 “完全防水”と強調されているのを見て、ヨンフンは「ぶっ」と吹き出した。

「よく買えたな、こんなもの」 いつの間に。感心してしまう。
「店で買うのももちろん、ネット通販でも危ないな、と思って、お姉ちゃんに買ってもらった。秘密の恋人と使いたい、って言ったら、喜んで協力してくれたよ」

美人姉弟でどんな話をしているのだろう。次にお姉さんに会った時、どうしたらいいのか分からなくなりそうだ。もちろん、自分たちの関係は知らないにしても、だ。

「あんな怪しい薬より、断然いいと思うよ。これ使ってみよ?」
「え? 今?」 ヨンフンは、ちょっと驚いた。振りをした。
「え? そのつもりで来たんじゃないの?」 ジェヒョンは当然のように聞き返す。

メインの目的は「余った薬について話をしたかった」ことだけど、こんな展開を期待していたことを、肯定するにやぶさかではない。2人は一緒にローターの箱を開封した。


 ***


「ジュヨニヒョンの5才くらいの時って、どんなだった?」

ジュヨンのベッドに寝転がって、ヨンジェは聞いてみた。ジュヨンは風呂を上がったばかりで、パジャマ代わりの短パンだけはいている。筋肉のついた上半身が眩しい。盛り上がった肩や、腕の筋肉、引き締まった胸やお腹も、もちろん顔も、ジュヨンは全部かっこいい。

「別に、普通の活発な男の子だったと思うよ」 タオルで雑に、髪を乾かしながら答える。
「すっごいかわいいだろうな」 ヨンジェの言葉に、ジュヨンは笑う。
「そりゃあ、俺だからな。ははっ」

顎に手をあて、ジュヨンは決め顔をする。ヨンジェは、自信過剰なジュヨンが大好きだ。
首にタオルをかけて、ジュヨンはヨンジェの隣に座る。頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑う。

「ヨンジェの小さい時の方がかわいいと思うよ」 本心から言った。
「もちろん。もう、ものすっごくかわいいよ」

自信過剰はヨンジェも負けていない。

「僕が、あの薬で小さくなったら、3才くらいになっちゃうのかな?」 チャニより2つ下だから。

チャニは嫌そうにしていたが、メンバー全員にあやされて、構ってもらえて、お世話もしてもらって、案外良い立場じゃないかな、と思った。仕事できなくなるのは困るけど、甘えるだけ甘えて、何もしなくていい、というのは、夢のようだ。

「まだ1錠あるじゃん。サンヨニヒョンが没収したやつが。あれ、飲んでみたいなぁ」
「必ず、小さくなる、って薬じゃないだろ?」

ネットで調べた限り、症例は10にも満たない。チャニのように、世間に発覚していないものを合わせても、倍には増えないだろう。ヨンジェは縮むことだけが目的ではない。

「チャニヒョンに聞いたけど、媚薬としての効果はありそうだよ。いつもとは違ったって言ってた」

ジュヨンは、よくそんなこと聞けるな、と思った。チャニも答えるとは思わなかった。いつもと違うって、どんな感じなのだろう。自分たちのいつもを思い出すと、感じてあえいで、余裕がなくなるヨンジェの姿が、ベッドに寝転がるヨンジェと重なって、ちょっときた。口元を隠して、ヨンジェから視線を外す。思い出して赤くなっているジュヨンを、ヨンジェは見逃さない。

「あ、思い出した? 思い出してるんでしょ~。いや~ん」 きゃっきゃっとはしゃいでいる。

笑顔のヨンジェを見て、ジュヨンはいつも通りでもいいな、と思った。何度しても、かわいくて、いやらしくて、充分にジュヨンを満足させてくれる。

「これ以上、かわいくなったら、俺がどうにかなりそうだから、やめて」

ジュヨンはそう言って、ヨンジェにキスをした。


 ***


ベッドにうつ伏せに寝転んで、ケビンはファッション雑誌を見ている。自分たちの画報が載ったから、もらったものだ。ソヌは自分のベッドから、ケビンのベッドに移動して、しなやかに伸びた背中に重なった。

「暗いから、どいて」 ケビンはそっけない。

雑誌に影が被らない位置に移動して、背中にくっつく。今度は「暑い」とか「重い」とか言われたら、どうしようと思ったけど、それはなかった。
肩甲骨の間に、額をうずめて、匂いを堪能する。片肘で身体を支えて、自由な手でお腹や脇をなぞる。くすぐったいのか、ソヌを振りほどこうとケビンが身体を揺らす。それくらいでは離れない。柔らかくて形の良いお尻を撫でると、手をぺしっと叩かれた。

「ソヌ、やめて」
「ええ~、どうして~。ケビンヒョン、冷たい…」

チャンミンとチャニの仲が良くて羨ましい。僕たちだって、似たようなもので、部屋も一緒にして、もっと親密になれると思ったのに。ケビンは思っていた以上に、ツンデレだ。関係が知られてしまうのは、恥ずかしいので嫌だけど、2人きりの時は、もっとデレデレしたい。
ケビンは少し振り向いて、ふうっと溜め息をついた。雑誌を閉じて、身体の向きを変える。抱きしめてあげると、ソヌは年相応に、あるいはそれよりも無邪気な笑顔を見せる。猫のように顔をケビンの身体に擦り寄せる。くすぐったいからやめてほしいけれど、かわいいソヌを見るのは好きだ。

「5才のチャニヒョンはすごくかわいかったけど、5才のケビンヒョンも、すごくかわいいと思うよ」
「子供には戻りたくないな」 ケビンは苦笑する。

ソヌは顔を上げて、「どうして?」と言う風に首を傾げる。
今の思考のまま、子供の身体になるのは、苦痛だと思う。チャニを見ていて、そう思った。当たり前に出来ていたことができなくなる、一緒に暮らすメンバーと同じ仕事ができなくなる、否が応でも頼らざるを得なくなる、見た目につられて子供扱いされる、自立心や向上心があるチャニは、とても辛かっただろう。ケビンも同じだ。自分のことは自分でしたい。頼りたくないとか、信じていないとか、そういうことではなく、対等な立場で共に歩みたい。できないことや、難しいことがあれば、皆で助け合いたい。子供の身体になってしまうと、そんな関係が全て崩れてしまう。

「子供の頃は、いい思い出も多いし、無邪気で幸せだったけど、今ある幸せを手放してまで、戻りたいとは思わないよ」
「そっか、そうかもね」 ソヌは納得した。子供のかわいいケビンは写真で見たらいい。
「ソヌは、戻りたい?」

優しい笑顔で問いかけるケビンに、ソヌも笑顔で首を横に振った。

「戻りたくない。戻ったら、ヒョンとこんなことできないもん」
「君はまったく…」 額をペシッと叩かれる。

そっけなかったり、呆れて叩かれたり、子供扱いされることも多いけど、キスをして、抱き合う関係になってくれた、その幸せを手放したくない。


 ***


ハンニョンは風呂から上がり、ジェイコブの元にまっすぐ向かった。

「わっ」 濡れた髪が腕にくっついて冷たくて、ジェイコブは驚いた。

ハンニョンは眠たいのか頭にタオルをかぶったまま、乾かす動作も緩慢で、くっついて甘えてくる様子は、でっかい5才児のようだ。

「ハンニョンも5才に戻っちゃったみたいだね。髪はちゃんと乾かさないと」

読んでいた本を閉じて、ハンニョンの髪をわしゃわしゃ乾かす。あとはドライヤー、と思った頃、サンヨンの「う~ん」と悩んで唸っている声が聞こえた。

「ヒョン、さっきからどうしたの?」

ハンニョンが風呂に入っている間もずっと、サンヨンはチャンミンとチャニから没収した“媚薬”を眺めて、何やら悩んでいた。

「俺だけか? みんなこの薬のこと知っていたけど、知らなかったの、もしかして俺だけ?」

若者の間で流行していた“媚薬”のことを、サンヨンは全く知らなかったようだ。ジェイコブでも知っている。好奇心旺盛なハンニョンももちろん。トレンドや流行に左右される職業なのに、そんなに疎くて大丈夫だろうか。

「それに、チャニが言ってた…、“みんな同じようなことしてるのに”って…。何なんだ? みんな目も合わせてくれなくて…、ってコビ?!」

つい、ジェイコブも視線を逸してしまった。全てではないが、ある程度は知っている。みんな若いし、とジェイコブはおおらかに見守っている。ハンニョンはサンヨンの悩みに興味もなさそうに、ジェイコブの腿を枕にして、丸まっている。
ジェイコブはドライヤーを取り出し、ハンニョンをグルーミングする。目を閉じて、なされるがまま、気持ちよさそうにしている。甘えてくれるのが、とってもかわいいから、つい甘やかしてしまう。ハンニョンが、チャニのように縮んだら、もっと甘やかしてしまいそうだ。危ない。
髪を乾かした後も、ハンニョンはジェイコブのベッドから動く気はないようだ。もう半分眠っている彼の背中を撫でていると、サンヨンが静かに近づいてきた。とても真剣な目だ。

「コビ、…その、もしかして、コビも、誰かと…?」 顔が赤い。何をそんなに照れているのか。
「僕? 僕は、別に…」 本当のことを言うと、サンヨンがもっと傷ついてしまいそうだ。

頼むから、目を逸らさないでくれ、と思う。怖いじゃないか。班長なのに、リーダーなのに、自分だけ何も知らないなんて。隠し事をされているなんて、悲しいじゃないか。頼むから、コビ、君だけは無垢なままでいてほしい。
切実な思いで、サンヨンはジェイコブの手を握った。
不用意に“媚薬”を使用したチャンミンとチャニを叱って、薬を没収したが、自分に彼らを叱る権利なんて無かったのかもしれない。コビに飲ませたい、と思っている黒い自分と、何を考えているのかと思う白い自分が、心の中で戦っている。
ジェイコブはきょとんとした表情で、首を傾げる。

「コビ、俺は――」
「ジェイコビヒョンは僕の!」

寝ていたと思っていたハンニョンが、下から叫ぶ。ジェイコブの腰に抱きついて、上目遣いでサンヨンを睨む。目が合うと、にこっと笑って、また元のように眠った。振りをした。

「あはっ。だって。ごめんね、ヒョン」 ジェイコブもにっこりと笑って言った。

そんな爽やかな笑顔で言わないでくれ、とサンヨンは心の中で泣いた。



あと1錠残っていた“媚薬”は、いつの間にかなくなっていた。捨てられたのか、誰かが使ったのか、それは謎のまま、11人は真相を探ろうとはしなかった。



End.

取り扱い注意

更新継続中のお話が、クライマックスに近づいて、暗くなってきたので、ちょっと気分転換に、明るめのお話を妄想しました。個人的にはギャグ要素もあると思っていますが、どうなんでしょうか? 楽しんでいただけたら嬉しいです。
「○○5人 or ○○5才」って話が、一時期あって、そこから着想を得ています。最初に付けた仮題が「コ○ン化注意報」だったので、本文中でも言及しています。そして、不憫で天然なサンヨンさん。知らないのはサンヨンさんだけ、みたいな。好きです←。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。また別のお話でお会いしましょう。(^ ^)

取り扱い注意

The Boyz、キューニューウユのお話。BL、FF。 18禁かな。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-06-02

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