吐息
詩のアーカイブです。
あめんぼの魂
あめんぼのたましいは、三十五千里。
タカラ箱の中にそっと落ちて、
昨日を待っている。
水の膜に、
ぽつんと広まった波紋が、
ぼくの腕、ぼくの頭、
地球の裏側にまで到達して、
この星をぬけだしていく。
宇宙の中心では、
大きなブラックホールが回ってるんだって。
暗闇が怖いだなんて、絵空事だ。
新しいことを知るたびに、
君の中の神様が死んでいく。
なにをしているの。
なんて聞かれたって、
なにも答えられやしない。
君は、なにをしているの。
あめんぼが、タカラ箱の中を泳いでいる。
この世界に意味がないことは、
救済と何が違うんだろう。
思い初む
恋に落ちる。
落ちて落ちて、
足先の感覚すらなくなったら、やっと、
君の心が手に入る気がして、
思い初む。
惹かれていたのは、きっと、お互い様で、
魂がひりついて亀裂が浮かび始めた時、
私は水すら待たずに、癒しの雨を求めた。
雪が誰にでも平等に降るなんて、幻想。
だって雷は、細くて尖ったものが好きでしょう。
だから希望も、煙になって高く飛んでしまう。
とんとんと跳ねるバスが、明日の幻想を連れていく。
落ち切ってしまった月と、
昇り切らない太陽を抱えて、
今日も地球は回る。
昔の私の、遺恨さえ残さず、雨が流れていくから、
君を好きなままでいたいなんて、
贅沢な悩み、
今に抱えていられなくなるよ。
ハーバリウム
いちばん綺麗な瞬間を、ハーバリウムに閉じ込めて
時を止めた花は死んでいるのと変わらないね、と
笑った君の笑顔は、
ゾンビのようだと思った
生と死の狭間
そこに存在する花を愛でる時、人は虚空に触れている
生きても死んでもいない存在は、
だからこそ美しくて
人の手によって生を留めた花は、
この瞬間で止まってしまえればと望む人々に、
救いを齎すのか
ハーバリウムが揺れる
瓶の中のオイルが漏れだす
空気に触れた花の時が動きだす
死をこぼした時、
それは生になるから
だから、
こんなにも、
ヌメヌメとして
吐息