天国の門とある男

あるクリスチャンが死んで、天国の門の前に立ちました。
そこには天使の門番がいて男にこう言いました。
「あなたを知らないとイエスが言ってますので、ここは通れません」
クリスチャンは驚いて「私はクリスチャンです。もう一回聞いて下さい」と言うと天使は今一度聞きました。そして知らないそうですと答えました。
その横をよたよたと老人が門を通って入って行きます。
その後ろをついてクリスチャンの男は当然のようにすたすたと門を通ろうとすると、中のあまりのまぶしさによろけて後ろに下がりました。
門番の天使が「ここはあなた向けではないですよ」と言いますと、突然「なめるんじゃない」と男は天使を脅しました。
呆れた顔でため息をついて天使が男を見ました。

怒りながらも男は門の横に座り込みました。
その門をいろいろな人が通っていきます。

納得がいかない男が怒鳴ると、口からムカデやゲジゲジやら気持ちの悪い虫が出てきました。
すると、その虫たちまでゾロゾロと天国の門を通って中に入っていくのです。
「なめるんじゃない」
ゲロゲロゲロ。汚い蛙が口からあふれ出てきました。
そしてまた天国の門を入っていきました。

「もう、あきらめたらどうですか」と天使が聞くと、それでも男はわめくので、生前人々がイヤがっていた蛇だの蜘蛛だのが、口からあふれ出てきます。
そしてまた天国の門の中に消えていきました。

どのくらい時間が過ぎたのでしょう。まだその男は門の横に座っています。
すごい地響きとともに恐竜がやってきたり、翼竜やらが飛んできて門に入っていきました。

「なんだか変だろ」と男が言うと天使は「あなたがそこにいる間に地球の歴史が一回りしてしまったんですよ」
さすがに男もこれはだめだと思ったのか立ち上がり「私はどこに行けばいいですか」と多少ていねいに天使に聞きました。
天使は黙って、天国とは反対の方向へ指をさしました。
瓦礫が見えます。
その向こうには火の山が見えます。
もうしかたがないと男は歩き出しました。

ふと、横を見ると小さな天使がついています。
「おまえはなんだ」
「私ですか。門番がついていってやってくれと言ったのでお供します。いやだったらすぐに帰ります」

「私はな、生きている時はとても偉かったんだよ」
「そうですか」
「誰も私には逆らうことはできなかったんだよ」
「そうですか」
「他に言うことはないのか」
「そうなんですか」

「地獄に私は行くのだろうか」
「知りません」
「天使のくせに知らないのか」
「私のまわりは守られていて、あなたが何を見てるのか何をされるのかはわからないのです」

「助けてはくれないのか」
「クイズみたいなものです。あなたの心の中身が正解を出せばすぐに天国の門の中に入れます」

「反省してます」
「ダメですよ。天使に嘘をついても。ムダです」
「蹴りあげるぞ」
「道は長いですね」

二人はずいぶんと瓦礫を歩いていきました。
「オレさまは、飽きたよ飽き飽きだ」
「苦しかったり痛かったりしないとダメですか」
「違う違う、訂正する」

男は「ぐるぐると回っているだけじゃないか」とつぶやきました。
「そんなこともないですよ」
「他の奴に会いたいかな」
「じゃあ、私は去っても良いですか」
「いやいや、待ってくれ。独りは困る」

こっちの世には時間はあるようで意味はないのかもしれないと、ふと気がついた男は
「いつまで歩き続けるんだ」と天使に聞きました。
「いつまででも」
「どうしたら天国に行けるんだ」
「行きたい時に」
「私は入れてもらえなかったんだよ」
「どうしてですか」
「分からないよ。なんとかならんかな」
「そうですね。もう一度生まれ変わるのはどうですか」
「なぜ早く言わない」
「今度は人にやさしく出来そうですか」
「いや、同じことを繰り返す気がする」
「少し合格。じゃよい環境のところへ産まれるようにしときますね」

その男は死んだ時に今度は天国に入れたのかって気になりますか。
さて、どうでしょうか。どう思います?

天国の門とある男

天国の門とある男

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-01

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