三題噺「スプレー」「マークシート」「テディベア」(緑月物語―その15―)

緑月物語―その14―
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緑月物語―その16―
現在執筆中

「対【魔獣】防壁用意! 現場の情報はまだか!」
 突如慌ただしくなったヤマトの中で、酒野はその目まぐるしい光景に翻弄されていた。
「おら、新入り! ぼさっとしてねえでどいてろ!」
 おそらく攻撃担当班なのだろう。全身をいくつもの黒い外殻で身を包んだ男たちが、ピリピリとした空気を纏いつつ廊下を駆け抜けていく。
 酒野たちも非常事態警報を受けて動き出していた。森本は整備班に、神樹は特殊対策班へとすでに移動している。
 森本は同じ整備班らしき二人組に、青い外殻のスーツを着せられ、さらに細長いスプレー缶をいくつも束ねたような巨大ボンベを背負わされていた。
(後で聞いた話によると、攻撃担当班の推進剤を運ぶ輜重兵の役目をだったらしいが、どう見ても魚雷を背負ったダイバーにしか見えなかった)
 神樹もスーツ姿こそ見られなかったものの、白地に赤線の入ったスーツを着た集団に合流して立ち去って行った。
(後日、神樹はどのようなスーツなのか本人に聞こうとしたら、何故か睨まれた上に教えてもらえなかった)
 その際、森本たち整備班のスーツとは違い、全員がオーダーメイドであるかのように不揃いだったことが印象に残った。

 そして、転入してきたばかりで所属している班のない酒野は、まさにお荷物以外の何物でもなかったりする。

「あれ? 俺何すれば良いんだ?」
 入学する際に説明は受けているはずだが、元神童とはいえ今は凡人。全てがすぐに頭に入るはずもなかった。
 そのため非常事態がすぐに起きるなど想像もしていなかった酒野は、電子学生手帳のマニュアルを今更ながら参照しようとしていた。
「修一君、ちょっと荷物を持って来てくれるかい?」
 だから――、
「は、はい! なんでしょう?」
 酒野は理事長である稲葉の言葉に何の疑問も持たずに従うこととなるのだった。

 放置していた送迎車から、大きなトランクケースを回収した酒野は指令室へとやってきていた。
 指令室には現在10人程度の教師陣が集まっており、壁に映し出されている宮都の映像に注視していた。
 画面には宮都の大広場が映っている。
 その中央に全長10メートル弱の巨大な人型の【魔獣】が座していた。
 外見としては鱗を持った銀色の光沢を持ったペンギンというのが正しいだろうか。
 少しデフォルメすればテディベアにも引けを取らない可愛げな姿。
「……これが……【魔獣】?」
 その姿に思わず酒野は安堵する。と次の瞬間、突如【魔獣】がその体を大きく膨れ上がらせた。
 毛羽立てた鱗がまるでハリネズミのように逆立つ。と同時に、破裂音が響いて画面が暗転する。
「な、何が起きたんだ?」
 室内が途端にざわめく。
 カメラが切り替わったのだろう。しばらくして先ほどとは違う角度からの【魔獣】とその周囲の映像が送られてきた。
 周囲に止まっていた防御壁代わりの輸送車が、紙屑のようにクシャクシャに変形している。
 石畳にお洒落な建物が建ち並んでいた宮都の大広場は、もはやゴーストタウンさながらの雰囲気を醸し出していた。
 おそらく逆立った鱗を全方向に一斉掃射したと思われる。
 前線でも何人か被害も出たのか、画面右脇で点灯していた前線メンバーを示す白い光点が、マークシートを塗りつぶすように黒く色を変えていく。
 酒野は急激な展開に声も出ずに固まった。

「……危険種レベル3ってところかな。これなら修一君に協力してもらう必要はなさそうか」
 それにもかかわらず、稲葉は落ち着いた声で状況を分析している。
「あの、大丈夫……なんですよね?」
 非現実的な出来事が続いて地球人としての感覚が麻痺しはじめているとはいえ、酒野は不安を隠すことはできなかった。
「ああ、見ているといい。あの程度なら彼女がすぐに殲滅してくれるよ」
 画面の一カ所を指し示す稲葉につられて、酒野もようやく彼女に気が付く。

「え?」

 そこには全身が水晶に覆われた、一人の女性教師の姿があった。

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「対【魔獣】防壁用意! 現場の情報はまだか!」 突如慌ただしくなったヤマトの中で、酒野はその目まぐるしい光景に翻弄されていた。 「おら、新入り! ぼさっとしてねえでどいてろ!」 おそらく攻撃担当班なのだろう。全身をいくつもの黒い外殻で身を包んだ男たちが、ピリピリとした空気を纏いつつ廊下を駆け抜けていく。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-30

Copyrighted
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