魍魎の兜
精霊の兜
振袖裂いて 欲張りなあの子は泥塗れ
膝を突いたのか
汚れた両の脚を 引き擦って進む
目指す先には何が在るのか
魍魎 見渡す限り精霊は云う
何処も彼処も人間は残酷だ
月影に晒された私の姿は
一糸乱れず 泣き跡すらない
一体、何処で産まれて
一体、何時から歩いて来たのか
行方も知らされず 進めと言われるだけの歩を
理解の外側で納得しようとしていた
花はまだ枯れることを定めない
風夏 思いがけない空逢いは鎖代わり
心結え、満たすだけの英雄と成れ
私が今此処に実在していることは
葉隠れした生命には何も悟られず
心結え、満たされないままの英雄は
傷を負い立ち尽くす幼子唯独り
抱き抱えることすら出来なくて
抱き微笑むことすら出来なくて
哀しさの中で
色の変わり方を知った人間は
目を細めてでも
どうしても私の姿を見ようとした
魍魎 虚げで淡さを知る精霊は云う
儚げに漂う 不知火こそ希望だ
月影が捲し立てる様に詰め寄って来ても
訝しげに首を傾ける大人は笑わない
一説、私は殺される為に産まれて
一説、貴方は殺す為に産まれてきたの
森の奥 更に深い私だけの世界では
私の呼吸を止める方法だけが産まれる
一体、何時から私は息をしたのだろう
一体、この空っぽで在る胸に何が居るのか
正体は分からない この暗闇の涯は
刃が欠けて振り下ろせない 刃毀れの剣一つ
花は枯れた後ですら薫りを残す
風夏 旋律が必要なのは囀る鳥だけ
心砕け、いつの間にか 放たれた勇者は
私が今更「生きたい」と願うことなど
葉隠れした生命には何も悟られず
心砕け、冒涜を傷口に塗り始めた勇者は
一心に私の様な孤児を想い始める
それは掛け替えのない愛に変換されて
それは掛け替えのない心だと教わった
一体いつから私は此処にいたのだろう
どれほど長い月日を無駄にして来たのだろう
迷路になってしまった簡単なクエスチョン
静寂に透き通る明け方が一つ…
花は枯れた、それでも種子は散る
風夏の溜息など意にも介さない
黄金はこの先 産まれた場所にある
私にとっての黄金とは私を見つけてくれた
勇者とも英雄とも呼べる貴方のこと
ただの一滴の雫すら繰り返しては落ちて来ない
真夜中でこそ影を作る 月の詠 侘しさに
貴方は色を掛けて私を見つけ出した
私はただの風 流れていく稲穂風
心が砕けても
心が砕けてしまっても
心はひとつ、空っぽの胸の中
誰が淹れた訳でもなく 湯気のように立ち込める
精霊は云う
この兜は君に被せてみる
生涯 その痛みを褒めてくれる人を愛せ
生涯 君を見失わない 人の横で凪げ
魍魎の兜