倒立

築き上げてきた塔が傾く

僕はまた見失ってしまう

僕はまた不戦勝を許してしまう

眼下で繰り拡げられる惨劇を前に

為す術もなくただ立ち尽くしている

僕は僕自身の傍観者だった

過ちを犯すのはいつだって

自分を制御しきれなくなった人間だ

耐え続けることに耐えられなくなった人間だ

自分を騙し続け、歪め続けた果てには

空虚な現実が拡がっていた

無機質な銃声が轟いていた

僕は黙って死に続けることしかできない

幾度となく死に続けているせいで

僕は何も証明することができない

すべてが瞞しに思えてならない

陳腐な意味を与えて安心を得るくらいなら

黙って不安に添い遂げる方が増しだ

倒立

倒立

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-05-26

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