めでたし物語

めでたし物語

はじめまして
はじまりはじまり

プロローグ

「こんばんは」
 田舎の古屋のにおいがツンと鼻をつく。
「おぉまってたよ。さぁあがって」
 青い波のような模様のエプロン。よぼよぼの首。
「おじゃまします」
 玄関に響く数人の少年少女の声。
「上の階に部屋があるからねぇ。そこに荷物おいて、お昼ごはん用意してあるっけ台所きてばねぇ」
 方言交じりの優しい声。
「わかりました」
 そっけない返事。彼らはもう上に登っている。
 どうしてここに来たのか誰も知らないし、私は来たいと思わなかったし友達がついてきたのもわけがわかららない。
 でもいるんだ。近くにいるんだ。知りたくないけど知らなきゃ終わる。やさしいおばあさんに迷惑なんてかけたくないし早くここから帰りたい。
 好奇心って、怖い。
 

一回目

「うぼぁッ」
「ヒャハハハッ!オラァァ!」
 技をかけられ何とも情けない声を出しているこの人はおのっち。
 技をかけてるなんとも下品な少女はゆみ。
「あはは・・・」
 苦笑いをしているのはゆけん。いい奴
 私は友人四人と共にこの田舎の―といっても私たちが住んでいる場所も十分田舎だった―古い和風の家。
 男二人女二人とまるで合コンのようなメンツで来たがこれが驚くほど下心がない組み合わせだった。
  彼、彼女らを放っておいておなかが減って仕方がない私は急ぎ足で下に向かった。
 ダイニングにつながる扉は、東側、西階段側、そして玄関側。この三つ。私は自分たちの部屋が一番近い西階段から降りてその近くの扉から入った。
「ほかの童はなした?」
「まだ上で準備してるみたいです。もうすぐきます。」
「そうかいそうかい。そんな固くならんと。自分の家みたいに思ってくれていいんだからねぇ」
 私はおばあさんの善意に返事をせず、無言で食事が並ぶ机の元へ向かった。
 そこには焼き魚―鮭だと思われる―と白米一杯。そしてナスのみそしるがきっちり四人分置いてあった。
 私が、おばあさんの分がないのではと問うと
「わしはもうじいさんと食べたてぇ」
 と笑って答えた。どうやら“おじいさん”がいるらしい。ぜひお目にかかりたいが私たちが来たときいないので用事で出かけているのかと思いおばあさんに直接頼むのはやめた。
「おまたせぇ!」
 ゆけん、おのっち、ゆみの順番でイスに座っていった。
「いただきます」
 四人で一斉にそういうと、皆おなかが空いていたのかガツガツと食べはじめていた。かくいう私もかなり空腹だったのですごい勢いで食べた。
「おいしいですね!レストラン見たいです。こんなおいしい料理つくってみたいなぁ」
 何かしら媚を売る癖があるゆみは早速お褒めの言葉を何とも嘘くさいキラキラしたまなざしでおばあさんの方を見ていた。
「おせじはよしてくれてぇ」
 バカにしてるのかもっと褒めてくれと言ってるのか。
「あはは。でも本当においしいですよ。なぁおのっち」
 ゆけんは相変わらずいいやつ。媚ではなく真面目にほめていた。媚と本当の褒めの違いは一瞬でわかる。なので私はどちらも言わない。無愛想と言われようとも知ったものか。
「はい。お母さんとは比べ物にならないっす」
 なんて失礼な奴なのだろう!私はこいつの母ではないが失礼極まりない。
「お母さんにぶったたかれるぞぅ」
 おばあさんはまたゲラゲラとしわくちゃな口を広げて笑っていた。
 そんなことをしているうちに私は食べ終わり
「ごちそうさまでした」
「おかわりいらんのかい?」
「いえ結構です」
 そして私はいそいそと台所から出た。実はこの家を少し探検してみたかったのだ。しかしこのどこか怪しいおばあさんといい少し見るのにも気が抜けない。まず地形を把握して、寝静まった夜に探検しようという魂胆だ。
 台所を抜けると和室につながると思しきふすまがあった。しかし何度開けようと試みても―今思い返せば大胆で危険な行動だったと思う―立てつけが悪いのか開こうとはしなかった。
 一番の目当てである“おじいさんの部屋”はどこを探しても見つからない。東の扉の奥は皆が食事をしているので見ることができない。うろうろしていても仕方がないのでとりあえず部屋に戻ることにした。
 私はまだ準備を終えていない。
 私たちの部屋には蛍光灯など直接壁や天井に着いている明かりはなく、小さなランプがあった。今は昼。必要がないと思うかもしれないがその部屋には窓がない。外の光がなぜか入ってこない。おそらく屋根裏部屋という位置づけだと思われる。
 そのランプはあたたかい温もりのある光を放って輝いた。
 その部屋には大した家具はなかった。勉強机のような小さく背の高い机が部屋の隅に一つ。同じく背の高い◯イスがそこにあった。そして真ん中に冬にはこたつになるであろうちゃぶ台のようなもの。そして座布団が四つ。押入れを開けると布団が四枚。そして少し懐かしいチェック柄の枕が四つあった。
 そしてこの部屋のメインといえるテレビが一台。ちゃぶ台の向こうにあった。
 暇なのでテレビをつけるとちょうどお昼のニュース。かしこまったアナウンサーが台本をチラ見しつつやはりかしこまった口調でこういった。
『現在殺人犯が逃亡中のようです。』
 その瞬間私はテレビを消した。
 ものすごく恐ろしくなったのだ。今思えば『現在殺人犯が逃亡中のようです。』なんてふつうテレビでいわない。しかし当時の私は恐怖におびえていた。テレビの映像には殺人犯の姿が映し出され、警察への連絡先が映っていたような気がする。
 なぜ怖いって。その犯人の写真が写っている場所がどうみてもこの古屋の前の木だった。ような気がしたから。
 私は布団を出した。もちろん四人分だ。その行動に対して意味はなかったが気を紛らわせたかった。
「えっ!?もう布団しいたの!?」
 ゆみ達が帰ってきた。
「うん。なんかごめんね」
「あはは。大丈夫だよ別に」
 常にケンカ越しのゆみと比べるとゆけんはずいぶん温厚だった。

二回目

 そしてかくかくしかじか―適当で申し訳ない―で夕飯時になりおなかもちょうどいい具合にすいてきた。
「お夕ご飯できたよー」
 おばあさんの声に誘われ、四人で台所に向かった。
「はいどうぞ」
 そこに並んでいたものは、とてつもなく異質なものだった。何かの目玉が十粒ほど小皿に入っていたのだ。おかしなものはそれだけで他には何かのお浸しとお味噌汁。そしてやはり白米だった。
 だれもその目玉について触れない
「いやだきまーす」
 ばくばくと皆その目玉を食べ始める。
「あぁ。夕方のニュースの時間だ」
 おばあさんが徐にリモコンを手に取り、テレビの電源を付けた。
 そこにうつったのは…
『殺人犯がいまだなお逃走中のようです。警察が捜査を続けています。』
 唖然だった。唖然だったのは私だけで、ゆけんは真面目にテレビを見て。他の二人は夢中で飯を食らっていた。

三回目

三回目

 その時
~ガラガラガラ
 家の玄関の扉が開く音がした。お分かりいただけただろうか。
 玄関の扉が開いたのである。私は人生の終わりを感じた。
「お客様かねぇ」
 おばあさんがそういう頃には私はイスから立ち上がり逃げる体制を取った。
~ガチャリ
 台所の扉が開く。
 そこには刃物を持った黒い帽子をかぶった男。その“殺人犯”がいた。
 皆一目散に逃げ出す。そしてそれを追いかける犯人。
 犯人の狙いは子供のようでおばあさんのことは狙っていなかった。そしておばあさんは東側のドアをがんばって開けようとしていた
 私はふと“おじいさん”の存在を思い出し“あかないふすま”も同時に思い出した。
 そうだ。おじいさんはここにいるかもしれない。
 一大事に何を考えてるんだという感じだがおじいさんを助けたかったのかもしれない。
 ふすまは意外とあっさりと開いた。
 そこに広がっていたのはなんとも不思議な風景だった
 一面に広がる星。プラネタリウムの用に星に沿って星座の絵も描かれていた。
 おそらくプラネタリウムだったと思う。でも私には満天の星空にしか見えなかった。よく見ると奥の方にガラス張りの部屋があった。
 そこには丸い大小さまざまな提灯がぶら下がり、ましたに誰かが寝ていた。
 それがきっと“おじいさん”なんだと思う。
 私は直感的に起こしても起きない。そう判断し、逃げた。
 台所に戻るとおばあさんが
「ほら!こっち!こっちに車がある!」
 そういって東の扉を指さしていた。
「みんな!逃げれる!台所に来て!」
 もうこれ以上ないくらい大声で叫んだ。誰か来なかったらどうしよう。その不安でいっぱいだった。
 しかし全員来た。“犯人”もいたが。
 私たちは走った。
 東側のドアはなんと外に通じていて、まるで迷路の様だったがおばあさんについていくとすぐにガレージについた。
 迷路は木のようなログハウスのような素材でできていて、スギの木の香りがした。
「こっち!」
 おばあさんがそういっておのっちが運転席私が助手席。ゆけんとおばあさんが後ろの席に座った。
 いそいそと車を出発させ、その家から逃れた。

エピローグ

エピローグ

 車に乗っていつのまにか朝になった。
「おなかすいたね」
 サービスエリアがなかなかなく、でも怖いしどこか別の道に行く気もなかった。
「あ!あれファミレスっぽくない?」
 黄色を基調として緑の屋根。シンプルで素朴な雰囲気が目立つファミレスがあった。
 でもおかしいところが一つあった。
 おそろしいモンスターが入っているかのような巨大な試験管―実際に入っていたのだが―にエプロンを着てハンバーグを持った巨大な犬のオブジェ。そして下からなぜかシャボン玉が出ていた。
 時間がたつにつれシャボン玉がその犬に付着していく。
 100・・200・・・それは犬を覆い尽くしていった。
「…やめよう」
 その言葉を最後に私たちは去って、無事家についた。
 おばあさんがどこに行ったかは知らない。

四回目

 私が家に帰るとこんなニュースがやっていた。
『本日。やっと殺人犯がつかまりました。しかし男性のご老人が一人殺されていたようです。』
 やっぱり起こしても無駄だったんだ。
 私はそう心の中でつぶやき、そして眠りについた

めでたし物語

さようなら
めでたしめでたし

めでたし物語

何の意思もなく 田舎の誰の親戚でもない家に泊まりに行った四人。 はたしてまともなのは主人公だけか? 近くて遠い不思議なお話。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-29

Copyrighted
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Copyrighted
  1. プロローグ
  2. 一回目
  3. 二回目
  4. 三回目
  5. エピローグ
  6. 四回目