君がいた世界
8月
からっとした青空
蝉は鳴き、向日葵は風で揺れている
高校生活最後の夏にあいつは死んだ
緑に囲まれた所にある俺の学校は、在校生200人
この学校は俺達の代で廃校になるので、学校には顔見知りの奴らばかりだ
教室の中は他クラス混合授業が当たり前のようにある
先生達は、俺達の学年しかいないから、一人一人の顔を覚えて心配してくれたり、相談に乗ってくれたりしてくれる
「棗!おはよう!」
「若葉か。おはよう」
伊藤若葉。
俺の15年来の幼馴染で、片思いの相手だ
セミロングがよく似合う奴で、いつも元気だ
「クラス発表してるよ!見に行こう!」
「はいはい」
そう言って、俺の手を引っ張った
昇降口に行くと、すでに友達がいた
「よー御影ー」
「立川」
立川ゆえ。
俺の友達で、明るく元気な奴だ
すると、立川の後ろから聞き覚えある声がした
「若葉ーおはよー!」
「かなちゃん!おはよー」
山原佳菜。
若葉が高校に入ってからできた友達だ
「またクラス一緒だよ!」
「やったー!」
「担任は?」
「丸坊」
丸坊こと、丸山勇樹50歳
太陽より輝くその頭に、最近また10kg増えたぽっちゃり体系の先生だ
「んじゃ、俺達お邪魔虫は退散すっか。行こうぜ山原」
「そうだね~」
そう言ってにやにやしながら教室の中に消えて行った
「山原ー!立川ー!」
隣にいた若葉は、首をかしげて状況を理解出来てなかったが、山原追って教室に入ってしまった
この学年は本当に仲がいい
誰一人悪口なんて言わない
何より、家族のような温かさがある
でも、そんな些細な幸せも一瞬で消えていった
「校長話し長ーい!」
「ねー」
(お前らずっと寝てただろ)
始業式が終わり、教室に戻りながら俺達は話していた
「そう言えば、進路どうするー?」
「あたしは進学。農業の大学に行くの」
「かなちゃんの家、農家だもんね」
「うん。お兄ちゃん医大に行っちゃったからね」
「そっかー」
そんな他愛もない話しをしていたら、あっという間に教室に着いてしまった
教室に戻ると、すぐにホームルームが始まり、今日はそれで終わった
「若葉ー帰るぞー」
「うーん」
「じゃあねー若葉」
「じゃあねー」
教室を出て、昇降口に向かった
下駄箱に上履きを入れて、外履きに履き替え、昇降口を後にした
「ねえ!今年の夏、海行こうよ!」
「無理だろ。俺達進路あるんだから」
そんな他愛もない話しをしながら、俺達は昇降口を後にした
誰かに「飽きない?」って言われても、俺は飽きない
だって好きだから
誰にも渡したくない
桜が満開の中、木の匂いがする校舎
一階は喧騒の渦に包まれ、二階は俺達の未来のために頑張っている人達がいる
能天気に騒いでる友達や少しずつ進路でばたばたし始める友達
みんなそれぞれ、高校生活最後を楽しんでいる
「進路どうしよー」
若葉も少しずつ進路を考え始めているようだが、まだはっきり決めてないないようだ
「やりたい事無いのか?」
「あると言えばある」
「なんだよ」
「保育士」
「・・・頑張れ」
「何その間!」
若葉は少し怒った様子で俺を見た
保育士か・・・あいつ昔から子供好きだったからな
「棗は大学行くんでしょ?学園祭よんでねー」
「お前気ぃ早すぎ」
こいつも、ちゃんと夢あんだな
俺は何がしたいんだろう・・・
「ねえねえ!花見しよう!」
「花見!?」
「そう!先生に言って、特別学年行事にするの!」
突然だなー・・・
すると、教室から立川と山原が出てきた
「どうかしたのー?」
「かなちゃん!ねえ!花見しよう!」
「花見!?」
立川が花見に食いついてきた
すると、横いた奴らも話しに食いついてきて、いつの間にか俺達の周りは人で溢れていた
「ほらー授業はじまるぞー」
丸坊が来た
「丸坊ー花見やりてー」
「花見ー?」
「そ!学年行事として!」
「丸坊いいだろー」
「おねがーい!」
今度は丸坊の周りに人が溢れた
「いいじゃないですか、丸山先生」
「よっ吉野先生・・・」
吉野縁。
国語科担当の先生で、丸坊の好きな相手
「何やってんだー?授業始まんぞー」
「高橋先生!」
高橋晴希。
体育科の先生で、ノリがいい
「はあ?花見だー?」
高橋先生は少し考えて、廊下を走った
やる気だ。
さっきも言ったとおり、高橋先生はノリがいいので、こういう事には絶対に賛成してくれる
高橋先生は職員室のドアを開け、言った。
「二宮!一之瀬!花見やんぞ!」
一之瀬先生は驚きの余り、手に持っていた資料を落としてしまった
「はい?」
一之瀬葉月。
化学科担当の先生で、二宮先生の事が好き、らしい
「だから花見だよ!二宮、やるだろ?」
「やる」
「えー!?即答ー!?」
「じゃ、ビール持って校庭集合な」
「わかった」
二宮真。
数学科担当で、第二の高橋先生と言われるほど、ノリがいい
「一之瀬、行くぞ」
「でも仕事が・・・」
「葉月」
二宮先生は一之瀬先生の手を引いた
一之瀬先生は顔を真っ赤にしてました
ちなみに、ご覧のとおり二宮先生は一之瀬先生が大好きです(本人自覚有り)
「あっ!二宮せんせーい!一之瀬せんせーい!」
若葉が二人に気づき、二人は笑顔で走って来た
桜が満開の中、また一つ、花が咲きそうな予感
桜は散り、新緑が映え始めた頃
本格的に進路活動が始まり、つい最近まで能天気に過ごしていた奴でさえ、今は少し余裕がない
放課後は進路とバイトで消えていき、毎日何かある
俺もさすがに焦り、進路の方向は決めた
大学進学
若葉もやっぱりかーと納得していた
けど、大学に行って何がしたいの?と聞かれたら、俺はきっと答えられない
「棗は大学、東京なの?」
「たぶんな」
「そっかー」
「・・・離れたくない?」
「そうだねーずっと一緒だったから」
「そっか」
俺も離れたくないよ、若葉
「そうだ」
「うん?」
「お前、テスト勉強してんのか?」
「え・・?」
「来週テストだろ」
「忘れてた・・」
「やるぞ」
「え・・?」
「テスト勉強やるぞ!」
「え~~~!?」
若葉はなんていうか、頭が悪い
毎回テストは赤点ギリギリの常連
ちゃんとやればできるのにやらない
まったく困った奴だ
「かなちゃーん!助けてー」
「わっ若葉どうしたの!?」
「棗に監禁される~・・・いで!」
「何が監禁だ!」
「棗、お前そんな趣味あったのか・・・?」
「ねーよ!」
若葉め・・・後で覚えてろよ・・・!
「テスト勉強だよ」
「「テスト勉強?」」
息ぴったりだな
「来週テストだろ?また赤点取りかねないから、みっちり教えてやろうと思ったんだよ」
「そうだね~若葉、いつも赤点ギリギリだから」
「かなちゃんフォローしてよ~」
「じゃあみんなでやらねー?」
「いいね!ナイス立川!イエイ!」
「ハイタッチしてんじゃねーよ」
「御影、本音出てるよ」
という事で、俺達4人(立川は気に食わないが)で、1週間みっちり若葉に教えこむ事にした
「で?どこでやるの?」
「若葉ん家」
「え~~~~~~~~~~!?」
「いらっしゃーい」
「おじゃましまーす!」
「ただいま・・・・あれ?誰かいる・・・」
「え?何で母さんがいんの?」
「あ!棗!」
俺の母さん、御影夕月。
若葉の母さんと友達で、俺らの高校のOGだ
「今、おかちゃんとお茶してたの」
「へー」
伊藤丘葉。
若葉の母さんで、高校卒業後、音大の声楽科に行ったすごい人だ
っていうか、相変わらず仲良いな
「勉強?頑張ってね~」
「お菓子てきとーにもって行ってねー」
「はあい」
俺達は2階の若葉の部屋に行き、勉強を始めた
教科書を開いて、教えようと若葉見たら・・・
寝ていた
お約束過ぎて、つっ込む気力もない
「起きろ若葉!」
「へ?」
「へ?じゃねー!しっかりしろ!」
ふと、横を見ると
「お前らもかー!!!!」
何故だか2人寄り添って寝ていた
お前らデキてんのかー!!
結局、その日はまともに出来なかった
次の日からはまともに出来たが、時間がないため要点だけを押さえさせて、応用はなしにした
基本問題を何度もやらせて、応用はなしにした
山原も立川も若葉にみっちり教え込ませて、テスト初日を迎えた
「棗ーやばいよー」
「大丈夫だろ、あんだけやれば」
「だといいんだけどな~」
テストは3日間あり、1日2時間のテストだ
だからいつもより早く帰れて、お昼前には強制下校させられる
「終わったー」
「次何ー?」
ふと、思ってしまった
行事がなくなると
テストを行事とは思いたくないが、それでも高校生活の中で、ひとつの行事として終わっていく
そう学校の歴史も
朝顔が咲き始めた頃
梅雨の時期になりました
毎日雨ばかりで、正直困っています
こないだのテスト返却も終わり、すこし余裕が出てきた頃の晴れた日、俺達の最後の体育祭が始まった
「今日は無礼講だ!先生だろうと生徒だろうと容赦なくやれ!」
「おーーーーーーーー!」
いつも思うんだが、俺達の学校の先生達は行事ごとに熱いよなー
去年の体育祭もこれぐらい熱かった気がする・・・
最初の競技はお馴染みの100M走
クラス・・・というより、学年の速い奴らが、意地を見せる競技だ
「棗ー頑張れー」
「はいはい」
そう、その中に俺も入っているのだ
昔から足が速く、いつもリレーのアンカーをやっていた
今年も知らないうちにメンバーにされていた
「位置に着いて!よーい・・・」
パン!
校長先生が合図を鳴らすと、一斉に走り出した
俺は勢いよく走ると、横から高橋先生が来た
「棗は相変わらず速ぇなー」
「先生だって」
そう、この体育祭は先生達も競技に参加する事ができる
周りには大声で応援してる奴らがいて、とてもにぎやかだ
ゴールテープが見えた俺は、一気に加速してそのままゴールした
「棗ー!」
若葉が応援席から走って来て、俺に飛びついて来た
それをにやにやしながら見つめているバカップルに、俺は少しいらついた
バカップル
それは山原と立川の事だ
こないだの試験勉強の帰りに、俺は聞いた
「なあ、お前ら付き合ってんの?」
「え?今さら?」
「え・・・」
「高3のになってから、ずっと付き合ってるよ?」
「知らねーよ!」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてねーよ!」
「ということだから、御影も早くいいなよー」
「いいなよ・・・って、それだけかよ!おい!」
というカミングアウトをしてくれたバカップルが若葉にくっついて来た
「若葉ー次出番だよー」
「あっわかったー」
「頑張れよー」
「うん!」
そういって、若葉は集合場所に行った
「ちゃんと応援しなよー?」
「わかってるよ!」
若葉は、次の障害物に出場する
比較的楽な競技で、跳び箱やネット、バットなどをやってゴールする
「位置について!よーい・・・・」
パン!
合図と同時に走り出す若葉
一つ一つの障害物をクリアしていき、ゴール目前
「ごめんね若葉」
「え・・・?」
吉野先生に越された
「うそでしょー!?」
若葉はふてくされた顔だ帰って来た
「お疲れ」
「むかつく」
お疲れの返事がそれですか
若葉はぶつぶつ文句を言いながら、応援席に戻った
それからいくつか種目をやった後、お昼に入った
「おべんとー食べよー」
「どこで食べる?」
「教室混むからから外で食べよ」
お昼は外で食べてもいいし、教室で食べてもいい事になっている
俺達は外に行き、お昼を食べた
くだらない話しをしながら食べる弁当はおいしくて、とても楽しかった
お昼休憩が終わると、午後の種目が始まった
午後は綱引きとリレーの2つだけだが、どちらも白熱したもので、午前中の競技を2競技に詰め込んだみたいな競技だ
「3組対4組の綱引きすんぞー!」
「はーい」
俺達4人は綱の横に行った
「綱引きで優勝したらアイス奢ってやるから頑張れよー」
「アイスかよー」
「焼肉にしよーぜー」
どうやら丸坊がアイスを奢ってくれるらしい
でもどちらかというと、焼肉がいい
「位置について!よーい・・・」
パン!
合図と同時に勢いよく引っ張られていく
負けずと引っ張るが、それでもずるずると引っ張られる
やばい・・・滑る・・・!
「棗!踏ん張れ!」
「踏ん張ってるよ!」
立川に言われたことに反論しながら綱を引っ張った
若葉達女子も、一生懸命やっているが綱はどんどん引っ張られていく
パンパン!
ここで終了の合図が鳴った
結果は4組の完敗
「まあ頑張ったんだしいいんじゃね?」
「そーだねー」
「綱引きの決勝、どことどこのクラスだろ・・・」
「たぶん1組と5組だろ」
予想どうり、決勝は1組と5組だった
高橋先生率いる5組はやる気満々で、二宮先生率いる1組は冷静に作戦会議を行っていた
「1組対5組の綱引きを始めまーす」
吉野先生の掛け声で綱に集まる2クラス
残りの3クラスは賭けをしながら応援したり、友達や彼氏彼女を応援したりしている
「位置について!よーい・・・」
パン!!
合図が鳴ると、1組と5組は勢いよく引っ張り合って、どちらも譲らない激戦だった
俺達も応援しているが、正直どちらが勝ってもおかしくないと思う程の試合だった
なかなか勝敗が決まらず、時間だけが過ぎていった
すると、残り30秒でなんと二宮先生率いる1組が少しリードした
それを機に勢いよく引っ張る1組
そして
パンパン!!
残り5秒を残して、1組が優勝した
「まさか1組が勝つなんてねー」
「高橋先生、すごい悔しがってたし」
俺達は応援席に戻り、次の競技が始まるまで少し休んだ
試合に出るより、応援する方がが疲れるってどうなんだ・・・?
「選抜リレーに出る人は、集合場所に来てくださーい」
一之瀬先生が声を掛けると、出場者が集まりだした
「棗、リレー呼ばれてるよ?」
「今行くよ」
俺は急ぎ足で、集合場所に向かった
「棗出んのかよ~じゃあ負けんな~」
「諦めんなよ、負けるなんてやらなきゃ分かんないだろ?」
そう言いながらがら、俺達はスタート位置についた
「位置について!よーい・・・・」
パン!!
今日最後の競技が始まった
俺はアンカーなので、しばらく出番はないからクラスの応援に励んだ
1人2人と走り終わって行くのを見ていたら、あっという間に俺の番が来た
「棗ー頑張れー」
俺はバトンを貰い、全速力で走った
「棗、前だけ見ててもダメなんだよ」
「え・・・・?」
「リレーってのは、最後まで何が起こるかわからないからね」
そう言った二宮先生は、俺以上の速さでゴールテープを切った
「えーーーーーーーーー!?」
嫌な最後だった
閉会式をやり、優勝したクラスに賞状を渡した
ちなみに、優勝したクラスは1組で俺達は4位だった
「棗ー帰りに何か食べに行こー」
「いいけど、どこで食べんの?」
「ファミレス。いいでしょ?」
「いいよ、了解」
「かなちゃんはどうする?」
「私はパス。2人で楽しんでおいでー」
「うん!」
山原はにやにやしながら俺達見送った
「じゃーねー」
「ばいばーい」
笑顔で手を振る若葉
やっぱり、この学校は幸せだ
何もない、平穏で温かい俺達の楽園
でもそこには、悲しみの雨が降る
誰も経験したことがない悲しみの雨が
梅雨が明け、青空が続く7月
暑い教室は、窓全開を何とも思ってない
風通しよくしようと思って、廊下側の窓を開けても変わらない
「あちー!クーラーねーのかよ!」
「あったらこんな苦労しねーよ」
相変わらずの混合授業
教室を出たり入ったり忙しない
「お前ら、来週テストだって知ってたか?」
ふと、丸坊が言った事に教室中は一瞬にして静まり返った
「ちなみに、期末赤点取ったら進路活動停止、夏フェス行き決定だから」
夏フェス
正式名称は、夏のフェスティバル追認考査だ
中間は赤点を取っても期末があるから挽回出来るが、期末はないので追認に回ってしまう
「特に伊藤!お前、期末赤点取ったら毎日補習だ」
「えー!?」
まあ確かに、若葉は危ないな
「でも!赤点取らなきゃ夏休みあるって事ですよね!?」
「取らなきゃの話だ。お前いつもギリギリだろ」
「そっそれはそうだけど・・・」
「御影に手伝って貰え。いいな、御影」
「はい」
「始め!」
暑い中、1学期最後のテストが始まった
このテストは、進路に大きく影響する
1つでも赤点を取れば、夏休みの半分が補習になり、進路活動が出来なくなる
だからいつもより、みんな真剣だ
若葉もこの1週間、すごい頑張った
よっぽど補習が嫌だったのか、文句1つ言わずにやっていた
「棗ー英語殆ど書けたー」
「俺は全部」
「嫌味ですか」
こうして3日間のテストも終わり、残りもあと1週間で夏休み
次の日にはテストも返され、後は楽しい夏休みを待つだけ
今回のテストは結構いい結果で、若葉はなんと50点以上の数字ばかり並んだ
とりあえず、夏フェス行きにはならずにすんだ
「えー夏休みは皆さん進路活動で・・・」
終業式
暑い体育館の中、校長先生が夏休みについて話していた横を見れば、校長先生の話が長すぎて寝始めている奴もいる
明日から夏休み
赤点者は補習で、進学者は講習、就職者は企業訪問
俺と若葉、山原は進学者だから週3で講習会
立川は明日から企業訪問や履歴書指導が始まる
「校長の話し長いよー」
「お前寝てたくせに何言ってんだよ」
「そうだっけ?」
教室に戻ると、HRがすぐに始まった
丸坊が少し話して終わった
「ねぇ、来週海行かない?」
「海?」
「うん。高校生活最後の夏休みだから、思い出作りにみんなで行きたいなーって思って」
「海かー・・・」
「それに、日曜とかだったら講習とかないでしょ?」
「そうだな・・・じゃあ行くか」
「いえーい!」
「はしゃぐな」
あの時、どうして俺は無理してでも行かなかったのだろう・・・・・
8月
蝉は鳴き、向日葵は風で揺れている
「いよいよ明日だねー」
「若葉」
「うん?」
「何?この荷物」
俺は、部屋に散らばっている荷物に驚いた
日焼け止めらしき物がいくつかあったり、海で遊ぶ物があったりと、部屋の中は賑やかだった
「うーんとねー・・・これが日焼け止めちゃんズでー・・・これが浮き輪ちゃんズでしょーそれにー・・・」
日焼け止めちゃんズ?
新語?いや若葉語か?
それにしても・・・やたらと荷物が多いなー
そう言えば、修学旅行の時もやたらと荷物があった気がする・・・
「そんなに持ってかなくてもいいだろ、水着と携帯と財布だけあれば十分だろ」
「えー」
来年はきっと、この4人でどこかに行くことなんて、ないんだろうな・・・
今日はいつもより暑い
海に行くには最高だけど・・・
「棗!ちょっといい?」
「うん?」
「今日、急におばあちゃんの所に行かなきゃいけなくなっちゃったから、お留守番頼んでいい?」
「でも今日はー・・・」
「もしかしたら、今日泊まるかもしれないから、戸締りとかしてほしいんだけど・・・無理?」
「あ・・・うん、いいよ」
「じゃあ行ってくるね」
「もう行くの?」
「早く来いって言われちゃったから・・・」
「そっか・・・いってらっしゃい」
「行ってきます」
これが、最悪な一日の始まりだった
「行けない!?」
「悪い・・・母さんに頼まれて、留守番しなきゃいけないんだよ・・・」
「そっか・・・」
「行って来いよ」
「え・・・?」」
「お前ら3人で。俺は勉強でもしてるよ」
「いいの?」
「山原、若葉お願いしていいか?」
「いいけど・・・」
「仕方ない、行くか」
「じゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
二人がいれば、若葉も大丈夫だろ・・・
「若葉ー渡るよー」
「待ってー」
「転ぶなよー」
「大丈夫だよ!」
「ほら、もう着くから喧嘩しないの」
「はいはい」
「海だ!いえーい!」
「あっ若葉!待ちなさい!」
今頃、若葉達楽しんでるんだろうなー
ましてやあのバカップルもいるんだ、楽しくないわけがない
あーやっぱ俺も行てー
でも・・・今ちょっと眠いかも
少し寝るか。勉強もはかどらねーし
若葉達も夕方には帰ってくんだろ・・・・
「ねー何時に帰るー?」
「今何時だよ?」
「んーとね2時」
「じゃー3時ぐらいでいいんじゃね?暗くなる前の方がいいし」
「そーだね。若葉ー3時には帰るよー」
「わかったー」
「ん・・・・今何時だ・・・?」
3時・・・か・・・
いい加減勉強に戻るか、まだ眠いけど
さーて勉強するか!の前に、腹減ったな・・・なんかあったかな・・・
冷蔵庫空っぽだったらどうしよ・・・つか今日の飯は!?
冷蔵庫、空っぽじゃん
母ちゃん、行くなら飯作ってって・・・・
「仕方ない、カップめんでも食べるか」
「若葉ーそろそろ支度するよー」
「うーん」
「身体拭いて、上から着ちゃったほうがいいよね」
「ちゃんと服着ろよ、かな。風引いたら大変だろ」
「わかった・・・じゃあゆえ、いるかとかへこましといてくれる?」
「はいはい」
「行こう、若葉」
「うっうん・・・ていうか、下の名前で呼んでたっけ?」
「あーうん。付き合ってるから」
・・・・・・・・・・・
「えー!?」
「うるさい」
「いつから!?」
「高3になってから」
「そんなまえから!?」
「だから若葉も早く彼氏つくりなよ?まあでも、すぐ見つかるとおもうけどねー」
「おーい支度すんだかー?」
「終わったよ」
「よし、帰るぞ」
「はーい」
ふー
腹もいっぱいになったし、そろそろ勉強に戻るか
何勉強すっかなー
とりあえず、理系でもやっとくか
若干苦手だし・・・
あーでも絶対眠くなる・・・
まあ気合で何とかすっか
もう少ししたら若葉達も帰って来るだろうし
「楽しかったねー」
「来年はこんな事してる暇なさそうだねーゆえは」
「俺限定!?」
「そーでしょ?だって就職するから遊ぶ暇なさそうだし」
「まー確かにそーだけど・・・」
「ほら、渡るよ」
「うん!」
「あっ・・・」
「大丈夫ですか!?」
「溝に足が挟まって・・・」
「かなちゃん達は先行ってて!」
「でも!」
「大丈夫だよ」
不安になった山原の顔。
大丈夫
きっと助かる
そう思うことしか出来ない
「大丈夫ですから、心配しないで下さい」
「すいません・・・」
電車が来る合図が運命のタイムリミット
「若葉!電車来る!」
黄色いレバーが、生死の境界線
誰も考えてなった
「若葉!」
「もう少し・・・!」
二人に向かって、鉄の塊がものすごいスピードで来る
「若葉!若葉!」
もう誰も止められない
「若葉ー!!」
悲鳴と共に、二人は空高く飛ばされた
「はー疲れた」
ブーブーブー
「ん?立川?・・・はい?」
『棗!すぐ病院に来い!若葉が事故に遭った!』
「え・・・・?」
「立川!若葉は!?」
「・・・こっちだ・・・」
静まり返った病室
白いシーツの上で眠る若葉
「電車に撥ねられたの」
「溝に挟まった人の助けに行ってそれで・・・」
「起きろよ・・・何寝てんだよ・・・起きろよ・・・」
「棗」
「起きろよ!起きろよ!」
「棗!」
「若葉の母さんは・・・?」
「今日仕事らしくて、今向かってる所なの」
「そっか・・・」
これは夢なのか・・・?
こんなにリアルに・・・
若葉が死んだ?
冗談だろ?
「若葉!」
「すいません・・・私たちがいながら・・・」
「いいのよ、二人が悪いわけじゃないから。けど、少し二人だけにしてもらえるかな・・・?」
「はい、失礼します」
「・・・若葉・・・若葉目ぇ覚まして・・・若葉ぁああぁあああ」
閉めたドアの向こうから、若葉の母さんの悲痛な声が聞こえてくる
廊下の窓から射す太陽の光が、心の雫でぼやけてみえる
季節は流れ、桜が満開の時期
去年の今頃は、卒業式の準備で忙しかった
だけど今日は違う
着慣れた制服に袖を通し、3年前は上手く結べなかったネクタイを慣れた手つきで結んでいく
そう、今日は卒業式
近所のみんなも駆けつけて、この学校最後の卒業生を送り出す
「棗ー支度出来てるのー?」
「出来てるよー」
あの後、俺は真剣に進路を考えて保育の大学に決めた
決して若葉のためではないが、自分で考えて出した結果だ
まあでも、きっかけは若葉だな
「御影ー遅いよー」
「卒業式に遅刻かー?」
「しねーよ」
「っていうか、かな遺影は誰が持つんだ?」
「私ですー若葉のお母さんに頼まれちゃった!」
「そっか」
「ほらー卒業式始まるから廊下に並べー」
緑に囲まれた所にある俺達の学校は卒業生199人
誰1人、欠けてなんかいない
君がいた世界