世界の終わりは屋上で
彼女と俺の間にあるそのフェンス。彼女と俺の間にある、その苦悩。
「なんでそこに立ってるんだって思ってる?」
俺は何も答えられない。
何故なら何一つとして疑問に思わなかったからだ。
目の前の彼女がそこに立つ理由は分かっている。その意味も、もちろん。
「アカリ、俺は」
「良いよ。別に。ジュンに何もできないのは、仕方のないことだから」
「…………っ」
「良いんだよ、ジュン。そう悲しまないで。どうしようもなかったんだから」
彼女が微笑む。優しげに、儚げに、悲しそうに、そして意志の籠った目で、僕に微笑む。
「私ね。私……怖いよ。すごく怖い。どうなっちゃうんだろうって、どうならなくなってしまうんだろうって……すごく怖いの。こんなところで、震えて、立ちすくんで……」
「なぁ、アカリ。もうやめよう。戻ってこいよ……怖いなら、やらなくてもいいだろ」
俺が半笑いで投げかける声に、彼女は首を横に振る。
「……ダメなの。私、行かなくちゃ。行って、やらなくちゃ」
「アカリ!」
彼女が一歩踏み出す。アカリの身体が、宙に投げられる。
しかし、堕ちないーーー
彼女の背中から生えた光の翼が、どうしようも無く彼女がそこに立つ理由を表してしまっている。
彼女の前には、遠く、遠くに黒い影のようなものが迫ってきていた。
「私は……戦わなくちゃいけないから」
「行くな! 行くなアカリ!! お前一人で勝てる相手じゃない!!」
「ユイちゃんも、スズカちゃんも……もういない。いないから、私だけなんだよ。私しか、戦えないの」
彼女が振り返らない。
顔が見えない。引き留めたいのに、引き留められない。
「ごめんね、ジュン。もう会えないかもしれないけど、勝てないかもしれないけど、恨まないでね。赦してね」
「やめろ! 行ったら恨むぞアカリ!! 頼む!」
「私は、魔法少女だから。だから、世界を守るために戦うよ」
結果として、世界は終わることになる。
アカリは敗れ、闇に覆われようとしている世界を、俺は見送り続けていた。
彼女が立っていた、一人きりの屋上で。
世界の終わりは屋上で
初見詐欺がしたかっただけです。