茜
夕立 塞いだ視界が晴れて
凍えるような声
寒さ堪えてその場に座り込む
あの空には
まだきっかけなんてなくて
上手く飛べない鳥も
いつかは飛び方を覚える
子供たちがはしゃいで進んでいった
古い線路の奥には何がある
透明だった琥珀の恋は
割れても変わらない質量で
不確かな心を込めて注ぐ
暮れ時、ひとりぼっちの憂いさえも
燃える茜の空
僕たちは目を伏せた
汽笛の鳴く声は笑い出す合図
僕たちは駆け出して一等賞を狙った
あの温度
あの温度はずっと同じまま
降り出した雨にすら下げられない程に
記憶の夏に閉じ込めた
畑の間を塗る様に
土の上に靴の跡
もう数日も経ってしまえば
この世界にまた秋が来る
いたずらな蝉の声
掻き消されてしまうほどの
怯えにも似た淡い言葉は
白んでいく空に映し出せない
燃える狐雨
僕らは身を充てがう
遅すぎた閃光 ひとり見つからない
僕たちは隠れ続けて一等賞を狙った
あの時間
あの時間だけは溶けないまま
褪せる雨にさえ押し流されない様に
記憶の夏
記憶の夏に仕舞い込んで
僕らが目指した地平の果ては
千秋に混ざり合って見えなくなった
子供の頃追いかけ続けた
蝉の行く宛も知らないで
向こう岸に辿り着いた時
消失点と共に失った
僕らの歌
僕らの歌をまだ、君は覚えている
燃える茜の空
僕たちは手を合わせて
互いに叩き合う 音だけが響く空
届くかな
変わらず 夕立が降る様に
雨に流れてしまっても
見失わないよ
閉じ込めた記憶は
夏が来るたびに開いていた
思い出の貯蔵庫の底には君がいて
口遊んでいる
あの頃駆け出した
小さな世界の一等賞を
取り続けた君の
音の合わない僕らの歌を
あの温度
あの温度だけは変わらないまま
記憶の蓋さえ押し上げて
夏の雨へと消えていった
茜