utopia

 もうすこしだけ、ゆるやかに、と思う。落下速度。エンターキーの打鍵音。騒々しく、すぐそこにある、夏の気配に、軽い目眩をおぼえる。となりあわせの、恋と愛が、きみたちのあいだで、永遠の泡沫となったとき、かなしい鳴き声だけが響いて。波紋。他、うまれるものの、微かな息づかい。ぼくのこころのなかを、しっちゃかめっちゃかにする、しろくまの、あの、やさしいんだか、ひどいんだか、よくわからない、愛撫。重々しく太い指が、ぼくのからだのうえをはう。まるで、べつの生きものが蠢いているみたいに。
 こわい。
 はやいのは、こわいよ。
 森で、夜明けを見守っている、神さまのようなひとが、なにもないところを掬った両手に、湧き出る水が、あたらしい生命を呼び込む。ぼくとしろくまは、無神論者で、種を超越して、世界を蔑んで、交わる理由は愛で、神聖じみたものを冒涜する行為に及んで、ときどき、けんかをする。

utopia

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-05-14

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