ドライフラワーのような恋

恋愛の短編小説書いてみました。

第1話 幸

「もう、終わりにしよう」
 大学2年の夏に始まった蓮と葵の恋は、葵のその一言で終わった。

 蓮と葵は違う大学で、家も遠かったから2人で過ごす時間があまりなかった。だからこそ、たまに会ってデートする時は新鮮味があってとても楽しかったが、好きな人とは毎日会いたいし、ずっと一緒にいたいもの。だから、大学を卒業したら一緒に住もう。そう約束した。そしてお互い就職も決まり、大学も卒業した後に上京し、念願だった同居生活がスタートしたのだ。

 「葵、テレビはここでいい?」
 「うん、じゃあソファはここだで、テーブルはここで、と…」
 そんなこんなで引越しも終えて、葵のこだわりで選んだソファに肩を寄せあい一息ついている。
 「やっとだね、やっと一緒に暮らせるね」蓮は嬉しそうな呟く。
 「そうだね、これからは家に帰ると蓮がいるんだね」もちろん、私もとても嬉しい。
 お互い、3日後から仕事が始まる。それまで2人はいろんなところに出かけた。スカイツリー、東京タワー、浅草…。大学生の時はなかなか会えなかった分、この休みで満喫した。

 朝食を食べ終え、蓮は葵よりも出社が早いため先に家を出た。
 「じゃ、先に行くね。いってきます」
 「うん、気をつけてね。いってらっしゃい」
 ちゅっ。
 行ってきますのキスをして家を出る。幸せだ。
 「さあ、社会人1日目。頑張りますか」
 そう気合を入れて会社へ向かった。
 入社式、自己紹介を終えていよいよ業務が始まった。職場の雰囲気もいいし、俺の指導係の先輩も優しそうで安心した。
 仕事を終えて家に帰った。まだ葵は帰ってきてない。おかえりが欲しかったんだけどな。まあいっか、これから何回だって言ってもらえるし。
 「夕飯でも作って待ってるとするか」


 緊張したなー。同期もたくさんいていい人そうだった。部長はちょっと怖かったけど。
 マンションが近づいた。部屋の明かりが点いている。もう帰ってるのか。
 「ただいまー」玄関を開けると、食欲をそそるいい匂いが漂ってきた。
 「おかえり。今ご飯作ってるから、先にお風呂入りなよ」
 蓮は料理が得意だ。悔しいが、私より。料理はこれからの課題として、今は蓮にお願いしとこっ。
 食卓には、私の大好物のハンバーグ、サラダに目玉焼き、コーンスープ。
 「食べよっか」支度を終えた蓮が向かいの椅子に座った。
 『いただきます』
 「んー!美味しい!さすが蓮!」
 「だろー、仕事終わりの俺のハンバーグは格別だろ」
 大学生の頃に、一度だけ蓮とピクニックに行ったことがある。その時に作ってもらったお弁当にもこのハンバーグが入ってて、とても美味しかった。それからハンバーグが好きになった。
 それからは、今日の出来事など、他愛もない話をし、食べ終わったら蓮がお風呂に行っている間に食器を片付けて、そのあと2人で映画を見て、寝る前には体を重ね合って…。そんな幸せな日々がずっと続くと思っていた。

第2話 別れ

 蓮と一緒に住んで2年が経った。最近は喧嘩が多い。原因も、ほんの些細なことだ。デートの約束を疲れたとからといって無しにしたり、会社の同僚と遅くまでお酒を飲んで帰りが遅かったり。それでも私は何も言わなかった。そんなことで喧嘩をしたくなかったから。それなのに蓮は、私の帰りが遅かった時や、約束を守れなかった時は必ず怒ったり、不機嫌になる。
 そして今日、蓮との会話で私は限界を迎えた。
 「葵、昨日ファミレスだ一緒にいた人だれ?」
 「昨日?ああ、あれは会社の先輩だよ。仕事で納期が近くて残業になったんだけど、うちの会社19時には強制的に帰らされるから、近くのファミレスで手伝ってもらってただけで…」
 蓮は私の話を遮るように切り込んでくる。
 「先輩って、あの男しかいないのかよ」
 「いや、女の人もいるけど、みんな帰っちゃってて頼めるのあの人しかいなかったから」
 「ほんとかよ。ほんとは最初からあの人に頼むつもりだったんじゃないの?お前昔からイケメン好きだし」
 なにそれ。そんなこと思ってたの?
 蓮に信用されてないことや、今まで我慢してきた感情、言いたかったことが溢れ出た。
 「どうしてそんなに疑うの?ていうか、蓮だって友達と飲んで帰り遅い日多いじゃん。それも本当は女と飲んでるんだじゃないの?デートの約束しても疲れたからって行かなかったり、友達を優先したり、私だって我慢してきたし、蓮を信用してるから疑わなかったし。なのに蓮は私のこと信用してないの?自分勝手すぎるよ。自分ばっか言いたいこと言って…」
 言いすぎてるかもしれないと思ったけど、止まらなかった。
 「私たち、合わないのかもね。もう蓮のために我慢するのも疲れた…。もう、終わりにしよう」


 今日は仕事が早く終わった。葵も遅くなるって言ってたし、外で食べて帰るか。
 ファミレスが近づくと、ガラス越しに葵が知らない男と2人でいるのが見えた。
 「誰だおの男、最近帰りが遅いのは会社で残業だって言ってたじゃないいか」
 次の日も、その次の日もあの男とファミレスにいるところを見た。こんなに毎日会ってるなんておかしい。

 葵が帰ってきたら問い詰めた。あの男は会社の先輩らい。残業で会社にいられないからファミレスで手伝ってもらっていた。
 しょうがないことだとわかっていた。その場で、ああそうかと終わらせていればよかったのに、つい喧嘩腰で言い返してしまった。
 そして、葵は今まで我慢してきた、いや、俺が我慢させてきたことを。今までに聞いたことがない程の声量で言い返してきた。
 「もう、終わりにしよう」
 一瞬驚いた。が、しかし、
 「ああわかったよ、終わりたいなら終わらせてやる。出ていく」
 葵から別れを告げられた俺は怒りに任せてそう言い返し、すぐに荷物をまとめて家を出た。

  
 別れを告げ、とっさに家を出た。
 数時間後、家に戻るともう蓮の姿はなかった。本当に終わったんだ。クローゼットや収納からは蓮の物だけが無造作にとられていた。もうこの部屋には誰も帰って来ない、これからは私1人の家。そう思うと、一気に部屋が広くなった気がして、孤独になった気分だった。
 「いいんだよあんなやつ。もう悩まなくてすむ、蓮のことで泣かなくてすむ。よかったじゃん。きっといつかは忘れるよ」
 そう自分に言い聞かせた。

第3話 後悔

 蓮と別れて半年が経った。連絡先はまだ消せずにいる。そんなある日、蓮からメールが届いた。
 ・・久しぶり。元気?・・
 何、いきなり。そう思ったが、無視することは出来なかった。
 ・・元気だよ。どうしたのいきなり・・
 ・・いや、何となく。連絡先消してなかったから、葵はどうかなって思っただけ・・
 なにそれ。でも、久しぶりに連絡が取れて少しだけ嬉しい自分がいる。
 ・・そっか。私も消してないよ・・
 あの日のことはもうそれほど引きずってはいない。出来れば、友達だったあの頃に戻りたい、なんて考えたりもする。
 それから返信はなかった。相変わらず都合のいいやつ。まあいいけど。

 私には新しい彼氏ができた。会社の同僚の翔太で、蓮と付き合っている時から色々と話を聞いてもらっていて、別れた後も励ましてくれた。それからご飯に行くようになり、付き合うことになった。
 翔太とは蓮の時と違って、何でも言い合えて、すぐ仲直りも出来る関係だったから、悩んだり我慢することはほとんどなかった。

 翔太と付き合って、半年が過ぎた。私は今でもふとした瞬間に蓮のことを思い出す。
 蓮と行った公園、海、スカイツリー・・。どこも翔太と行くたびに、あの頃の思い出が蘇ってしまう。
 やっぱり私、蓮のことまだ忘れられてないじゃん。
 最低で、自分勝手で大嫌いだと思っていた蓮のことが、まだ忘れられずにいるんじゃん。
 もう隣にはいない。でも、蓮との思い出だけが、ドライフラワーのように褪せること
なく色鮮やかに残っている。
 「あんなやつなんか嫌いだ、うん、嫌い・・・大嫌い」
 嫌いなはずなのに、涙が止まらない。
 こんな感情を抱きながら、翔太とはいられない。翔太といても、蓮との思い出には勝てそうにない。やっぱり蓮、私はあなたじゃなきゃだめなのかも。
 そして、葵は翔太と別れた。元彼が忘れられないとは言えなくて、別の適当な理由でまたしても恋人に別れうを告げた。もちろん翔太は納得はしていなかったが、私の意思が頑なだったため、やむおえず了承した感じだった。

 蓮。蓮は今どう思っている?私のことなんてもう忘れちゃったかな?私から別れを告げてたのに、都合がいいことはわかってる、でも、まだ蓮を忘れられないよ。
 この気持ちを伝えたい。
 メールを開き、蓮に1年ぶりに自分からメッセージを送った。

第4話 気持ち

 仕事帰り、スマホが鳴った。画面に映し出された名前を見て驚いた。葵からだ。前に一度だけメールをしたが、特に用もなかったので既読無視をして以来だ。向こうからメールが来ることはないと思っていたのに。
 ・・久しぶり。今大丈夫?会って話したいことがあるんだけど・・
 何だろう。確か葵には彼氏がいたはずじゃ。
 ・・今日は厳しいかな。明日の仕事終わりとかなら大丈夫・・
 別に今日も暇なのだが、心の準備が必要だった。俺はあの日から葵を忘れたことはないし、葵のことを忘れさせてくれる人ともと出会えてない。友達でもいい、またあの頃のように話がしたい。笑い合いたい。そう思っていたから。
 ・・わかった。明日の20時に公園で待ってるね・・


 会ってくれるんだ。よかった。
 蓮とまた話せる。それだけで嬉しかった。
 私は約束の30分前に公園に行った。ここは蓮ときたことがある。その時のことを思い出しながら公園内を散歩して、蓮を待った。

 ・・着いたよ。どこ?・・
 ・・滑り台のとこ・・

 滑り台に向かうと照明があり、そこには懐かしい面影があった。
 「よう、久しぶり」
 「久しぶり。ごめんね、仕事帰りに呼び出しちゃって」
 葵はそう言って笑った。本当に久しぶり、葵も、葵の笑った顔も。
 「いいよ。葵から呼び出すってなかなかないし、何かあったのかなって思ったから」
 自分からは会いたい、なんていう勇気がなかったから、葵から誘ってもらえて嬉しい。


 暗闇から蓮の姿が確認できた。自然と体温が上がる。
 会いたかった。話がしたかった。
 「私、彼氏と別れちゃった。はは」
 「え、まじ?なんで?」
 伝えたい。あなたのことが忘れられられなかった、またあの頃のように2人でいたい。
 「私・・・」
 「・・・うん」
 「・・ふ、振られちゃってさ」
 だめ、やっぱり言えない。
 「そうなのか。残念だったな。・・次、次頑張ろ。葵は可愛いんだからきっといい人が見つかるって」
 なんでそんなこと言うの。
 押さえ込んでいた感情が溢れ出でそうになるのを必死に止める。
 「もう今は、恋愛とかはいいかな。今は仕事が大変だし。頑張らないといけないから」
 嘘。嘘だよ。私は蓮とじゃなきゃだめなんだよ。でも、またあの日みたいに喧嘩して別れたら、それこそもう二度と会えなくなる気がして怖いの。だから言えない。
 こみ上げてくる涙を私は一生懸命我慢した。
 「そうだな。今はそっちの方がいいのかもな。俺もまだまだ仕事で覚えることあるし、お互い頑張ろうぜ」
 そう言って蓮は笑っていた。私の、この世で1番好きだった、いや、今も大好きな笑顔で。
 それからどれくらい話しただろう。付き合ってた時の思い出話や、最近会ったことなど色んな話をした。
 結局、気持ちは伝えられなかった。でも、蓮とまた話せた。笑い合えた。それだけで十分だ。

 蓮。私ね、あなたにことが好き。言葉にしなきゃ伝わらないよね。でもいいの、この気持ちは私の心の中にしまっておくから。いつか、別の恋人ができたとしても、これは過去の楽しかった思い出として残しておくから。


 葵。俺、まだ葵のこと忘れられない。でも今の俺じゃ、またあの頃みたいに傷つけて、我慢ばかりさせるかもしれない。それは嫌だ。だから俺からやり直したい、だなんて言えない。あの頃、俺が葵のことをもっとわかってあげていれば、今も2人でいれたのかなって。思い出すたびに後悔が残っているよ。でも、残っているのは後悔だけじゃない。楽しかった、幸せだった日々もちゃんと心に残っているよ。
 この気持ちを、いつか伝えられたらいいな。葵、君が好きだ。いっぱいいっぱいごめんね。


 蓮。私はあの頃、あなたの心の中に住めたかな?忘れられない、楽しかった思い出として刻まれてるかな?忘れないでいてほしいな。
 蓮。あなたのことが大好きでした。ありがとう。

ドライフラワーのような恋

ドライフラワーのような恋

大学2年の夏、葵と蓮の恋は始まった。卒業したら一緒に住もう。卒業後、約束通り同居生活がスタートしたが、楽しい日々は続かなかった。長く一緒にいればどのカップルにも怒る些細なことでの喧嘩。それが原因で別れてしまう。お互い時間が解決してくれると思ったが忘れられず、葵はその気持ちを伝えることにしたのだが…。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-05-14

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