地上の雲

 めぐる、という。循環。生命は、うまれて、しんでいくのだと、きみはいう。おそらく、ほとんどのものがしっているであろうことを、きみは、感慨深げにつぶやいて、夜の、星々の声が、幽かに聴こえはじめる頃。ふいに、ソフトクリームという、現代では珍しくない、きらいなひととはいまだ、お目にかかったことのない、あの、ソフトクリームのことを想って、その、安堵感、絶対的な信頼をおける、甘美さ、乳白色の姿に、みょうな恋しさをおぼえる。だれかが、ひとを好きになるのは罪だといって、剥いだ翅を、むりやり肩甲骨に縫いつけたときの、あの、抉るような絶望を、やわらげてくれるのだ。いつかのこと、羽化したあとの、古い皮、半透明の、さっきまでは肉体の一部だったものを、喰われて、それが契りなのだと、ばかみたいな化石のならわしを、きみに強要したやつらが今夜も、どこかでのうのうと生きているのだという現実が、どうしようもない、破壊衝動に駆り立てる。平等は常に、不平等と表裏一体で、ひとはかんたんに、ひとをころせるということ。夜空を見上げる、きみの横顔は、なによりもきれいで。

地上の雲

地上の雲

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-05-13

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