刹那の呪縛
薄暗い病院の待合室で
床だの壁だの天井だのを
見つめるともなく見つめている
私は声に出さずに問いかける、
お前は何がしたいのかと
私はいつも決まってこう答える、
俺は何にもしたくないと
今は何にもしたくないと
言った後で私は自嘲する
「今は」など 贅沢な科白だと
それは自分は明日も生きていると
信じ切っている者の科白だと
私は自分に言い聞かせる
お前は書かなければ生きられないと
書かなければ生きられない人間なんだと
不意に脳裏にひらめく過去を
取り逃すまいと いつも躍起になっている
それはきっと 忘却に対する畏れと
不変に対する憧憬の証左なのだろう
私はこの薄暗い待合室で
来るはずのないものを 永遠に待っているようだ
刹那の呪縛