人参

先日ようやく作ったんです。ニンジンしりしり

ニンジンのしりしりという名称の料理がある。

で、先日、そのニンジンしりしりの作成を行った。ようやく。まさしくようやくというにふさわしい。というのも、それまで何度となく、
「ニンジンしりしり。ニンジンしりしりを作らなくては」
って言ってたのに作ってなかったのである。なんでかはわからない。ツナとニンジンのしりしりを作ろうと思って、西友で三本入りのニンジンを買って、ツナも一缶買って、あと卵、ゴマ。買ったのに作ってなかった。ニラの辛壺風、ねぎの塩ごま油ダレとかトマトのカプレーゼとかヌガーバーとかは作ったのに、他の料理はしたのに、ニンジンのしりしりだけ作らなかったりした。

あと、ニンジンのしりしり作成以前のアメブロとか、即興小説とかで、
「ニンジンしりしりを作ろうと思ったのに、なんとなく興が乗らなくてスープにした」
とか、
「スープに使った残りのニンジン一本、冷蔵庫に入れてたらしわしわになった」
とか、
「死んだときのばあちゃんみたいに皺皺になった、これ以上行くと食べれなくなるかもしれないので急いで再びスープにした」
とか、

まあ、

そういう事を書く程度には、各所でネタにしてしまう程度にはニンジンしりしりを作っていなかった。それに結局最初に買ってきたニンジン三本パックは全部コンソメスープにぶち込んで消費してしまった。で、またそれを、
「ニンジンしりしり作れよ」
ってネタにして書いたりしていた。

でもようやく先日、土曜日が西友5%オフの日。再び、西友で買ってきたニンジン三本の二本を使ってニンジンしりしりを作った。レシピはネット上にいくらでも落ちているから、それの中のツナが含まれている奴を見ながら、スマホで確認しながら作った。

「こ、これでいいでしょうか?」
そんで、私は出来たニンジンしりしりを数年前の金麦のあいあい皿のキャンペーンでもらった青い皿に盛りつけて、食卓テーブルの上に、その人が見てる前に出した。

「・・・」
人参さんは何も言わずただ軽く頷きました。

っていうのも、先日のその西友の5%オフデーの際、再びニンジンを買って、今度こそニンジンしりしりを作ろうって思いながら、
「あ、でも」
ニンジンしりしりを作るためにニンジンを買ったけど、またニンジンしりしりが作れなかったって言うのでブログとか話のネタになるんだったらそれはそれでいいなあ。どっちに転んでも私は別にまあ、いいなあ。って思いながら自転車こいで家に帰ったら、

「え?」
家の前に、ドアの前に誰かいたのです。まあ、名称を考えたのは後々ですが、それが人参さんでした。

「え?何あれ?」
勿論その段階ではそんな事わかるわけありません。タダ得体のしれないモノが私の家、集合住宅のドアにぴったりとくっついているのです。ピタッとです。ピタッと。

わかりやすくビジュアルを説明しますと、不安の種、黒い巻。1巻フタの章。#13、フタに出てくる人みたいにぴったり。ぴたっと。ドアに。

「え?え?」
で、勿論私はそのビジュアルに対してすぐにその話を思い出しました。ただ、まさか自分にそんなことが起こるわけないという慢心的なものもあり、恐る恐るではありますがその物体に近づきました。っていうかそれがどいてくれないと家帰れないし、入れないし。

「・・・にん・・・じん・・・しり・・・しり・・・」
それは、人参さんは、私の家のドアにぴったりとくっついて、非常に、すごく小さい声で、それをその言を、その言葉を繰り返していました。その言だけをただ、繰り返していました。

「えぇえ・・」
最接近してそれを聞いた時、異国の言葉のように聞こえていた、あるいは機械か何かのちょっとした音のように、昆虫とかの羽音のように聞こえていた音が、私の作ろうと思っていた料理の名称だと理解した時思わず鳥肌と共に、私の口から嗚咽とも嘆きとも知れない。あるいは恐怖心を吐き出したかのようにそれが漏れました。

その瞬間、人参さんはばっとこちらに振り返り、両手で私を掴んで、そのまま私の家のドアに突っ込みました。
「ぶつかる!」
と、ドアの鍵って思ったんですが、意識はすでに途切れていました。

「え?」
次に目を覚ますと、目の前に人参さんがいました。
「あああ!」
ってなって首を横にずらすと、首がこれから行くであろう進行方向に包丁が突き刺さりました。人参さんの仕業でした。私の住んでる集合住宅の部屋のフローリングの床に包丁が、私がアマゾンで買った包丁がぶっ刺さりました。

「・・・にんじん・・・しりしり・・・」
顔の部分が、私に向けられているその部分がとてもじゃないけど顔とは思えない人参さん。顔が顔の造形をしていない。それが私を逃がさないように私の体の上に覆いかぶさっていました。完全に不安の種。あるいは後遺症ラジオ。中山昌亮の世界。

「ニンジンしりしりですか!?ニンジンしりしり作ります?作ればいいんですか?」
とにかく現状を何とかしたくて、私はそう叫びました。

「・・・」
そうしたら少し精査するような時間を置いてから、人参さんはゆっくりと私の上から離れて食卓テーブルにつきました。

「作ります作ります」
んで、私はスマホを確認しながらニンジンしりしりを作ることになりました。

で、ニンジンしりしり自体はまあ、私程度の料理素人の図工工作程度しか出来ない奴でも、作れます。作ろうと思えばまあ、出来の如何はさて置いても、まあ、見かけはまあクックパットの写真みたいなニンジンしりしりは出来ます。

にんじんの皮をむいて細切りにしておく。卵を溶いて油を入れたフライパンでまずいり卵作る。いり卵いったんどかして、今度はニンジンを炒める。ツナ缶を入れるんだったらツナの油でにんじんを炒めと無駄が無くていい。ある程度ニンジンに火が通ったなと思ったらいり卵も投入して、一緒に炒める。いい感じに全部が混ざって火が通ったらもう出来上がり。

ニンジンしりしり。本当のニンジンしりしりがどういうものかは知らないけども、でもまあネット上のレシピを見る限り簡単です。っていうか簡単だからニンジンしりしりを作ろうと思ったわけだし。

「あの、これ、ニンジンしりしり、出来ました」
そうしてそれを食卓テーブルについたまま一切動かなくなった人参さんに提出しました。

「こ、これでいいでしょうか?」
人参さんは私のそれを見ると、何も言わずにただ黙って静かに頷きました。

「・・・」
それからゆっくりと、顔が顔とは思えない顔で、こちらを見て、

にちゃあ。

って笑いました。

にちゃあ。

って。

それから不意に私の顔面に飛びかかってきて・・・、

目を覚ましたら、人参さんはいなくなっていました。包丁とフライパンを手に自分の住んでる家、集合住宅の部屋を見て回りましたが、もう人参さんも誰もいませんでした。風呂場の上の開くところも開けて見ましたけど、もう本当に何もいませんでした。

後日、スマホのGooglechromeで開けっ放しになってたニンジンしりしりのレシピのページをよくよく見て見ると、ニンジンしりしりって沖縄の郷土料理なんですね。

沖縄ってそういうのある?どうなんだろうなあ?行ったことないから知らないけど。でもまあ、あると言えばありそう。

人参

人参

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-05-12

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