わたしの繭

 真夜中に、西の岬からみていた、都会のネオンが膨らみながら、滲む。泣く、という行為を、いつからだろう、おそれていて、でも、体内で、勝手に生成されたそれを、塞き止める術を知らなかった。白い花のベッドで、今頃、きみは眠っていて、わたしは、やさしかった世界のことを想って、夜空の、星のひとつが淡く光るときにだけ、海が鼓膜を撫でるように、囁いている。あそこには、いっぱい、ひとがいる。どうぶつがいる。生きているものが集合している。生命がひしめきあっている。愛して、愛されて、傷ついて、傷つけて、呼吸をしていて、感情をふりかざして、ときには殺して、ゆるして、ゆるされて、こわして、こわされて…。して、されて、を繰り返しながら、生活しているのだ。そういった人間的なふるまいを、でも、ときどき、放棄したくなって、かなぐり捨ててしまって、一頭のどうぶつに、なりたい日もある。繭にくるまった蚕でもいい。だれも触れないでと懇願しながら、コンビニエンスストアで、怯えて買った焼き鮭のおにぎりの味。いまも、くちのなかにある。

わたしの繭

わたしの繭

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-05-10

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