木製めん棒(朴)

このまま80品、90品と行きたい。出来たら星空さんでも100品とか提出したい。

先日、不意に、
「ピザ、ピザ生地作ろう」
という事を思い立ちました。理由はまあ、色々とありますが一番は最近たまに小手先程度の料理をするようになったからというのが、やっぱり大きいのではないかと思います。あとその過程の一環として低温殺菌牛乳からモッツァレラチーズを作ることに執着したからというのもあります。

「モッツァレラチーズとトマトのカプレーゼ」
食べたい。モッツァレラチーズを作れれば、カプレーゼでお酒も飲めるし、トマトをアボカドに代えてもいい。モッツァレラチーズが作れたらブログにもそのことが書けるし、インスタに写真もあげられるし、フェイスブックにあげてもいいでしょう。話のネタになるというのもあるかもしれない。

「料理っていうのは素敵だなあ」
何より誰にも読まれない小説とかブログとかをいくら書いたところで、それは食べられないのです。腹の足しにはなりません。その点、料理したら食べられるし、お酒飲めるし、ブログのネタにもなるし、インスタとかにも上げてもいいだろうし、小説のネタにもなるかもしれないし。なんて素敵。間が持つ。

そしてモッツァレラチーズとトマトといえば?なんだ?ピザ?
「ピザも作れるんではないか?」
例えば、ピザを作るにあたり、準備する物ってなんだろうか?強力粉、薄力粉、ドライイースト、オリーブオイルとか?水?あとトマトソースとかマヨネーズとかか、んで、あと振りかけるチーズと、モッツァレラチーズとトマトと、あ、あとバジル?バジルがあれば・・・、

「マルゲーができるでねえが!」
マルゲリータができるでねえが。そして手中にすでにモッツァレラチーズとトマトがある。100点満点のテストを私は30点は確保された状態から始めれるような事じゃないか!

という訳で、先日の西友の5%オフの際に強力粉と薄力粉、あとトマトソースとマヨネーズとバジル。

「いよーし!」
それらを買ってさっそく家に帰ってスマホの画面を見ながら二種類の粉をこね始めました。ちなみにレシピはネット上に無限にあります。何だったらようつべの動画に、こうやってこう。みたいな事を教えてくれるのとかもあります。また私は生粋の料理人ではないですし、アレンジを利かせるとかそういう事をやりたいという欲も無いので、しばらくこね回して丸くなった生地は無事に膨らみ、後は伸ばし棒で、
「伸ばし棒?」
伸ばし棒?

その時不意に気が付いたのですが、我が家には伸ばし棒が無いのでした。

「大変だ!」
レシピを見ると伸ばし棒で生地を薄く広げて、あとは具材とか乗せてオーブントースターで焼け。というような事が書いていました。しかし伸ばせません。このままでは生地が伸ばせないのです。

もしも私がイタリア人だったら、パンツェッタ・ジローラモだったらとその時思いましたが、そしたら手でくるくるして広げるのに。と思いましたが、生粋の日本人です。生粋の日本人体形。ザ・日本人。
「こうしちゃいられん!」
すぐに手を洗って鍵と財布をもって家を飛び出しました。伸ばし棒が無くてはこの先がすすまない。大変なことになる。そう思ったのです。

まず、近くのダイエーの二階のキャンドゥに行きました。しかしあった棒は脆弱。すりこぎ。短い。今どき伸ばし棒なんて早々簡単に手に入るものではないのか、ダイエー本体の方の売り場にもありませんでした。

「このままでは家で待ってる生地が!」
腐る。せっかく手首をいわすほどこねたのに。このままではあ!

「あ、」
焦っている頭に一つ案が思いついたのはそんな時でした。外環自動車道の大きな道の向こう側に、中古のキッチン用品が売ってる所あったな。って。

思ったのです。見えるところにあったのはシンク台とかでしたけど、でも奥まで行ったらもしかしたら。あまりにも玄人の人しか行かない、入らないような感じの雰囲気だったので今までは行った事も無かったのですが、

「もうそこに賭けるしかない」
私は大急ぎで自転車を漕いでそこに向かいました。大急ぎとはいっても信号等は赤だったら停まりました。

「おお・・・」
昨今、コロナの影響で倒産するそういう所が多いというのはなんとなくニュースとかTwitterのタイムラインとかで見てましたが、久々にその店の前に行ってみて驚きました。
「なんか明らかに」
その店はモノが増えていました。シンク台が所狭しと軒先からあふれんばかりになっていました。そう言う所でコロナの禍々しさを感じるというのはなんというか、こう、少し来るものがありました。

が、構ってる場合ではありませんでした。まして気後れしている場合でもありません。

ピザ生地が。私の愛しのピザ生地が。ピザ日常的に食べれる生活が。生地は小分けに丸めて袋に入れて冷凍しておくことも出来るそうです。そうするとイースト菌だかの活動がおやすみするからって。あと強力粉とか薄力粉とかってあれうどんとかも作れんじゃね?うお!楽しい。料理。図工の時間。他人に食べさせたい欲とかも私は一切ないし。おいしいっていう顔を見たいとかもないし。食べれる。ブログに書ける。お話のネタになる。写真がインスタにあげれる。それだよそれ。

「行くぞ」
初めての入店。何度も前を通った事はありますが入ったことないそういう店。だって料理人じゃないし私。料ラーじゃないし。何処に店員さんがいるのかもレジスターがあるのかも外観からは一切わかりませんでしたが、外観はとにかくシンク台。ただとにかく目的の為に入店しました。

まるでバリケードの様な軒先のシンク台エリアを越え、上から吊り下がっている看板の一つにキッチン用品というのを見つけ、それが示す方に進んでいきました。

するとキッチンスケールとかのあるコーナーがあって(ちなみにこの時気が付いたけど、キッチンスケールも持ってなかった私、勘で強力粉と薄力粉混ぜた)、更に行くと木の棒がぶら下がってるコーナーがありました。

「あった!」
伸ばし棒!

そのエリアにぶら下がっている伸ばし棒は、当然私が何も知らないからでしょうけども、サイズも様々なものがありました。例えば下品な例え方になりますが、日本人のサイズとアメリカ人のサイズみたいな。そう言う違いがあって。

そんで、その伸ばし棒の一番端っこのコーナーに、
「え?これ・・・」
棍棒。棍棒だ。これ棍棒だろ。棍棒だよね?

棍棒が立て掛けてありました。ギガンテスが持ってる様なやつ。でっかいの。すげーでっかいの。さすがにこんだけでかいから、ぶら下げておくことは出来ないんだろうな。

んで、その大棍棒には表面に黒っぽい汚れ、染みみたいなのが付いていて、これはなんだろうと思って手を伸ばしたら、
「そういう道具には昔の記憶が残るからなあ」
突然奥のラックの陰から、店のエプロンをつけた古美術商みたいな風貌のおっちゃんが出てきて、驚いて私は棍棒を掴もうとしていた手を引っ込めていました。

「あんた素人だろぉ?こういうのにはあまり、うかつに触らない方がいいぞぉ」
へへへっ。

「は、ひゃい。すいませんでし」
た。まで言い切れませんでした。素人が何しゃしゃってんだって想いが自分の中に充満して。それはもう急速に充満して。もうなんというか、恥ずかしいやら何やらで、私は何も買わずにその店を出ていました。

家に帰って作ったピザ生地を小分けにして冷凍して、楽天でTKGっていうメーカーの木製めん棒(朴)を購入して、その到着を待ってピザ生地を冷凍庫から出してチンして解凍してようやく伸ばし棒で伸ばして、トマトソースとか塗ってチーズ乗せて焼いてみました。

初めての手作りピザは思ったよりもよく出来て、予想外にインスタ映えとかも望める感じで、大変においしく出来ました。うひょーってなりました。お酒飲みました。ブログにも書きましたし、インスタに写真も上げました。

あとそれから先日の大棍棒の事を思い出しました。あの黒いのは血だったのかなって。なんかそんな事を考えたりしました。

木製めん棒(朴)

木製めん棒(朴)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-05-09

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