わたしたちの夜深け
へやのかたすみで、うずくまっていて。夜が、永遠におわらないこととなった世界に、光、というものが溢れるとき、わたしたちは勝手に救われたつもりでいる。トーストに、ばかみたいにジャムをぬって、指を甘くさせながら、きみがみている、テレビのなかの、どこまでも平和を装っている国。シロツメクサでつくった、花冠を、こわいくらいにやさしかったあの子のあたまに、のせてあげたかった。あの頃。わたしは、きみと、あの子だけを愛せる星に生まれたかったと思うの。雑念のようにすりこまれて、オートマティックに表面化する慈しみの中身が、腐った果実みたいにすかすかになって、静かに朽ちてゆくのを俯瞰しているときの、あの、途方もない虚しさ。迷い込んだクマが、どうか、おだやかに山へ帰りますようにという、ささやかな祈り。忌むべきは、生きものが、血を流すこと。うばい、うばわれること。きみが、きみでなくなること。あの子との思い出が、色褪せていくこと。いつまでも消えない、夜空の月が、満ち欠けを忘れて、ただぼんやりと、そこに貼りついている。五月。
わたしたちの夜深け