「網戸」「プロトタイプ」「自制心」
三題噺「網戸」「プロトタイプ」「自制心」
しとしとと降り続く雨。
網戸越しに外を眺めるけれど、そうしたからといって天気は変わらない。
朝から続く雨は、午後になってもその様相を変えず、庭の草木に降り注いでいる。
いつの間にか日が落ちたらしい。
雲越しとは言いえ日中は明るかった部屋の中も今や暗闇に覆われていて、携帯端末から漏れる光だけが顔をぼんやりと照らしていた。
この板状の端末が発売された際、プロトタイプとして開発された機種らしいのだけれど、今や時代遅れで動作も遅い。
けれどなかなか機種を変える気にはなれず、今もこうして手の中で弄んでいる。
もしも晴れていれば、なんて妄想をしてしまいそうになるけれど、その一歩手前の所で自制心が働いてしまう。
いっそのこと、空想の世界に逃げられればどれだけ楽だろうか、陰鬱な気持ちはこの天気のせいなのか、それとも。
いいや、とそんな考えを打ち消すように頭を振る。
きっと晴れていたとしても、私はここで膝を抱えているに違いない。だから優柔不断な私はここで携帯端末を眺めつづける事しかできない。
願わくはこの空っぽの気持ちに雨水が溜ってくれるなら、とそんな的外れな事を思って空を睨みつけるけれど、目の前に広がるのはどこまでも黒い景色。
雨は依然として世界を濡らしてゆくだけだった。
「網戸」「プロトタイプ」「自制心」