また、その日まで……

また、その日まで……

長い長い道のりで、一休みをする場所を見つけた時……

人は生き続ける事を忘れるとき、立ち止まる癖がある……


何年かぶりにココへ来た。
来たい理由も分からない。

ただただ、気持ちに穴が空き
誘われるようにココへ来る。

決して不幸な生き方ではないと思う、
かと言って幸せでもなく、
何もかも満たしていない時、
気が付く今はココに居る。

必ずこんな時は、
とても静かな時が過ぎ、
無念無双と心に響く。

でもココは、
お寺でもなく、
学校でもなく、
私が見つけた私の場所。

ある日を境に年一度、
いつもは立ち寄らないこの公園、
入り口奥の水飲み場、
その隣のベンチに座る。

ベンチの下のタンポポの、
綿毛が舞うこの季節、
ソレを見たくてココに居る。

これから何処へ行くのかなぁ?
君の親は何処から来たの??
そしてこれから……

受け継ぐ司令か宿命か?
また旅に舞い出るこの時この瞬間、
綿毛に問う心の声が、
自問自答の声になる、
穴の空いた心にこだまして、
今の我を取り戻す。


稀に吹く風に、
舞い上がる綿毛を見届けて、
私は公園をあとにした。

あれから10数年……
町の景色も一変した。

一人暮らし、失恋、結婚、両親の死、
私も随分と歳を重ねた……
あの公園だけは相変わらず、
まだココに居てくれ誘われた。

綿毛の舞うこの季節、
今の自分を確かめた、
これからも私の、
大事な年中行事。

白髪混じりの頭のてっぺん、
シワの増えた荒れた手で、
幼子と手を繋ぎ、
今日は2人でココへ来た。

季節の風は綿毛を飛ばす、
毎年この時に、
君も変わらずで私も変わらない。

頬に綿毛がいっ時留まり、
元気かい?……
元気だよ!
さぁ出発だっ!!

綿毛の声がした瞬間に、
2人の頭上の空に舞う。

数分続いた沈黙のあと、
2人は無言で歩き出す。
幼子はわかったように、
私の手を強く握る。

さぁ私もまたこれから……
3人分の人生を歩いてゆこうと、
2人公園をあとにした。

また来ようね?
うん、またね!

それまでの2人に笑顔が戻る、
また来年、
忘れた笑顔に会いに来ようー

次に会う綿毛に約束する、
また、その日まで……

また、その日まで……

その場所は、自分との約束の地となる。

また、その日まで……

人生は長いレールの上に在る。 人の悩みも苦しみも、昔から変わらない自然のありのままの姿が洗い流してくれるだろう……

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-05-05

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