初夏

あおい はる

 春がおわったから、しろくまは、じぶんの国に帰ってしまった。あれは、春仕様の、春のためだけのしろくまだったらしい。つまりは、夏仕様の、夏のためだけのしろくまも、秋のも、冬のも、そんざいしていて、わたしが恋をしたしろくまは、春のしろくまだった。そういえば、桜餅をたべながら、しろくまは云っていた気がする。ともだちのしろくまは、夏に、男の子とつきあっていました、と。では、その、男の子とつきあっていた、しろくまは、夏のしろくまということだ。ちなみに、しろくま的には、恋愛において、性別・種族など問題ではなく、にんげんとは、性別を重んじる生きものなのですねと、妙に感心していて、わたしは、でも、やっぱり、男の子同士とか、女の子同士というと、すこしだけちがう世界のことのように思えていた。たとえば、わたしがともだちの、ひなのや、うたちゃんと恋愛をする、という想像をしてみても、うまくはできないし、となりの席の関谷くんと、そのともだちの海野くんが、というのも、よくわからない、という感じだった。春のしろくまがいなくなった、五月になっても、微かに、春のしろくまの気配はして、どうせならば、あとかたもなく消えてほしかったと、わたしは空をにらんだ。この街には教会があって、ときどき、教会のひとが鐘を鳴らした。しろくまは、春の空気を伝って、穏やかに間延びするこの音がいいのだと称賛しながらも、冬の、空気が澄んでいるときに聴いてみたいです、ともぼやいていた。きっと、もうすぐそこに、夏のしろくまが来ているのかもしれないと想うと、ちょっと泣けた。

初夏

初夏

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-05-04

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