海星が宿る
ネムの人差し指、爪にある、星。タトゥーのように、光らないで、そこに、ひっそりとある。わたし。夜明け、海底で揺蕩う頃の、ときどき、だれかに呼ばれているような感じに、そっと触れる、右耳。遠い太陽。手をのばしても、届かないもの。ぜったいに叶わない恋に似ている。紅茶は、ネムが淹れてくれるのがいちばんおいしい。お湯の温度、茶葉の量、蒸らす時間、ていねいにきっちり、はかるネム。角砂糖をいれたとき、あらわれる波紋に、おしよせてくるのは漠然とした不安。でも、レモンの輪切りを浮かべた瞬間、ざわざわしていた心が、凪ぐ。ふしぎと。シンプルな、パウンドケーキのお供に、ネムの紅茶と、読みかけの文庫と、砂時計。窓越しに、あらゆる生命の気配がして、ただ沈殿するばかりの寂しさ。深海魚、奇妙だといわれている、その、姿形は、でも、彼らが生きてゆくために神さまがあたえてくれた奇蹟だと、ネムは云う。にぎやかしい、テレビをにらんで。
海星が宿る