四月のエンド

あおい はる

 波の音がした。海なんてないのに。ぼくは、あの、はんぶん腐りかけていた、怪物を、すくうことはできなかった、夜明けの森で、かなしい、という気持ちの在り方について、粛々と考えながら、突っ立っていただけである。じぶんには、かんけいのない、友人でも、血縁でもない、怪物が、死に転がり落ちてゆく様を、手も差し伸べずに傍観していた、のは、罪になるのか。わからないまま、きみに連れられて入ったホテルで、きみが、あたらしいきみに生まれ変わるために、古い皮を剥いで、生まれたての赤ん坊のように赤い、きみを、ソファに座って見つめながら嘔吐するという、じつに最低最悪な日だったと覚えている。遠回しながら、絶妙に胸を抉られた気分で、この心痛を癒すために、さいきん無性に食べたかったミルクレープをケーキやさんに買いに行ったところ、売っていなかった。ショーケースには季節の果物をつかったケーキと、定番のものが並ぶばかりで、ミルクレープのミの字もなかった。ケーキやをはしごするのもめんどうで、ぼくは、この筆舌し難いやるせなさを抱えたまま、家に帰って、すこしだけ眠って、ぼくのことをきまぐれながらもやさしく抱いてくれる、となりのしろくまの家に行って、いっしょにカップラーメンを食べて、テレビを観て、すこしだけ恋人のまねごとみたいな行為をして、ふたたび家に帰った。ホテルに置き去りにしてきた、あたらしいきみから、何度も着信があったけれど、無視をつらぬいた。あの、怪物のことは、ちょっと気がかりだったけれど、でも、ぼくにはなにも、できないのだから、もう、あの森には行かないと決めた。

四月のエンド

四月のエンド

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-04-29

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